「本当のことなんじゃ。せいぜい、特定の魔術を何回行使できるかといったことで見当をつけるしかない」
「左様ですか」
「だが、ややこしい話でな。同じ魔術でもたやすく使える者もいれば、必死に集中せねば使えぬ術者もいる。向き不向きなのか、魔力量の多寡なのか判別がつかんのじゃ」
なるほどそれでは公平な比較はできないであろう。
「せめてもの判別が、上級、中級、初級という魔術のレベル分けという訳だ」
今日は機嫌が良いらしく、老師は素人にもわかりやすく説明してくれた。
「いかに魔術行使の技巧に長けようとも、一定量以上の魔力が無ければ中級魔術以上は使えん。自ずから、上級、中級という線引きが、術と術者の両方にされるようになった」
「上級魔術師と呼ばれる術者は、極めて稀だと伺いました」
ネルソンはその1人であるガル師への尊敬を込めて言った。
「そうじゃの。初級にせよ魔術と名のつくものを使えるのが、100人に1人。その中で中級魔術を使える者が、さらに100人に1人」
中級魔術師は1万人に1人ということになる。
「上級魔術師は、その内100人に1人ということでしょうか?」
「いや。上級となると話が違ってくるの」
「それはどのように?」
「上級魔術師という存在は、変種みたいなもんじゃ。この国では儂を入れて3人だからの」
「たった3人ですか?」
「驚くじゃろ? 中級なら1000人もおるというのに」
「白熱」サレルモ、「
「ワシの二つ名は雷魔術からじゃが、『白熱』は火魔術、ハンニバルは『土魔術』からじゃ」
上級魔術師といえども、使用できる上級魔術は得意属性の物だけである。それほどに上級魔術、上級魔術師とは稀有な存在であった。
「師の広域魔術『
「100人倒したのはまことじゃがの。さすがに1発では無理じゃわい。3、4発は撃ったかの」
一撃で2、30人を倒す。この国ではガル師だけに可能な超絶技能であった。
「雷魔術は攻撃範囲の広さが特長だからの」
全盛期には4発続けて行使できた万雷であったが、今では2発の行使がやっとという状況であった。そこは国の軍事力に関わる内容なので、ガル師としても軽々しく話せることではなかった。
「上級魔術者の認定というのは、どのようにするものですかな?」
ネルソンもあえて深入りすることなく、飽くまでも世間話の範囲で質問を投げていた。上手いもんだと、ステファノは感心して聞いていた。
「そこはほれ。毎年年末に魔術競技会があるじゃろ? そこで新進気鋭の魔術師たちに技を競わせるのよ」
「ははあ。やはりあの競技会にはスカウトの意義もあるんですな?」
「無論のこと。主催者は国王陛下になっておるが、スポンサーは軍じゃでな」
「賞金と名誉だけがゴールという訳ではありませんな」
魔術競技会で決勝まで進めれば、一流魔術師への道が開けるとはステファノの知識にもあった。軍の子飼いなり嘱託になるということであろうか。
ステファノも魔術をマスターし、いずれは競技会という表舞台に立つ自分を夢見ている。その前に、まず魔術を学ぶ算段が必要であるが。
「多くの若者が優勝を目指して研鑽している訳ですな。ところで、先ほどお聞きした魔力の総量が生まれつきのものだとしたら、努力をしても意味はないのでしょうか?」
「良い質問だの。表向きの答えは簡単じゃ。無駄ではないが、多くは期待できん」
「多くと言いますと?」
「後天的に魔力量が増えるのは、およそ10人に1人と言われておる。残りの9人にとって、努力はほぼ無駄になる」
「ほぼですか」
「ふむ。魔力量が伸びずとも技巧は上がるでな」
術発動の滑らかさとか、威力の増大など、術者としての向上は期待できるが、根本的なレベルアップにはつながらない。
「では、技巧に長けた初級魔術師が中級魔術師に勝つということも……」
ネルソンが言いかけると、ガル師はぴしゃりと答えた。
「それはない。最高の初級魔術師であろうと、最低の中級魔術師に勝つことはできぬ。魔術のクラス差とは、それほどに大きい」