『――ワイや
メッセージは、五分前に入れられていた。京也はいまさらながら、蒼一郎に自分の番号を教えていないことに気づいた。慌てて貰った名刺を取り出すと、スマートフォンを使って書いてあるの番号へとかける。
『
ツーコールで蒼一郎が出た。
「
『おう、京坊か』
「蒼兄ィ。〈赤目〉の――」
言葉がうまくでない。口は動くのに声が出ない。京也は自分がしゃべれなくなったような錯覚に捕らわれた。
『そない焦らんでも、分かっとる。ようやっと尻尾が掴めたんや。今から出れるか?』
この用件より優先するような事項などない。例え予定があったとしてもこちらを優先するに決まっている。
「大丈夫」
『ほな、地下街の入り口で合流や』
「分かった」
スマートフォンを耳に当てたままの姿勢で、京也はしばらく動かなかった。
ついにこの時がきたのだ。待ちわびていたチャンスが。
相手に対する憎しみと共に、不安と恐怖がわき上がって来る。本当に、自分は仇をとれるのだろうか。
「だめだ」
京也は声に出して言う。そして思う。そんな弱気では駄目だ、と。仇をとれないということは京也の死を意味する。それでは約束を破ってしまう。先ほど交わした雪葉との約束を。何がなんでも自分は生きて――父親の仇をとって帰るのだ。雪葉がいる日常へと。
京也は慎二との戦いで感じた波動と、流れ込んできたイメージを思い出す。あれは、求める仇の姿ではなかったのか。ならば、慎二は〈赤目〉に操られて自分を襲ってきたのか。
それは違う気がした。慎二の狙いはあくまで雪葉であり、京也は障害でしかなかった。京也が標的なら最初から接触をしたはずだ。ならば単なる偶然なのか。偶然というより宿命なのかもしれない。どこかで必ず、自分と〈赤目〉は結びついているのかもしれない。
京也は制服のまま家を飛び出していった。
☆
「申し訳ありません」
打ちっぱなしのコンクリートに包まれた広い空間。暗闇の中に外からの月明かりが差し込んで来る。その中央に〈赤目〉が立っていた。そばには〈焔華〉が片膝をついて控えている。
「お前がついていながら〈
底冷えするような声。〈
「次は必ず……しかし、わざわざ他の街の
「今日、あの少年に植えつけた核の波動が途絶えた。何者かが少年を始末したか、あるいは核を破壊したか。いずれにせよ、護法の者しわざであろう」
「〈風薙〉を殺した護法師は今日一日、わたしを追いかけていました」
「他にいるはずだ。私の体に傷をつけた護法師が」
〈赤目〉は残った片方の目に、憎悪をみなぎらせた。
「この忌々しい傷の代償を払わせるために、私は戻ってきたのだ」
遠くを見つめるようにして〈赤目〉は呟く。と、その顔が見えない何かに気づいたように我に返った。
「……〈焔華〉」
「はっ」
「つけられたな」
「? そんな、確かに振り切ったはずなのに」
〈赤目〉は〈焔華〉の側に立ち、彼女の赤毛の髪に触れた。指が彼女の髪の中へともぐり込む。〈焔華〉は恐怖に身をすくませた。
それはすぐに〈焔華〉の髪から離れ、彼女の目の前に差し出される。
〈赤目〉の指には一本の黒髪がつままれていた。どういう仕掛けになっているのか髪は針のように固く、そして鋭かった。黒髪の先は〈焔華〉の頭部へと潜り込んでいたのだ。
「これは!?」
〈焔華〉が動揺する。黒髪は明らかに〈焔華〉のものではない。彼女にはいつその髪が紛れこんだのか分からなかった。
「〝印〟だ。〈
〈赤目〉は針のよう黒髪を壁に向かって投げた。髪はコンクリート製の壁に突き刺さると、本来の性質を思い出したかのようにくにゃりと曲がった。
「これで失態が二つ。〈焔華〉よ、三度目はない。私を失望させるな」
「はっ」
全身を緊張させて〈焔華〉は言う。額からは冷や汗すら流れていた。
「……行け!」
〈焔華〉の回りに炎が集まり、彼女の姿を包み込む。炎が消えた後に彼女の姿はなかった。