「爺さん、大人しくしろよ。おかしな真似しやがったら、体中から矢が生えるぜ!」
脅しの意味であろう。老師の足元に矢が1本飛んできた。
ばちいと光が弾けた。飛矢が雷に撃たれて炸裂したのだ。
「小僧。舐めるなよ――」
いつもの
木が燃えた焦げ臭い臭いと、オゾン臭が辺りを漂う。
「今すぐ武器を捨てて降参するなら生け捕りにしてやろう。逆らうなら1人残らず消し炭じゃ」
ガル師は路傍の石ころを見る目で賊たちを見回した。
「粋がるな。こっちは20人いるんだぜ!」
「10人だな。半分は俺が斬る」
当たり前の事実を語る口調で、クリードが言葉を挟んだ。
「早よ決めんか。日が暮れるぞ」
「うるせえ。てめえら……」
賊は台詞を言い終わる事ができなかった。
「雷電!」
ガル師が突き出した右手から稲妻が走り、賊の胸を貫いた。
「天より発し地に帰れ。
頭上の宙空から雷が続けざまに落ちた。雷は狙い
凄まじい光と音を伴う魔術に正面の敵勢は気を取られていた。はっと我に返った時には、クリードが2人目に血
「ぐわあっ!」
「うおっ!」
気を取り直し、何とかクリードを取り囲もうと動き出したが、斬られた仲間が邪魔になって上手く動けない。
「あがっ!」
体勢を崩しながら回り込もうとする所を待っていたクリードに首筋を撫で斬られる。
「うっ!」
慌てた弓持ちが木の陰から飛び出して狙いを付けたが、クリードは
「糞っ!」
クリードは向かってきた敵の腹を蹴っておいて、相手の剣を奪った。
「うわあーっ!」
後はもう単純作業と変わらなかった。慌てる賊を、クリードは端からつい、ついと斬って行く。
最後の1人、逃げようとした賊の首筋を後ろからすいと斬り付け、クリードは油断なく身を引いた。動かない死体も省かず、全員に止めを刺して歩く。
生き残りがいないことを確認し、クリードは初めて構えを解いた。
「そっちは片付いたかの?」
草むしりでも終えたかのように、気負いなくガル師が声を掛けた。
「無事に斬り終えました」
2人の二つ名持ちにとってこれは戦いの中に入らないのだ。
「こっちもこんがり焼き上がったわい。今日は雷が通り易かったようじゃ」
ガル師の戦いはクリードのそれにもまして一方的だった。
「魔術師が相手だというのにじっとしておるとはの。
魔術師に距離を取られては戦いにならない。そんなことは軍事に携わる者なら常識であった。
「田舎やくざでも集めたか。
クリードが剣と身を清めるのを待って、駅馬車は改めて魔術都市へと動き出した。
「老師、お聞きしてもいいですか?」
ステファノは助手席からガル師に声を掛けた。
「おう、良いぞ。何でも尋ねてみよ、小僧」
老師は活躍の場を得たことで機嫌が良かった。
「老師が馬車を降りる前、探知の魔術を使いましたか?」
あの感覚、触れる物は無いはずなのに確かに何かが自分を通り抜けていく感じ。あれはどういう理屈だろう。
「そうじゃ。並みの術者だと正面にいる相手しか探れんのじゃが、さすがワシじゃの。周囲すべての様子を知ることができるんじゃ」
「やはりそうでしたか。何かに体を触られたような気がしました」
「ふむ。お主、魔力に対する勘が鋭いようだの。魔術に向いた体質かもしれん」
「本当ですか? 本当ならば嬉しいのですが」
「本当じゃとも。魔術師になりたいと言ったの? まず、初めの分かれ道は越えられるようじゃ」
感じることができる者とできぬ者。後者はどうやっても魔術師にはなれない。味覚がなければ料理人になれないことと同じであった。