「小物相手とはいえ、今日は20人を2人で片付けたそうだな?」
俺達の代わりに悪党を片付けてくれて礼を言うと、真顔で告げた。皮肉ではなく、衛兵長は本気で2人に感謝しているらしい。
小蝿のように湧いてくる悪党共を、守備隊だけで取り締まるのは大変な苦労であったのだ。
「この街で悪さをしていながらガル老師に手を出すとは、間抜けな奴らでしたな」
「たまたま田舎者が集まったのか、たかが爺と侮ったものか? 対魔術師戦の何たるかも知らぬ連中じゃったよ」
「ふうむ。おかしな話ですな。よそ者が混ざっていたのだろうか?」
衛兵長が首を傾げた。
地元の盗賊がよそ者と手を組むなど、普通ではありえないことだ。ガル師は口に出さなかったが、ネルソンが運んでいたという「物」に原因があるのかもしれない。
「旅の疲れも癒えぬ内から引き留めてすまなかった。引き取ってもらって結構だ」
これ以上聞き出せる情報は無いと見切りをつけ、衛兵長は一同を帰した。
「やれやれ。ようやく解放されたぜ」
詰め所を出るや、ダールは大きく背伸びをした。曲がりなりにも命を狙われた直後である。事情聴取の間も気が張っていたのであろう。
「ご苦労じゃったの。今日はゆっくり休むがよかろう」
ガル老師がダール達を
「ここでお別れだな」
クリードが脚を止めて言った。
「世話になった。暫くはこの街で用心棒をして暮らすつもりだ。何かあったら口入屋で探してくれ」
口入屋とは現代でいう職業斡旋所のような所であった。クリードのように人に雇われて働く人間の情報が自ずと集まっていた。
「俺もいずれ口入屋さんのお世話になると思います。また会いましょう」
ステファノは旅を通じて知己となったクリードに別れを告げた。
表通りを外れる所でガル老師一行とも別れ、ダールとステファノは厩に向かった。ステファノの
「何もねえが、まあゆっくりして行け」
ダールの住処は
言葉の通り、狭い部屋にはベッドの他は殆ど何もなかった。盗まれる物が無いので戸締りも最低限だった。
「すみません。世話になります」
ステファノは律儀に頭を下げた。宿に泊まればそれだけ金が出て行く。狭かろうと汚かろうと、泊めて貰えるだけでありがたいことであった。
馬の世話を終え体を清めると、後は飯を食って寝るだけだ。旅の疲れで遠出をする気力もなく、近所の飯屋で夕食を掻き込むと二人は早々と眠りに就いた。
次の日、ダールは1日骨休めをすると言って朝から寝坊を決め込んだ。馬の世話はステファノが代わってやり、落ち着いた所でネルソン商会を訪ねて行った。
薬種問屋という商売柄か、ネルソン商会の店構えは地味な物であった。間口も建物の高さも控えめで
「よう、ステファノじゃないか。よく来たな」
店のドアを開けて店内を覗き込んでいると、ネルソンの息子コッシュが声を掛けて来た。
「コッシュさん、おはようございます」
「旅じゃ世話になったな。昨夜はよく寝られたか?」
「はい。早めに休んでぐっすり。お陰で疲れも取れたようです」
「そいつは何よりだ。親父に話があるんだろ? そこに座ってちょっと待っててくれ」
「おい。こいつはうちの知り合いでステファノだ。お茶でも出してやってくれ。俺は親父の都合を聞いてくる」
コッシュはてきぱきと使用人に茶の接待を命じると、自分は奥へと歩いて行った。
「すみません。頂きます」
出された紅茶に口を付けながら、ステファノは見慣れぬ店内を見回した。薬種問屋という商売は初めて目にする。
薬草の匂いが混ざり合っているのか、店内には独特の香りが漂っていた。