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第41話 Q.ゴリラは水に浮きますか? A.沈みますが気合と根性で泳げます



青い空に広がる大海原、そして太陽の光によって白く輝く砂浜。


夏真っ盛りの今、これ以上ないぐらいに盛り上がる事この上ないロケーションで若者や家族連れが海水浴場ではしゃぎ倒している中。


見事なプロポーションを派手過ぎずしかし地味でもない、絶妙な塩梅の水着に身を包んだマジカルウララは海遊びを全力で楽しんでいた。


ちなみに水着の形状はいわゆるタンキニと言われるタイプの水着を着用しており、ともすればやぼったい印象を与える事のある水着でこそあるものの、そこはデザインとハイブランドが持つパワー……そして引き締まりつつも一部が豊満なマジカルウララの恵体により、実に絶妙なバランスに仕上がっている。


だがしかし、光あるところ闇あり。誰かが平和な日常回を始めればどこかで悪巧みが起きるモノ。



どこかもわからない海の底、幻想的な光るクラゲが齎すうすぼんやりとした灯りで照らされた海水で満たされた薄暗い会議室の中では今、恐るべし計画が進められようとしていた。


会議の席に着いているのは巨大なイカやタコ、それにシャチと言った海洋生物の特徴を強く持つ怪人達であった。



「忌まわしきかの大戦から幾星霜、ようやく我ら海洋連合の傷も癒えた」



議席を務めているらしい王冠のようなモノを頭部に付けたイカの怪人が厳かな物言いで、席に着く者達を睥睨しながら語り掛ける。


彼らはかつての正義と悪の総力戦、グレートウォーの最中で連合を組んだ海洋産悪の組織の大連合であると共に、様々な悪の組織を支援する一大組織でもあった。


しかしその強大な勢力もかつてほどの勢力は残ってはいない。



「傷も癒えたとかよく言う、これ以上座して見ていては諦観の内に壊死するとハッキリ言えば良いだろうに」


「口を慎めオルカイザー、貴様らオルカ旅団だってまともな戦力は残っておらず復旧も見込めておらんだろう」


「ああそうだとも、だがソレがどうした?」



イカの怪人が窘めるようにシャチの怪人へ苦言を呈すが、オルカイザーと呼ばれた怪人は愉快そうに体を揺らして笑うのみ。


この会話だけを抜き取ればどこにでもある、互いに掣肘しあう悪の組織の会合にしか見えない光景と言える。


しかし、一触即発の空気が流れる中触手をにょろにょろと忙しなく動かしていたタコの怪人がその口を開いた事で、空気が少し変化を見せる。



「せやけどクラーケンキングはん、オルカイザーはんの言う事も間違うてへん……今動くんはまだ早いと思うしリスキー過ぎへん?」


「早くなどない、むしろ遅い。貴様らも『瘴気』の連中の手の広さと抜け目なさは知っていようぞ」


「ぬぅ、せやけど…………」



言い争いを静観していたタコの怪人が二人を窘めるが、クラーケンキングと呼ばれた怪人は会議場の卓をその大きな触手で叩きながら、今動かねばならないのだと強く訴える。



「我らは、我らを打倒した英雄達に後を託されたのだ。世界を頼むと」



彼らはかつて世界征服を狙う悪の組織で、無軌道な活動を繰り返していた。


しかし戦いの最中で絆を結び、死闘を繰り広げた末に世界の要石となるかのようにその命を散らした英雄達に、後の世界を託されていたのだ。



「解っているさクラーケンキング、だからこそ私とて生き恥を晒してここにいる」



オルカイザーと呼ばれたシャチの怪人は、自身の体に深く刻まれた傷跡を指先でなぞりながら、遠き日の闘争を反芻するかのように瞑目して呟く。


ヒーロー達との死闘で部下や仲間が大勢殺され、そして自身も殺してきたオルカイザーにとって世界の行く末などどうでも良い。


ただ体が求め続ける飽くなき闘争、今となってはソレだけが彼が今も生き続けている全てだ。


しかしそれでも。



「闘争とは己の意思と欲望でのみ行われるべきだ、瘴気による偏向などあってはならない」


「相変わらず戦闘民族やなぁ、オルカイザーはん……」


「タコ大王、貴様は反対の意思を崩さないと言うのか?」


「そこまで言うてへん、早すぎるって言うとるんや。海の中が漸く落ち着いてきた言うても、まだ復興せなあかんところは大いにあるっちゅーねん」



それでも体は闘争を求めると言わんばかりのオルカイザーの様子に、タコ大王は水中で冷や汗を浮かべるという器用な真似をしながらボヤくように呟く。


そんな、まるで傍観者のような態度を崩さないタコ大王の姿にクラーケンキングは業を煮やしたかのように言葉を向け、強めの言葉をぶつけられたタコ大王は一貫して侵攻を開始するのは早いのだと訴え続ける。



「地上だって魔法少女やらなんやらが頑張っとるちゅーやん、もう少し様子を見て侵略のリソースを内政に回してもええと思うって話をしとるだけやんけ」


「甘いなタコ、この情報を見ろ」


「なんやねん藪からスティックに……」



海洋連合の支配下海域の内政状況が今も不安定であることを必死に訴えるタコ大王に対し、オルカイザーは記録情報が刻まれた石板を投げて寄越す。


水中の抵抗を受けながらふわりと投げられたソレを怪訝そうに受け取ったタコ大王は、嫌な予感を感じつつも石板から情報を読み取り……そこに刻まれた情報内容に愕然とした表情を浮かべる。



「おかしすぎるやろ、なんで瘴気の連中の動きがあちらこちらで確認されとんねん」


「ある程度は我々で潰したが、地上や魔法の国の方でも少しずつ瘴気の影響が出始めている。これでも動くのは早いと思うか? タコ大王よ」



信じられないと声を震わせながら呟くタコ大王に、クラーケンキングは再度侵攻の判断がこれでも早いのかと問いをぶつける。



「……せやな、魔法少女らが頑張っとるちゅーても、これだけ動きが出てしもうとるなら状況は待ったなしや」



彼らは間違いなく悪の組織に分類される一団である、しかしそれ以上に為政者であり自分達を慕い頼る民達を守る責務に誇りを抱く者達でもあった。


故にこそ、世界を根底から蝕み捻じ曲げる瘴気の勢力が世界を蹂躙しようとすることなど見逃すことが出来るはずも無かったのである。



「わいも男や覚悟決めたで、バックアップはカチっとやるから任せてーな」


「同意を示してくれて有難い、貴様と貴様直下の後方支援能力は群を抜いているからな」


「やめーや、おっさんに褒められても触手が強張るだけやっちゅーねん」



クラーケンキングからの掛け値なしの言葉に、タコ大王はこそばゆそうに触手をうねうねさせながら憎まれ口を叩いて軽口を返す。


かつて昔なら顔を合わせれば嫌味の応酬からの殺し合い待ったなしな関係であったが、グレートウォーと言う地獄とヒーロー達との邂逅は彼らの精神性を大きく変えていた、そしてだからこそ。



「例え我らが救われぬ悪だとしても、悪には悪の矜持がある」



クラーケンキングとタコ大王のじゃれ合いを無言で眺めていたオルカイザーが、静かに語り始める。


闘争だけが生きがいの俗にいうバトルジャンキーと呼ばれる人種であるオルカイザー、しかしだからこそ死闘を繰り広げた強敵に託されたモノは何物にも代え難い誓いでもあった。



「これ以上英雄の犠牲を許容できないからこそ、惰弱となった世界に教えねばならない。瘴気との戦いは未だ終わって等いないという事を」


「……そうだな、その通りだ」


「正直気が滅入る話やけどな……せやけど、わいらが動かにゃならんならやるしかあらへん」



誇り高き悪は、光も差し込まぬ海底にて人知れず気高い意志の下に起きるであろう犠牲を踏み潰す覚悟を固める。


自分達の進む道が屍山血河を作り出す地獄であることを、理解して。





【マスコット解説劇場~悪の組織「海洋連合」について~】

「ロンロンと」

「コンコンの」

「「マスコット解説劇場―」」


「というわけで何だか悪の組織らしからぬ悪の組織についての解説をしていくのである」

「儂ら、はたしてどうやってあの話知った体なんじゃろうな」

「大丈夫なのである、本編と解説劇場は繋がってたり繋がってなかったりするご都合時空なのである」

「ソレは大丈夫とは、儂言わないと思うのじゃ」


「と言っても大多数の勢力はグレートウォーで吹っ飛んでるのであるなー」

「クラーケンキング、タコ大王、オルカイザーの代表的な3名しか生き残っておらんからのう」

「ちなみにそれぞれの主戦力であるが、クラーケンキングはサイボーグ海洋生物部隊、タコ大王は魚とかクジラをモチーフにした機械兵器、そしてオルカイザーは少数精鋭の超戦闘能力怪人がメインだったらしいのである」

「見事なまでに特徴がバラバラじゃのう」


「でも不思議な事に、グレートウォー終盤は海洋連合とヒーロー達が手を組んで戦っていた記録も探すと見つかるのである」

「タコ大王傘下の巨大クジラ戦艦が飛行する海洋兵器の援護を受けながら凶悪組織の本部へ突撃、更に擱座したクジラ戦艦からオルカイザー率いる怪人軍団が進撃したとかいう記録映像もあるからのう」

「普段の悪の活動でも割と話が通じる分類だったらしいから、割と面白珍生物系悪の組織枠だったらしいのである」

「労働奴隷として攫った民間人をおにぎり1個で働かせた挙句、痩せ細って来たから解放したとか言うエピソードもあったのう」


「……コンさん、本当にあいつら悪の組織って括りでいいのである?」

「どっちゃかというと自警団組織ってノリじゃ、なんせ海は広い上に人の手も目も行き届かん魔境だからのう」


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