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第43話 シャチVSゴリラ、世紀の大決戦



当たり前であるが人類にとって海中は言うに及ばず、海上も活動エリアとは程遠い領域である。


水中ではその動きの大多数に制限がかかるし、海上に出るとしても絶えず押し寄せる波が襲い掛かってくる水面に立つことが可能な人間など存在しないからだ。


そう、通常の常識で考えるならば。



「だらっしゃぁぁぁ!ですわーーー!」


「私に当てるか、華奢な見た目の割にやるな魔法少女」



肩にしがみつかせたマスコットのコンコンが作り出した結界の足場、それを用いる事で疑似的な戦闘フィールドを会場に形成したマジカルウララは何とか、シャチ怪人オルカイザーと互角以上に戦う事が出来ていた。



「そいつはどうも!ですわっ?!」


「だがまだ若い」



どこまで戦っても上から目線を崩そうとしないオルカイザーの様子に業を煮やしたマジカルウララは渾身のマジカルヤクザキックを叩き込もうとするも、次の瞬間にオルカイザーは驚異的な全身の筋力を用いてバック転と共に海中へと姿を消してしまう。


想定外のオルカイザーの行動にヤクザキックが空振りしたマジカルウララは思わずつんのめりながら、海上に作り出された結界足場で慌てて体勢を立て直そうとするがオルカイザーの動きはそれよりも早かった。



「いかんウララ!すぐに離れ!?」


「まさかの下からですの!?」



敵の動きを探っていたコンコンが尻尾を逆立ててマジカルウララへ注意を促し、その言葉に足元を見た魔法少女はぎょっとしながら叫ぶと共に全力で空中へと逃げた、その次の瞬間。



「オルキウストライク!」



コンコンがマジカルウララが戦うための足場として海上に展開していた結界、それを海面もろとも叩き割りながら海中からオルカイザーが出現。


その破壊力に満ちた突撃の威力はオルカイザーが海上へ飛び出た瞬間、海上に音速の壁をぶち抜いたかのような衝撃が走るほどであった。



「空に逃げれば当たらぬと思ったか?」


「?!」



オルカイザーの突撃によって生じた衝撃波は空中に逃れたマジカルウララの体をも捉えた事で彼女は空中で無防備な姿勢を晒す形になり、その瞬間を逃がさなかったオルカイザーは恐るべき突進力を持って魔法少女との彼我距離を詰めるとそのままの勢いで剛腕を振るう。



「うぐぅっ!?」



オルカイザーの一撃は体勢を崩しながらも咄嗟に防御の構えを取ったマジカルウララをガードの上から叩きのめし、その剛腕を叩きつけられた魔法少女は幾度も海面をバウンドしながら吹き飛ばされた。



「く、くっそいてぇですわ~~~!」


「よう耐えたぁ!」



だがマジカルウララもただのゴリラではない、暴力とパワーと破壊力のゴリラのトライフォースですべてをねじ伏せてきた魔法少女である。


オルカイザーの一撃によって海面を跳ねさせられる度にじたばたと体勢を整え、三回ぐらい海面を跳ねた辺りでコンコンが空中に足場を作る事に成功したおかげで、マジカルウララは何とか空中で体勢を立て直すことが出来た。



「しかしどうするウララ? 海上では圧倒的不利じゃぞ!」


「百も承知ですわ! コンコン、何か便利な不思議道具はありませんの!?」


「あったらとっくに出しとるわ!」



悠然とまるで余裕を見せつけるかのように自身へ向かってくるオルカイザーの姿に対し、コンコンが焦燥感に満ちた声でマジカルウララへ呼びかける、しかしそんな不利な勝負ゴリラは理解の上でこの戦いに挑んでいた。



「良く抗う、だが海は私の戦場だ……勝てるとは思うまいな?」


「勝てるとかどうかじゃないですわ!」



そしてゆっくりと海上に立ち、力の差を見せつけてきたオルカイザーはゆっくりとした口調でマジカルウララへ語り掛ける、しかしその言葉に対してゴリラ……じゃなくてマジカルウララは咆哮するかのように言い放った。


彼女が今も不退転の決意を抱いて、不利な事を理解しても尚海の上で戦う理由はただ一つである。



「避難が終わっていない以上!わたくしは決してあなた方を上陸なんてさせないのですわ!」



誇らしげに胸を張り、自身に満ちた獰猛な笑みを浮かべて宣言するマジカルウララ。

その姿は雄々しくも気高い、戦乙女のような高貴さをどこか孕んでいた。



「なるほど、なるほど……まずは謝ろう魔法少女マジカルウララ」


「唐突になんですの?」



例え不利であろうとも不退転の決意を崩さない魔法少女マジカルウララの姿と言葉にオルカイザーは僅かに目を見開くと、愉快そうに喉を鳴らしながら唐突に語り出す。


その発言、そして内容の意図が読めないマジカルウララが警戒を崩さない中、それでもオルカイザーは上機嫌そうにその両腕を広げると高らかに謳うように言葉を紡ぐ。



「あのグレートウォーから幾星霜、もはや気高い英雄との闘争は望めないとばかり思っていた。だが……貴様は私達が知る気高い英雄達に比肩しうる存在であり、魂の輝きを持っている」


「な、なんかすごい大げさに褒められてなんか恥ずかしいですわ!」


「そう言えば記録によると、オルカイザーは闘争ジャンキーと記録があったのう……」



オルカイザーからの掛け値なしの称賛に対し、敵から罵倒やら悪口を言われる事はあれども褒められたことはあんまりないマジカルウララ、顔を真っ赤にして狼狽える醜態を晒す。


しかしそんな呑気な事を言っている場合ではなく、今も浜辺には危機が迫っている事をマジカルウララは思い出すと拳を握りしめてオルカイザーへと向き直った。



「良いなお前、実に良い。瘴気にも立ち向かった経験があるようだしここで手折るにはいささか、勿体ないな」


「あら? 見逃してくれますの?」


「ソレも悪くない、だが一つ試させてもらうとしよう」



興が乗ったオルカイザーは人間には聞き取れない高周波を放ち、今この時も飛び回り注意を引き付けていたロンロンを打ち落とそうとしていたフライングマンボウ達の動きを止めると、マジカルウララへ視線を向ける。



「あの竜とお前からパスが繋がっているのを感じる、これで貴様も最高の一撃を放てるだろう?」


「上等、ですわ」



強さの底が見えないオルカイザーの物言いと行動に、マジカルゴリラの反骨審が唸りを上げるが今は堪えつつ拳を強く握りしめる。



「軽く全力を出してやろう、死んでくれるなよ。魔法少女マジカルウララ」



オルカイザーがそう告げると同時にシャチ怪人は今までとは比べようがない程の恐怖を伴う圧力を放ち始め、それだけに留まらず骨と牙で構成されたかのような外骨格装甲を身に纏っていく。



「オルカイザーの最終戦闘形態じゃと……?!」


「ど、どれぐらいヤバイんですのコンコン?!」


「あの状態のオルカイザーの突進は戦隊の合体ヒーローにも風穴を空けるほどじゃ! 決して真正面から当たってはならぬ!」


「え?なんか呼ばれたと思ったらエライ状況に巻き込まれたのであるが、コレどういう状況であるか?」



唯一この場にいる中でオルカイザー以外の、オルカイザーの本気を出した姿の危険性を認識しているコンコンは尻尾を逆立たせると、大慌てで真正面からオルカイザーとぶつかるなと警告をし始める。


一方フライングマンボウ相手の理不尽弾幕から何とか解放され、這う這うの体で合流したロンロンはいきなり巻き込まれた鉄火場に、死んだマンボウのような目をして思わずお空を見上げて呟いていた。



「なるほど、確かにソレはヤバイですわね!」


「そうじゃろ!」


「そうと聞いて引き下がっては、お嬢様の名が引き下がりますわ!ロンロン、パワーを送って下さいまし!」


「しまったこやつアホじゃったぁぁぁぁぁ!!」



コンコンの説明を受けて神妙な顔をしたゴリラ、心からやばそうなその情報に呟くが……だからと言って勝負から逃げては淑女が廃る、そう言わんばかりに闘志を燃やす。


そんなマジカルゴリラのブレーキとバックギアが消し飛んだ様子にコンコンは頭を抱え、ロンロンはとりあえずやるだけやりゃいいと思うのであると投げやりな調子でパワーをマジカルウララへと送り出す。


だがしかし、マジカルウララもただ真正面から何も考えずにぶつかろうとしているわけではなかったのだ、彼女は無謀なゴリラではなく勇気にあふれたゴリラなのである。



「征くぞ、魔法少女」


「きやがれですわぁぁぁぁぁ!!」


「どうしようロン坊、ウララが儂の話を聞いてくれぬ」


「いやー、なんか秘策ある顔してるから多分大丈夫だと思うのである」



マジカルウララの準備が整ったと見たオルカイザーは海上で身を屈めたと思った次の刹那にはその姿を察知する事が不可能なほどの加速を以って、マジカルウララへと突進を開始する。


だがマジカルゴリラもただ見ているなどと言う事はなく、今にもマジカルロケットパンチとしてぶっ放しそうになっていたパワーを込めた右腕でその突進を真正面から迎え撃つ。



「ふぎぎぎぎぎぎいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」



時間にして一瞬、互いの突進によって巻き上がった水しぶきが空をゆっくりと舞い踊る僅かな間拮抗する互いの力と力。


しかしマジカルウララはそこからさらに、一歩踏み込んだ。



「マジカルメガトンパイル!ですわ!!!」



マジカルゴリラ渾身のド根性踏み込みと共にさらに突き出された右腕、その一撃は通常なら光のロケットパンチとして放たれるはずの超火力の一撃を……拳のインパクトが直撃したオルカイザーの額に該当する場所に叩き込むことに成功した。


問題があるとするならばその一撃は間違いなく桁違いであり、オルカイザーの外装を砕きながら吹き飛ばすほどのものであった。


だが同時に、一撃をさらに叩き込むことに専念し過ぎたマジカルゴリラは自身が放った一撃の反動でそのまま弾かれたように吹き飛び、くるくる回ってそのまま頭から民間人の避難が丁度完了した浜辺に墜落した。



「う、ウララーーーー!?」


「うっわぁ、アレ痛そうなのである」



吹き飛んだ挙句、芸術的なまでに頭から浜辺に突っ込んだマジカルウララを心配して飛んでいくコンコンを見つつ、浜辺に突き刺さったゴリラの姿を眺めるロンロン。



「それでどーするのであるか? これ以上やるなら我輩が命にかけてでも時間稼ぎするのであるよ?」


「そんな無粋な事はせん、あの魔法少女に伝えておけ。瘴気と戦うなら今以上に強くなれと」


「伝えておくのである、ところで瘴気について教える気はないのであるな?」


「その目、幼竜よお前も瘴気を憎むか」



将来有望な英雄の卵が見つかったからか、どこか満足げなオルカイザーの様子にロンロンはこのおっさん割と良い空気吸ってる勢であるな?などと思いつつ声をかける。


そうやって言葉を交わす中で、ロンロンが瘴気を語った瞬間僅かに濁った瞳の色をオルカイザーは見逃すことなく小さく呟くと、活を入れるようにその肉厚な手でロンロンの頭にチョップを叩き込んだ。



「いっだぁぁぁぁぁ?!」


「ふん、やはり憑いていたか。消えろ」



突然の暴力に頭を押さえて呻くロンロン、そんな彼の体から漆黒の靄が漏れ出たのを見逃さなかったオルカイザーは腕を払いその瘴気をずたずたに引き裂いて霧散させた。



「え、我輩にまだ憑いてたのアレ……」


「ほんの僅かであるがな、アレは知ろうとするもの。強く憎むものに対して寄り付く……抗いたいのならばお前もまた強くなれ」



消えていく瘴気の残骸に絶句するロンロンを他所に、やる事を終えたとばかりにオルカイザーは背を向けると海原へと沈んでいく。


その姿をぼんやりと見送ったロンロンはすぐに我に返ると、浜辺に埋まったマジカルゴリラを救出すべく頑張っているコンコンと爺やを手助けすべく、浜辺に戻るのであった。




【マスコット解説劇場~今回はお休み~】

マジカルゴリラ、じゃなくてウララを掘り出すのに忙しいので今回はお休みです。

そう書かれた看板が浜辺に突き刺さっている。


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