そんなこんなで夏休み明け初日の登校日を終え帰宅した麗、割と暴力でどうにもならない案件に途方に暮れた少女は……。
「かくかくしかじか、という訳なのですけれども……コンコン、年の功的なサムシングで何か良い案ありませんの?」
「まるまるうまうま、と……ふーむ、その年の功的なという部分に対して問い詰めてやりたいところじゃが、はてさてどうしたものかのう」
とりあえず頼りになるおばば……じゃなくてお姉さんであるコンコンに相談する事にした。
ちなみにロンロンは沈黙が金と言わんばかりに、夕方のおやつである出前ラーメンを啜っている。
「しかし腑に落ちん、幾ら独占欲が強い女子に嫌気が差したのだとしても……余りにもチグハグすぎるように感じるのう」
「ちぐはぐ、ですの?」
「仮に柳僧院とやらが件の小学生女児の家族に危害を加えたり家屋に火を点ける、言ってみれば不可逆なほどの悪行を働いたのならば、その最上と言う男子の行為も理解できなくはない」
「ふむふむ」
よっこらせ、などとババ臭い発言をしつつソファの上で体勢を直したコンコンは聞いた話から浮かんだ疑問や不審点について判りやすくかみ砕いて説明し、麗は素直に頷きながら話を聞く。
ついでにロンロンはラーメンの麺を全て啜り終え、大事に残していた好物の煮卵を味わっている。
「しかし麗から聞いた話からするに、女児の実家の花屋への営業妨害程度では少々その最上とやらの行動が余りにも唐突過ぎるように感じるのじゃよ、いやまぁ営業妨害も大概じゃが」
「割と大概ですわよね、営業妨害も」
柳僧院の暴走ともいえる行為も大概だが、それはそれとしてもかなりの名家の出身である男子の行為としてはあまりにも直接的過ぎて、理解が及ばんと言わんばかりに溜息を吐くコンコン。
一方その頃ロンロンは丼を両手で抱え、ラーメン汁を最後の一滴まで味わっていた。
「……で、いい加減こっちの話に加わったらどうじゃロン坊」
「ゑ? そう言う惚れた腫れたって話題は我輩はノータッチでいたいのである、置物のぬいぐるみ程度の扱いにしておいてほしいのである」
「たわけ、契約者の魔法少女が困っておるのだからマスコットとしてキリキリ働けい」
「そんなー、なのである」
そしてそんな具合に一切自分達の話題に加わろうとしないロンロンに業を煮やしたコンコンは、ジト目を向けながらラーメンスープを飲み干して満足そうな吐息を漏らすすっとこドラゴンへ言葉を投げかける。
寝耳にウォーターな勢いで言葉を投げかけられたロンロンは、素っ頓狂な声を漏らしつつ心の底から関わりたくないと主張するがその主張は無情にも却下された。
「そんでもってロン坊、お主も話は聞いておったじゃろ? この場唯一の男子として何か意見の一つも出すがよい」
「そうですわ!」
「ゑーーー、そんなクソ面倒な問題首突っ込むだけ損なのである。互いが焼け野原になるまで放置一択だと思うのである」
コンコンの言葉に対して本音を隠す事無く、当事者同士で焼け野原になるまでやり合わせればよいなどと身もふたもない言葉を言い放つロンロンに対し、麗は一つの切り札を切る事を決意する。
このすっとこドラゴンことロンロンは、見た目や態度はともかくとしてその頭脳はトップクラスにキレるマスコットなのだ、基本原則やる気があんまりないという点に目を瞑ればの話であるが。
「良いアイデアや意見出した分だけ、一日煮卵食べ放題券を出しますわ!」
「我輩に任せてほしいのである」
「こやつ、ほんま……!」
麗が懐から取り出したるは、ロンロンのご機嫌取りやご褒美に活用する事が多いお手製の煮卵食べ放題券。
その券の束と麗の言葉の内容に文字通り目の色を変えるロンロン、余りの態度の切り替わりようにコンコンが頭痛を堪えるように呻いたのは言うまでもない。
「そもそも論な話なのであるが、柳僧院家と最上家の婚約にどういう契約があるかって話なのである」
「どういう事ですの? お家同士の婚約って普通に家同士の結びつきとか、そういう感じってお父様からふんわりと聞いた覚えがありますけど」
食後のウーロン茶が入ったコップを傾けて中身を飲み干しながら、ロンロンが語る内容にほへーと麗が相槌を打ちつつ、浮かんだ疑問をそのままロンロンへぶつける。
「我輩も全部を把握しているわけではないという前置きはするのであるが……何かしらの力を持つ家同士の婚約の目的って極論、金かモノか権力と相場が決まってるのである」
「こ、こやつぶっちゃけよった?!」
身も蓋も無い事をぶっ放すロンロンの物言いに、もしかしてコイツ儂が思ってる以上に出来るヤツなのではと今更コンコンが戦慄する中、ロンロンはさらに言葉を続ける。
「勿論感情論だけで突っ走るという話が無いわけではないのであるけども、最上とやらがそうだと決めつけるのは色々危険だと我輩は思うのである」
「なるほど……ちなみに、そうだとしたら何故最上さんは婚約破棄を敢えて衆目の中でしたとロンロンは思いますの?」
新たな着眼点と視点を切り拓いたロンロンの言葉に、麗は三枚ぐらい煮卵食べ放題券を束から取り出しつつ、追加で質問をロンロンへするが……。
「流石にそこまでは我輩も読めないのであるよ、そう言うのは長生きしてるコンさんの方が得意だと思うのである」
「摺り下ろすぞ小僧」
ロンロンもそこまでは解らないと肩を竦めながら、ついうっかり要らんことを口走ってコンコン空剣呑な視線を向けられて喉が引き攣るような悲鳴を上げる。
「ふむふむ……感謝ですわロンロン! これはサービスですわ!」
「うひょほーい!煮卵食べ放題券5枚は大盤振る舞いなのである!」
「うーむ、先ほどまでのキレッキレの発言をしたロン坊と同一人物とは思えないアホっぷりじゃのう」
「コンさん酷くない?」
麗から煮卵食べ放題券を受け取り小躍りしてはしゃぐロンロンの姿に、剣呑な視線から一転呆れた視線をロンロンへ向けるコンコン。
その余りにもあまりな言い方に思わず抗議の声を上げるロンロンであるが、その抗議は却下されるのであった。
「じゃがロン坊の言う事には一理ある、オトメの方の情報が鍵になるかもしれんのう」
「ぶっちゃけわたくし達だと、今の所柳僧院さんしか情報源無いのが痛いですわ!今度のお休みは気合入れて情報収集しますわ! 真実は多分一つですわ!」
「じっちゃんが死にかけて!ってヤツであるな」
「芸術的な間違いを二人そろってやるヤツがおるか、タワケ共」
【マスコット解説劇場~某探偵ものについて~】
「ロンロンと」
「コンコンの」
「「マスコット解説劇場―」」
「そういえばロン坊、お主やウララが話しておった探偵もののネタじゃが……」
「あー、少年探偵ユナンと全田一壮年の事件簿であるか?」
「何故じゃろう、間違っておらんはずなのに絶妙なパチモン臭を感じるのう」
「そんでその二つ、儂も名台詞と題名くらいしか知らぬがどんな話なのじゃ?」
「少年探偵ユナンは謎の組織に子供にされた名探偵が、なんか絶妙にメインストーリーラインそっちのけで色んな殺人事件に巻き込まれては解決する話なのである」
「何故じゃろう、色んな方向から怒られる気がするのは儂だけじゃろうか」
「多分怒られたらこっそりネタ差し変わるのである」
「ソレ大丈夫じゃないと儂思う」
「ちなみにもう一つの方はどんな話じゃ?」
「全田一壮年の事件簿はアレなのである、名探偵の祖父を持つ一般通過壮年が色んな事情から肩入れしたくなる犯人が巻き起こす、悲惨な事件に巻き込まれる話なのである」
「のうロン坊、コレは流石にアウトだと儂思うんじゃよ」
「アウトかセーフかは神のみぞ知るのである」