ステファノにとって、7人分の料理等何ということはなかった。小さいとはいえ飯屋の仕込みを毎日手伝ってきたのだ。
朝食用に残した鍋を馬車に仕舞い、焚き火を
早々に毛布を被って寝に入ったダールと離れて、ステファノは野営地の周りを見回った。まだ、
ダール以外はまだ寝ようとする者はおらず、銘々に時を過ごしていた。
「そうではない。もう少し横を強く圧すんじゃ!」
魔術師だというガル師が
「俺がやってみましょうか。親父に揉まされて慣れてるんで」
「ふむ。折角じゃ、やってもらおう」
手拭いで手を拭くと、ステファノはガル師の腰を揉み始めた。ダールの時よりは少し軽目にして置く。
「何やら手加減をしておらんか? 遠慮なく、ぐいっとやってくれ!」
「そうですか? じゃあ、もう少し強めで」
筋肉の隙間に指を入れるようにして、固まった部分を解し、伸ばして行く。
「おお、そうじゃ。遠慮するなよ。うぅー」
気持ち良いのか、痛いのか、くぐもった声を出していたガル師だったが、5分もするとぐったりと脱力し、寝息を立て始めた。
「寝ちゃいましたか? 揉まれ慣れてるのかな? 他も疲れてそうなんで、もう少し揉んどきましょう」
小僧さんに目配せしながら、ステファノは肩や
「本当は温泉に入ってから揉むと、効果が高いそうですよ。俺はまだ入ったことないけど」
「ありがとうございます。助かりました。いつもマッサージが大変で」
小僧はホッとした顔をしていた。小さい体で他人を揉むのは辛かろう。
ステファノは寝床に戻って焚き火の火を
「よう。美味いスープだったぜ」
隣に陣取った商人の息子が話し掛けてきた。
「俺はコッシュ。もう寝ちまったが、親父はネルソン。よろしくな」
「どうも。俺はステファノと言います」
「あんたがいてくれて助かるぜ。二等馬車の旅なんざ碌なもんじゃねえと思っていたが、どうして。大分楽をさせて貰ってるよ」
「大したことはできませんが」
「親父がよ。あんたのことを褒めてたぜ」
コッシュはちらりと父親の寝姿に目をやった。
「え、そうですか?」
「ああ。動きに無駄がないし、先が読めているってな。口うるせえ親父にしては、随分な誉め言葉だぜ」
「へへ。いつも親父に怒鳴られてるせいですね。もたもたすんな、頭を使えってね」
「どこも親父ってのは同じだな。あんたは家を出たんだろ? 羨ましいぜ」
「できが悪いんで、違う生き方をしてみようかと」
「耳が痛えや。俺にはできそうもねえぜ」
「コッシュさんのお店は呪タウンにあるんですか?」
「ああ。親父の店だがな。薬種問屋なんて陰気な商売さ」
店構えこそ小ぶりだが、その道ではネルソンの名は高い信頼を得ていた。
「薬種っていうと、薬草とか、
「ああ、そうだ。触媒なんてよく知っているな」
「旅の魔術師……
「合ってるぜ。そんな付き合いでガル老師とは顔見知りでな」
「あのお爺さんですね。有名な魔術師さんなんですか?」
「有名どころか、一流さ。今は王立アカデミーの名誉教授って肩書だが、どうして。バリバリの現役だぜ」
「それは凄いですね! ネルソンさんは『雷神』って呼んでましたが」
「ガル師の二つ名さ。雷魔術の使い手で、魔物の群れを一撃で倒したとか、戦では一晩で100人の敵を倒したとか、武勇伝はいくらでもあるらしい」
「1人で100人ですか? 途轍もないですね」
「そうだろ? 100人殺しの名を聞きゃあ、盗賊なんぞ裸足で逃げ出すってもんさ」