『速報』重工業グループの御曹司まさかの小学生女児に執着『大惨事』
そんなタイトルのクソスレが立ちかねない案件の、最上君まさかの小学生女児を想うがあまり婚約者に婚約破棄を叩きつけるという珍事件。
まさかそんな悲惨極まりない案件だとは思いもよらなかったマジカルゴリラ事、春日井 麗は……。
「げほっ、ごほっ、は、鼻の奥がつーんってしますわー!」
「落ち着いて下さい麗さん」
盛大にお紅茶を口から噴き出すほどにむせ返り、今現在友人の明美に背中をさすられていた。
一方何とか麗と同じ状況に陥りながらも耐えた乙女は大きく咳払いをすると、無意識のうちに言葉を強張らせながら柳僧院へ問いかける。
「え、ええと……ワタクシの耳か頭がどうかしたのかもしれませんわ、竜相違さん。今一度申し上げて下さってもよろしくて?」
「……最上様は、明様は……わたしを捨てて、小学生女児に求婚すると言ってました」
「聞き間違いであってほしかったですわねー……」
何とか正気を保ちながら聞き間違いであることを願って、今一度柳僧院へ問いかける乙女であったが……意気消沈と言う言葉が似合うほどに落ち込んだ柳僧院が告げたその言葉に、全てをあきらめたかのような表情を浮かべて天井を仰ぎ見た。
何のかんの言って乙女も結構な家柄の令嬢であり、年の差婚の話など幼いころから腐るほど耳にしてきている。
その中には聞くに堪えない醜悪な話も幾つかあったが、まさか同級生の大企業令息までその手の人種だったのかと軽く絶望しつつも、還暦を迎えた翁が年若い女性を手籠めにするよりマシかと心の中で結論付け、とりあえず建設的な意見を口にする為に柳僧院へ向き直る。
「柳僧院さん、最上さんはとても遠い所へ行ってしまった。そう思って新たな恋を見つける事をおススメしますわ」
「諦めないで下さい!」
「そう申されましても……」
この世全ての罪を許すかのような聖母が如き微笑を浮かべて述べた乙女の言葉に、柳僧院は半泣きになりながらテーブルを勢いよく叩いて乙女へ詰め寄る。
詰め寄られた乙女は割と同級生がロリコンだったという事実が衝撃的だったが故に、心の底から関わりたくないと言わんばかりにドン引きして困ったように言葉を漏らした。
「ヴぁー……やっと落ち着きましたわ、えーっと柳僧院さん。わたくしに妙案がありますわ!」
「教えてください!」
紅茶逆噴射による咽返りからようやく復帰した麗が自信満々と言わんばかりに輝く笑顔を浮かべているのを見て、柳僧院は藁にも縋るかのような勢いで詰め寄る。
ちなみにその様子を眺めている乙女は、ほっとした顔を浮かべつつも先ほどの対応を明美からやんわりと窘められている。
「とりあえず斜め45度でチョップを最上さんの脳天に叩き込めば多分直りますわ、チョップの叩き込み方にはわたくし自信がありますから伝授しますわよ!」
「出来れば暴力以外でお願いします!」
そしてゴリラ、じゃなくて麗が自信満々に提案した内容は暴力100%と言わんばかりの力押しであった。
残念でもなく当然な勢いで柳僧院がその提案を却下したのは言うまでもない。
そんな愉快な騒動が引き起こされる中、発言することなく少し考え込んでいた明美は軽く手を叩いてぎゃーすか騒ぐ同級生たちを鎮めると微笑みながら口を開く。
「皆様落ち着いて下さい、そもそも柳僧院さんからどのような相談なのか明確なお話が出ていませんよ」
話が二転三転七転八倒している中投じられた明美の言葉に、麗と乙女は無言で顔を見合わせる。
そして互いに頷くと真剣な面持ちになって立ち上がると、二人そろって奇麗に頭を下げて誠心誠意の謝罪の意を示すのであった。
閑話休題(割と乙女もアホの部類である)
「相談したい事、それは最上様が心変わりした理由を知りたいのです」
明美の発言、そしてゴリラと乙女の誠心誠意の詫びから話を仕切り直した柳僧院の口から告げられたのは、婚約破棄を突き付けてきた婚約者の想いを知りたいというモノであった。
その言葉に対し、最近麗に釣られて自分もアホになっているのではないかと内心冷や汗を浮かべている乙女は、そんな内心をおくびに出す事なく優雅にお茶で唇を湿らせてから口を開く。
「ですが、その……気を悪くされたのなら申し訳ないのですけども、最上さんは柳僧院さんのアプローチに対してそっけない印象がありますわ」
乙女が思い返すのは学院で最上が行くところには必ず柳僧院が出没し、時には邪険に扱われていた光景であった。
ソレラを思い返すに、元々最上は柳僧院に対して良い感情を持っていなかったのではないか?などと考えていたが、流石に乙女にもその事を口に出さない分別は存在していた。
「でも最上さん、柳僧院さんに対してめっちゃ塩対応だったと思いますわ」
そしてゴリラにはその分別は欠片も存在しておらず、その言葉を受けて柳僧院は胸を押さえながら器用に椅子に座ったまま崩れ落ちる。
「このおバカ!」
「え?わたくし、何かやっちゃいましたの!?」
「割とやらかしてますねぇ」
思わず乙女がノータイムで麗へ対してツッコミを入れ、自分がどれだけ酷い事を口にしたか理解していないゴリラに対して普段は麗に甘々な明美も頬に手を当てて麗の弁護を放棄する始末である。
「そ、それでも……最上様はわたしが携帯電話で送るメッセージに、いつもなら5回に1回は反応を返してくださっていたのに……今は既読無視をされるのです……」
されども柳僧院も地味に中々タフなのか、心身を立て直しながら震える声で今までと異なり今は素っ気なくなったことを訴える。
「ちなみにつかぬことをお聞きしますけど、一時間でどのぐらいメッセージを送られてましたか?」
「そうですね、もっと送りたいのですけど……30回ほどに留めています」
何かを察したような表情をしつつも明美が念のため確認を柳僧院に行い、返ってきた言葉に何も言わずそっと小さく首を横に振った。
言うまでもないが麗と乙女はドン引きしている。
「婦女子の立場としては柳僧院さん寄りに立ちたいけど、ぶっちゃけ最上さんの対応も残当って感じがしますわ」
「そんな事言わないでください!」
むしろ自分が不利になるのを承知の上で、自由になる為に婚約破棄を突き付けたんじゃなかろうかなどと、その手の事情に疎い麗すら考える有様である。
乙女に至っては頭痛を堪えるかのように額を手で押さえる始末なのだから相当と言えよう。
「わたくしは殴って解決出来る事は何とか出来る自信ありますわ! だけど流石に今回の案件を拳で解決するのは無理ですわ!」
「いや拳で解決しようとするのは令嬢として如何なものかと思いますわよ、麗さん」
相談を引き受けたは良いモノの現時点で割と詰んでるとしか思えない状況に、麗はうがーっとゴリラのように吠える。
そんなゴリラに対して溜息を吐きながら乙女が突っ込む中、何かを思いついたらしい明美が口を開いた。
「乙女さん、確か乙女さんの親戚の方で最上さんの親戚の殿方に嫁がれた方いらっしゃいましたよね?」
「ええ、従妹のお姉様が最上さんのご親戚の家に嫁いでいますわ」
「そちらの方から、最上さんの事情を何かしら探る事はできますか?」
「そうですわねぇ……うん、出来ると思いますわ」
テキパキと話を進める明美に対し、柳僧院と麗がきょとんとした表情を浮かべる。
そうしている間に最上側に対しての情報収集の段取りがあれよあれよと進み、続いて明美は麗へ向き直る。
「麗さん今度のお休みの日に、最上さんが想いを寄せているという小学生の方の情報収集にご同行願いたいのですが……よろしいですか?」
「ばっちこいですわ!爺やにお車出してもらいますわよ!」
令嬢的駆け引きや交渉は赤点落第レベルな麗と違い、正真正銘の対応力を誇る明美と乙女に対して麗は頼りになるお友達ですわ!などと呑気な事を思いつつ明美の言葉に対し、親指を勢いよく立ててオッケーサインを出すのであった。
【マスコット解説劇場~今回はお休み~】
少々立て込んだ事情と都合により、今回の解説劇場はお休み致しますと書かれた看板が立てられている。