紙とペンを借りるとステファノはペンを走らせた。
「これが盗賊の頭領です」
簡単な線画であったが、特徴をよく捉えていた。
「間違いないか?」
衛兵長はまだ疑っていた。
「似ているな」
クリードが呟いた。
「俺の目の前で喉を突いて死んだ男に間違いない」
直接戦ったクリードが言うことである。ようやく衛兵長も真剣になった。
「待て。よく見せてみろ」
衛兵長は似顔絵を引ったくると、目の前に掲げた。
「この顔――見覚えがあるぞ。おい! 手配書の束を持って来い!」
「はっ!」
副官が急いで手配書を取りに行った。
「こいつはとんだ大手柄かもしれんぞ」
「旦那、あいつがお尋ね者だったってことですかい?」
ダールが尋ねた。
「多分な。私が覚えているくらいだ。大物のはずだ」
「あれは人を斬り慣れた奴だった」
クリードが思い出すように言った。
戻って来た副官は、手配書の束を衛兵長に渡した。
「こちらであります」
「よし。どれどれ――」
衛兵長はページをめくっては、ステファノが描いた似顔絵と見較べた。
「盗賊団だな、盗賊団――。どいつだ?」
束の中程までめくると、衛兵長の手が止まった。
「こいつは――。そうだ、こいつだ!」
引き抜いた手配書には、確かにステファノの画にそっくりな顔が描かれていた。
「山犬のルチアーノ」
手配書にはその名があった。
「強盗、殺し、放火……。何でもありだな。裏組織の傭兵だと?」
衛兵長が手配書を読んで唸った。
「切捨てて良い輩だったようだな」
クリードが言った。
「もう一度襲われた場所を地図で示してくれ」
ダールに場所の確認をさせると、衛兵長は検証のために5名の衛士を送り出した。
「確かなことは検死ができてからの話だが、クリード殿には褒賞が出るだろう」
呪タウンに着いたら衛兵所に連絡するように言い渡されて、3人は解放された。
クリードと別れ、ダールとステファノは街の厩に宿を取った。盗賊に命を狙われるという恐ろしい経験は、かなり二人を疲れさせていた。
それでも明日はまた旅を続けなければならない。馬の世話を終え、汗を拭い落とした2人は重い脚で食堂へ向かった。
街の食堂に着いてみると、既にクリードが席に着いていた。
「クリードさんもお食事ですか?」
「こちらも今来たところだ」
「ご一緒していいですか?」
「構わんさ。旅の仲間だからな」
小さな街の数少ない食堂。この3人が居合わせたのも偶然とは言えない。取り調べを受けた顔ぶれが再会した恰好である。
「大変な1日でしたね」
飯を待ちながらステファノが話し掛けた。
「今時珍しい大掛かりな盗賊だったな」
クリードにも驚きがあったようだ。
「あの人数で護衛もない馬車1台。舐めて掛かってくれたのが幸いだった」
伏兵もなしに横1列の隊形。確かに油断していたのだろう。
「それにしても旦那は強いね」
「たかが野盗。斬って当たり前だ」
「軽く剣を振っているようにしか見えないのに」
ステファノは思わず感じたままを口にした。
「振っているように見えたか――。まだまだだな」
クリードは微笑んだ。
「我が師の剣は相手に触るようにしか見えなかった」
「旦那のお師匠でやすか?」
「うむ。ジョバンニという名の剣士であった。『音無し』と呼ばれた達人だ」
相手に打たせずに戦いを制する。剣を打ち合わせることがなかったので、音無しと異名を取ったらしい。
「我が師であれば、俺のように筋や骨を断つことなく
10人を相手の乱戦でそんなことができるものだろうか。できるとすれば、それは確かに達人と呼ぶしかない。
「師の差し出す剣の先に、敵が自ら首を寄せて来るようであった」
自分など足元にも及ばないと、クリードは卑下して言った。
「クリードさんもそういう剣を目指しているんですか?」
「おこがましいことではあるがな。いつかはそうありたい」
それまでは手数で補う無様な剣を使うと、クリードは語った。