気が付けば夏休みも残りわずかとなった今日この頃。
「なんで地方紙の一面が!わたくしが浜辺で犬神家やってる写真なんですの!?」
冷房が復旧したお屋敷の一室、いつもの溜まり場ではゴリラの雄叫びが響いていた。
麗が口から炎を吐き出す勢いで咆哮しながらテーブルに叩きつけた新聞の一面、そこには浜辺に逆さまで突き刺さり両足を空へ向かって突き出しているマジカルウララの写真が掲載されていた。
「まぁしょうがあるまいて、あの状況を写真に撮るなと言う方が無理じゃろ」
「正直我輩も爆笑一歩手前だったのである」
「お黙り!!」
なおマジカルゴリラ、じゃなくてマジカルウララと地方紙の名誉の為にいうなれば新聞の内容自体はネガティブな事は書かれていない。
むしろ圧倒的不利な状況において戦い抜き市民を守り抜いた魔法少女の奮闘と献身を大いに称える内容で掲載されている、問題があるとすれば相変わらずマジカルゴリラと記載しているところぐらいであろう。
「オルカイザーのヤツが何を考えているのかはわからんが、あの強敵を相手に多少の打ち身と打撲で済んだだけで十分偉業じゃて……いやほんと、なんでお主その程度の怪我なの?」
「正直ドン引きなのである、もはや細胞単位でゴリラなのである」
「失礼ですわね?!」
「ぬわー?!我輩のお腹をもちもちするのはやめるのである!」
マジカルゴリラ、じゃなくてマジカルウララがオルカイザーと真正面から繰り広げた超パワー対決……その反動で吹き飛び浜辺に頭から突き刺さったというのに、軽い打撲と打ち身で済んだ麗の肉体の規格外っぷりにドン引きするマスコット二名。
うっかり要らん事まで口走ったロンロンが麗の勘気に障り、そのお腹をもちもちされてしまっているが些細な問題である。
「しかし、市民の皆様を勇気づけ護る魔法少女であるわたくしがこんな醜態を晒しちゃったのは良くないですわ」
「気にし過ぎじゃと思うがのう、グレートウォーの前と違って今は多少力不足でも多めに見てくれる空気じゃしのう」
「どんだけ民度終わっていたのであるか、グレートウォー前って……」
ロンロンのお腹をもちもちしながら己の不徳を責めるかのように呟いた麗の言葉に、コンコンはテーブルの上のお盆から一枚引っ張り出した煎餅を齧りながらそんな気にするものでもないと呟いた。
「ヒントを言うならば、マーベルな感じの市民民度じゃったのう」
「割とクソで擁護できないのである」
「ま、マーベルな世界だって蜘蛛男様の家族みたいな黄金の精神を持つ方もいますわ!」
そんな中お腹をもちもちされっぱなしのロンロンがコンコンへぶつけた質問に対し、返ってきたあまりにもあまりな答えに思わずげんなりとした顔を浮かべるロンロン。
色々とヤバイ所を敵に回しかねないと直感で悟った麗、大慌てでマスコット二名の危険な会話をインターセプトをするファインプレーをするのであった。
閑話休題(まぁそんなことはおいといて)
「やっぱりわたくしも修行が必要だと思いますの」
「何がどうやってその結論に至ったのか甚だ疑問なのじゃが……」
危険な話題を一旦横に置き、お嬢様にあるまじき作法で煎餅をばりばりとかみ砕きながら麗は唐突にそんなことをのたまう。
突然のゴリラ、じゃなくて麗の発言にいつものように面食らうコンコンはお茶を啜りながらも麗へ視線を向けて言葉の先を促す。
ちなみにロンロンはアレからもお腹をもちもちされ続けており、今や諦観に満ちた瞳でなすがままになっている。
「と言うわけでコンコン、魔法少女的な修行プランの作成をお願いしますわ!」
「え? ないぞそんなもん」
「無いんですの?」
「無い、魔法少女の力の根っこにあるのは日常の幸福と平和じゃからな」
亀の甲羅を背負ったりギリシャの山奥に籠ったりする気満々だった麗、にべもなくそんなもん無いと言い捨てるコンコンの言葉に耳を疑う。
魔法少女の力は日常で得たキラキラした感情や幸せから産まれる情動が大事なのであり、友情努力勝利も大事だが苦しい修行と言うのはそんなに意味が無いという、身もふたもない事情が存在していた。
「こう魔法少女選抜試験みたいなのとか、呼吸を制限するマスクを作って油ぬるぬるタワー登ったりとか。そう言うのもないんですの?」
「お主が普段どんな漫画読んでいるのか良くわかるが、マジでない。よく食べよく遊びよく眠るのが一番なのじゃ」
「コンさんコンさん、さりげなく亀な流派に引っ張られているのである」
普段からトレーニングに勤しんでいる程度にはそう言う事が好きな麗、マジで魔法少女的修行が無いと知りがくりと項垂れる。
その姿はまるで、サンタさんなんていないと無慈悲に告げられた幼子のように哀れな姿であった。
しかしそんな時である。
「失礼しますお嬢様、よろしいでしょうか?」
「ぐぬぅ、ぬ? よろしくてよ爺や」
魔法少女的修行が無い事に不満を露わにしていた麗であるが、部屋の扉をノックすると共に声をかけてきた爺やの声にお嬢様らしさを取り繕いながら反応する麗、なお先ほどまではお嬢様らしさが欠片も無かったのは言うまでもない。
「学院主導のパーティのお誘いが来ております、いかがしますか?」
「学院の? 唐突ですわね」
「まぁ良い機会じゃ、久しぶりに学友と語らってくるが良い。それが一番の修行であり魔法少女の力を高める助けになるのじゃ」
「むぅぅぅ……わかりましたわ、爺や!すぐに準備するのですわ!」
「かしこまりました、お嬢様」
ばたばたと華麗さの欠片も無い慌ただしさで部屋を出ていくのを眺めつつ、不思議そうにコンコンが口を開く。
「しかし妙じゃのう、去年は夏休みに学院主導のパーティとかそう言うのは開かれておらなんだ筈なのじゃがのう」
「流石に気にし過ぎだと我輩は思うのである」
「それもそうか、いくらウララのやつが巻き込まれやすいと言うても、そうそう変な問題引き寄せる事もなかろうて」
コンコンの言葉に対し冷房の効いた部屋の中でぐーたらと体を伸ばしてくつろぐロンロンは適当に返事を返す。
そんな若者の様子にコンコンは苦笑いを浮かべながらも同意を示し、自身もお気に入りのソファの上へ移動すると体を丸めて昼寝の姿勢に入るのであった。
なお、マスコット2名の考えや予想もむなしく。
「柳僧院 奏、貴様との婚約をこの場で解消させてもらう!」
「待って?!誤解なの最上様!話を聞いて!」
麗が出向いた学院主導のパーティにて、彼女が事件に巻き込まれたのは言うまでもない。
「乙女さん、明美さん。アレ一体何があったんですの?」
「話せば長くなりますわね……」
「そもそも婚約って個人の一存で解消できるものでもないと思うのですけどもね」
おめかしした麗が到着したパーティ会場ではすでにパーティが始まっていたのだが、その中心部で何やら吹き上がっている大騒動に思わず近付いてきた友人達に宇宙猫フェイスで状況を問いかける麗。
そんな麗の言葉に多少なりとも事情を理解していた乙女は苦々しい表情を浮かべ、冷静に婚約解消騒動へ視線を向けている明美は頬に手を当てながら呆れたように呟くのであった。
【マスコット解説劇場~藤花学院の学生間の交流について~】
「ロンロンと」
「コンコンの」
「「マスコット解説劇場―」」
「なんかこうレディコミやら何やらでありそうな、婚約解消の現場にゴリラが遭遇したのであるな」
「いやぁ、儂らもフラグっぽいなぁとは思うておったが芸術的なまでにフラグ回収しよったな」
「ゴリラは最早そう言う星の下にいるのである、多分」
「されどもコンさん、実際問題どうなっているのである?家と家の間で婚約やらなにやらやってるにしても、同年代の少年少女が集まってるなら惚れたはれたとか普通に起きそうなのである」
「そりゃ起きるじゃろうなぁ」
「なら割とまずいと思うのであるが、大丈夫なのである?」
「それらも一切ひっくるめて、社会勉強の予行演習と言った所なんじゃろうなぁ」
「え、ええーっと……それって要するに、家同士の約束も理解できない子供を篩にかけるって意味であるか?」
「恐ろしい発想するのうお主、そこまで悪辣でもあるまいて」
「ほっ、安心したのである」
「単純に約束事を履行できるかどうかじゃろう、上流階級になればなるほど信頼を破る事のリスクを知る必要があるからの」
「待ってコンさん、それって。自由恋愛に現を抜かして一切合切投げ出す子供をあぶりだしてるとしか思えないのである!?」
「……そうかもしれんのう」
「こえー……上流階級こえー……」