「で、キミはいつから
瑞穂の問いかけは、刑事の尋問のようだった。
「えっ、あ、えっと……」
「瑞穂! いいかげんにしなって。時田君、困ってるじゃない」
「ところで時田君は巨乳好きかな? 巨乳好きじゃない方が、雪葉の受けはいいわよ」
「は? あの……」
「祥子! あんたも余計なこと言わない!」
雪葉は二人の言葉に、逐一ツッコミを入れている。三人とも無駄に元気だった。
「もうっ。雪葉が口うるさいから、審査が進まないじゃない」
「なんの審査よ。なんの! 二人ともいいかげんにして!」
「怒ると血圧上がるヨ。どうどう」
「……もう。誰が怒らしてんのよ」
そう言って、雪葉は大きなため息をつく。二人には何を言っても無駄としか思えなくなっていた。自分は本当にこの二人と友達なんだろうかなどという疑問まで浮かんできそうだ。
そんな雪葉の様子を見て、祥子と瑞穂は顔を見合わせた。さすがにやり過ぎたと思ったのか、二人ともばつが悪そうな顔をしている。
「まぁここら辺で」
「お開きにしてやりますか」
そして、二人はそそくさ荷物を持って席を立った。
「え? あ、ちょっと!」
雪葉が慌てた声を出す。
「なに? あたしたちがいない方がいいンでしょ?」
瑞穂が少しだけ意地悪な笑みを浮かべて言う。たしかに今までの調子でいられると困るが、いきなり二人きりにされるのはもっと困る。
雪葉は立ち上がった二人を、引き戻そうとした。
「時田君。ちょっと雪葉、借りるね」
祥子と瑞穂は逆に雪葉を掴んで、テーブル席から少し離れた場所へ連れていく。
「まさか本気で帰るんじゃないよね? ひとを勝手に連れてきといて」
「時田君、けっこう本気みたいよ」
雪葉の問を無視して祥子は言う。その真剣な様子に、雪葉は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「中途半端なことはできないゾ」瑞穂の声も真剣だ。「この際、周防クンとアンタが付き合ってるかどうかは別として、その気がないンなら、ちゃんと断わりなよ」
「…………」
雪葉は黙ってしまった。
「まあ、いますぐとは言わないけどさ。時田君、なんかすっかり積極的になっちゃって性格まで変わったみたいだけど、気の迷いってわけでもないみたいだしね」
無意味な質問をしているようでいて、祥子と瑞穂はちゃんと慎二のことを観察していたのだ。女の子特有の観察眼で。
「前からアンタのこと見てたの事実だし」
「え?」
「まさかアンタ、気づいてなかったの?」
呆れたように瑞穂が言う。
「……うん。言われてみれば思い当たるけど」
自分と話す時に、慎二の様子が変なのには気づいていた。それを雪葉は、慎二が人見知りをするためだと思っていたのだ。実際、慎二は美術部の他の部員とも、なんとなく話しづらそうだったから。
だが瑞穂に言われて、ようやくその意味に気づく。更に、今日の慎二の態度がそれを裏付けていた。
「どうするかは、雪葉の心一つよ。二人っきりで話してきなさいって」
祥子が雪葉の体を反転させる。
「まさか、ここまで首突っ込んどいてほっとくわけ?」
二人に言われて慎二のことを妙に意識し始めた今となっては、いなくなられると困る。こういうのは、はっきり言って苦手なのだ。
「心配しないでも、こんなおいしいネタ……もとい親友の一大事をほっといたりしないって。別の場所に隠れて見ておいてあげるから、ね? 勇気を出して行くのだ!」
祥子はそのまま雪葉の背中を軽く押した。
「ホント? ホントに見ててくれるのね?」
一歩だけ進んで、雪葉は顔を後ろに向けて言う。動機においてやや信頼に欠けるような気がするが、今頼れるのはこの二人しかいない。
「席窓際っしょ? 大丈夫。外から見てるってば。ほら、待ってるよ」
「……うん」
祥子に促され、雪葉はしぶしぶと席に戻っていった。