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第5話

「あのー……。君、もしかして、三澄みすみ かおるさん?」


 気がつくと、先ほど注目していた男子生徒が目の前にいた。

 何度か声をかけられていたようだ。いつも冷静沈着を心がけている私だが、会長が絡むとつい、怒りで我を忘れてしまうことがある。

 反省しつつ、平静を装って顔を上げた。彼は近くで見るとやはり背が高く、切れ長の目が緊張してこわばっているように見えた。


「ここへは、生徒会の仕事で……だよね?」

「……ええ。急遽、メンバー交代になりましたので。失礼ですが、あなたは?」


 なぜそのことを知っているのか。当事者である私でさえ知らなかったことを、一般の生徒たちが知っているはずがないのに。

 ネクタイの色を見ると三年生のようだが、面識はない。

 全校生徒の名と顔を覚えたという妖怪みたいな会長ならば、一目で誰なのかわかるのだろう。その点、私は、部活や委員会などのトップのような目立つ生徒しか、把握できていなかった。

 彼は私の持っているプリントを見て、小声で何か言った。


「まさか、本当に……?」

「え?」


 聞き返すと、彼は慌てたように、左腕につけた腕章を指さした。


「あ、ああ、ごめん。ええと、俺は空手部の鈴城すずしろ 亜樹あき。生徒会だけじゃ足りないからって、君のところの会長に助っ人を頼まれたんだ。各ルートは二人以上でまわることになっていて、この辺は君と俺が担当するみたいだね。短い間だけど、よろしく」


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