「盗賊なんてそうそう食っていけるもんかよ」
馬車から馬を外しながら、ダールが言う。
「この馬車を襲うとするか? 大人だけでも男6人いるぜ」
「俺も大人の内ですか?」
「そこはどうでもいいだろ? 1人や2人の人数じゃ馬車は襲えねえ」
「はい」
「だがよ、大人数を集めちまったらすぐに食い詰めるぜ」
毎日追い剥ぎができる訳ではない。人数が多ければそれだけ生活費も掛かる。
「せいぜい4、5人が関の山だ」
「それじゃ返り討ちが怖くて、馬車を襲うのは無理ですね」
「そういうことだぜ。歩きの旅人を狙おうったって、大金を持ち歩く奴なんかいるもんか」
「金があるなら馬車に乗りますね」
「結局まともには成り立たねえんだ。盗賊なんてのは小さな村を襲って、食い物を奪って逃げるような連中のことさ」
逃げ場のない村人が、盗賊の食い物にされる。
「卑怯な奴らですね」
馬に水を与えながらステファノは腹を立てた。
「けっ! 盗賊にまともな奴がいるもんかよ。ろくでなしのツマハジキさ」
そう言い捨てると、ダールは客の所へ行き野営用の荷物降ろしを手伝った。
その間にステファノは自分達の荷物を降ろし、野営の拠点を作り始めた。石組みの
「銘々に竈を囲んで陣取ってくだせえ。すぐに夕飯の支度をしやすんで」
「ダールさん、俺は
「おう、すまねえな」
「ならば俺も行こう」
剣士のクリードが同行を申し出た。
「明るい内から野盗も出んだろうが、獣がいないとも限らんからな」
「クリードさん、すみません」
「気にするな。2人で拾った方が早く終わろう」
ステファノはクリードを引き連れて、草むらの奥へ進んで行った。
薪はすぐに2抱え程も集まった。ステファノは腰の物入れからロープを取り出し、薪を手早く束ねて担げるようにした。クリードと分け合って、更に先へ進む。
「ステファノ、薪はまだ足らんのか?」
「ちょっと目当ての物があって……」
そう言うと、1本の木に近付いた。
「ああ、見つけました」
「何がある?」
「これです」
ステファノが指し示したのは幹に巻き付いたツルであった。
「何だ? ツタか?」
葉が枯れてしまっていて、何の植物だか見分けが付かない。
「山芋です。スープの具になればと思って」
ステファノは木の根元にしゃがみ込んで、地面を掘り始めた。慣れた手付きで土を取り除いていく。
「良し! まあまあですね」
15分程でステファノは山芋を掘り出した。
「へへ。7人いるから2、3切れずつかな」
ステファノは大切そうに山芋を腰にぶら下げた。
「さ、帰りましょう」
野営地に戻ると、既に毛布や帆布を敷いて夫々の寝床ができ上がっていた。
「ダールさん、戻りました」
「おう。遅かったな――ああ、そいつを掘ってたのか?」
目敏く腰の山芋を見付けて、ダールが言う。
「はい。すぐスープを作ります」
ステファノが火起こしを始める一方で、クリードは自分の寝床を用意した。毛布を広げるだけの簡単なものだったが。
大鍋でベーコンを軽く炒めたところに根毛を焼いて輪切にした山芋を加える。煮崩れしにくいように、切り口をベーコンの油で炒めた。
「水はそこの革袋のを使え」
ベーコンの芳ばしい香りが、食欲をそそる。後は水を加えてしばらく煮込むだけだ。
「そいつは何だ?」
ベーコンと一緒に炒めていた物を見とがめて、ダールが尋ねた。
「野草と一緒に見付けてきたハーブです。肉と合うんですよ」
「芸が細けえな」
水を加えてしばらく煮込んだところで、ステファノは鍋に千切った野草を放り込んだ。
「後は1分蒸らすだけですから、すぐに食べられますよ」
声を掛けなくとも、香りに惹かれて客は皆鍋の周りに集まっていた。
「1つずつ黒パンをどうぞ」
カチカチのパンを手渡しながら、夫々の皿にスープを装ってやればステファノの仕事は終わりだ。客達が食事を始めた傍らで自分の寝床を
冷めたスープで黒パンを喉に流し込む。ステファノは一番先に食事を終えた。