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第7話 二日目の朝。

 ワインの効用か、それとも旅疲れのせいか、ステファノは厩に戻って横になるとすぐに眠りについた。藁の寝床は初めてだったが、家のベッドと寝心地はさほど変わらない。乾いた藁は、意外に心地よかった。


 翌朝、ステファノは日の出とともに目を覚ました。長年の習慣で、勝手に目が覚める。


 かわやに行った後、井戸端で顔を洗い、身体を拭いた。桶に水を汲むと、馬たちの所に運んでやる。今日も1日馬車を曳いてもらわねばならない。


「よろしくな」


 馬を撫で、桶の飼葉かいばを新しくしてやる。馬が飼葉を食んでいる間に、馬糞を片付け、寝藁を入れ替える。これから出て行くうまやではあるが、使わせてもらったからには綺麗にして返したかった。


「手を抜いたら、親父に殴られるからな」


 そう言って、笑みをこぼした。


 30分かけて厩を片付け、もう一度井戸端で汗を流してからステファノはダールの所へ戻った。


「おう。もう起きてたのか」


 ダールは紙巻き煙草を吸いながら声をかけてきた。


「はい。馬の様子を見てきました。水と飼葉をやってあります」

「うん。そいつは気が利くな。どれ、俺も顔を洗ってくらあ」


 煙草をくわえたまま、ダールは立ち上がった。首に巻いたバンダナが手ぬぐい代わりだ。

 ダールがいない間にステファノは庭の隅でかまどに火を起こす。コーヒーを淹れるためだ。


「やかんが置いてあるから、これを借りよう」


 やかんの湯が沸いてきたら、そこに粗びきのコーヒー豆を2人分放り込んだ。

 コーヒーの香りが辺りに立ち込めたころ、ダールが戻ってきた。


「コーヒーの良い匂いがするぜ」

「そろそろできます。ダールさん、カップはありますか?」

「あるともさ」


 ダールは自分の荷物にぶら下げていたカップを外して差し出した。

 ステファノは自分のカップから少量の水をやかんの中へ静かに注ぎ入れる。


「手慣れたもんだな。コーヒーの淹れ方も親父さんから教わったのかい?」

「この淹れ方は、牧童のお客さんから」

「ああ、それでか。連中は野営なんかいつものことだからな」


 コーヒー粉がやかんの底に沈んだのを見計らって、ステファノはコーヒーを注ぎ分けた。


「すまねえ。ごちになるぜ。ああ、うめえな。野営の楽しみはコーヒーとウイスキーくらいしかねえからな」

「あとは煙草ですか?」

「ちげえねえ。余計な楽しみを覚えちまったばっかりに金が掛かってしょうがねえぜ。あんちゃんは手を出さねえ方が利口だな」

「親父も自分は吸っておいて、俺には止めておけって言います」

「吸ってる野郎が言うことだからよ。間違いなかろうぜ。ハハハ……」


 ダールはコーヒーの残りをぐいっと飲み干した。


「さて、こいつを片付けたら朝飯を食いに行こうか。そしたら、馬を馬車につなぐぞ」

「はい。すぐ片付けてきます」


 自分の分を飲み干すと、ステファノはカップとやかんを洗いに行った。自慢ではないが、洗い物は一番の得意技だ。あっという間に戻ってきて、ダールにカップを渡す。


「朝飯は昨夜とは違う店だ。ハムエッグならそこが一番なんでな」


 さすがにダールは店に詳しい。朝から開いている食堂にステファノを連れて行ってくれた。

 言葉の通り、ハムもたまごも良いものを使っていて、美味い。店主の息子が養鶏所をやっているそうだ。


「俺は宿屋に行ってお客さんに声をかけてくる。おめえはその間に馬車に馬をつないでおいてくれ」


 朝食を摂り終えると、ダールが言った。


「やり方は昨日教えたからわかるな?」

「はい。外すときの逆ですよね」

「そうだ。馬を驚かさねえようにゆっくりとな。帰ってきたら、俺が具合を見てやるから落ち着いてやんな」


 そのまま別れて、ダールは宿屋へ向かった。ステファノは厩に戻る。


「そーれ、厩を出るぞー。よーしよし」


 なだめながら2頭の馬を1頭ずつ、馬車につないだ。手順に間違いはないと思う。念のために二度チェックした。

 自分の身支度を終えたころ、ダールが宿屋から帰ってきた。

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