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第19話 クリードの剣。

 紙とペンを借りるとステファノはペンを走らせた。


「これが盗賊の頭領です」


 簡単な線画であったが、特徴をよく捉えていた。


「間違いないか?」


 衛兵長はまだ疑っていた。


「似ているな」


 クリードが呟いた。


「俺の目の前で喉を突いて死んだ男に間違いない」


 直接戦ったクリードが言うことである。ようやく衛兵長も真剣になった。


「待て。よく見せてみろ」


 衛兵長は似顔絵を引ったくると、目の前に掲げた。


「この顔――見覚えがあるぞ。おい! 手配書の束を持って来い!」

「はっ!」


 副官が急いで手配書を取りに行った。


「こいつはとんだ大手柄かもしれんぞ」

「旦那、あいつがお尋ね者だったってことですかい?」


 ダールが尋ねた。


「多分な。私が覚えているくらいだ。大物のはずだ」

「あれは人を斬り慣れた奴だった」


 クリードが思い出すように言った。


 戻って来た副官は、手配書の束を衛兵長に渡した。


「こちらであります」

「よし。どれどれ――」


 衛兵長はページをめくっては、ステファノが描いた似顔絵と見較べた。


「盗賊団だな、盗賊団――。どいつだ?」


 束の中程までめくると、衛兵長の手が止まった。


「こいつは――。そうだ、こいつだ!」


 引き抜いた手配書には、確かにステファノの画にそっくりな顔が描かれていた。


「山犬のルチアーノ」


 手配書にはその名があった。


「強盗、殺し、放火……。何でもありだな。裏組織の傭兵だと?」


 衛兵長が手配書を読んで唸った。


「切捨てて良い輩だったようだな」


 クリードが言った。


「もう一度襲われた場所を地図で示してくれ」


 ダールに場所の確認をさせると、衛兵長は検証のために5名の衛士を送り出した。


「確かなことは検死ができてからの話だが、クリード殿には褒賞が出るだろう」


 呪タウンに着いたら衛兵所に連絡するように言い渡されて、3人は解放された。


 クリードと別れ、ダールとステファノは街の厩に宿を取った。盗賊に命を狙われるという恐ろしい経験は、かなり二人を疲れさせていた。


 それでも明日はまた旅を続けなければならない。馬の世話を終え、汗を拭い落とした2人は重い脚で食堂へ向かった。

 街の食堂に着いてみると、既にクリードが席に着いていた。


「クリードさんもお食事ですか?」

「こちらも今来たところだ」

「ご一緒していいですか?」

「構わんさ。旅の仲間だからな」


 小さな街の数少ない食堂。この3人が居合わせたのも偶然とは言えない。取り調べを受けた顔ぶれが再会した恰好である。


「大変な1日でしたね」


 飯を待ちながらステファノが話し掛けた。


「今時珍しい大掛かりな盗賊だったな」


 クリードにも驚きがあったようだ。


「あの人数で護衛もない馬車1台。舐めて掛かってくれたのが幸いだった」


 伏兵もなしに横1列の隊形。確かに油断していたのだろう。


「それにしても旦那は強いね」

「たかが野盗。斬って当たり前だ」

「軽く剣を振っているようにしか見えないのに」


 ステファノは思わず感じたままを口にした。


「振っているように見えたか――。まだまだだな」


 クリードは微笑んだ。


「我が師の剣は相手に触るようにしか見えなかった」


「旦那のお師匠でやすか?」

「うむ。ジョバンニという名の剣士であった。『音無し』と呼ばれた達人だ」


 相手に打たせずに戦いを制する。剣を打ち合わせることがなかったので、音無しと異名を取ったらしい。


「我が師であれば、俺のように筋や骨を断つことなく血管ちくだだけを切って10人の賊を倒していたであろう」


 10人を相手の乱戦でそんなことができるものだろうか。できるとすれば、それは確かに達人と呼ぶしかない。


「師の差し出す剣の先に、敵が自ら首を寄せて来るようであった」


 自分など足元にも及ばないと、クリードは卑下して言った。


「クリードさんもそういう剣を目指しているんですか?」

「おこがましいことではあるがな。いつかはそうありたい」


 それまでは手数で補う無様な剣を使うと、クリードは語った。

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