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第40話 作中の時間軸はまだ真夏



季節は真夏の真っ盛り、入道雲が浮かぶ空からは殺意すら感じる凶悪な日差しが分け隔てなく降り注ぐ猛暑のとある日。


煉獄めいた気温と天気のせいか蝉すらも弱々しく鳴き、今も一匹の蝉が力尽きて樹木からぽとりと音を立てて地面に落ちた頃。


資本主義の力の化身じみたお屋敷の一室の、魔法少女とマスコット達がたむろしている普段ならば冷房がガンガンに効いた快適空間である部屋の中は、灼熱地獄と化していた。



「あ、づぅぅ……」


「クーラーが壊れると、クソヤベぇですわぁ……」



お部屋の窓を全開にしていても尚蒸し暑い空気に満ちた部屋の中、もふもふの毛皮に身を包んだ狐マスコットことコンコンはお気に入りのソファの上で、体全体を伸ばしてぐったりと倒れ伏しており。


扇風機の前に陣取っている麗に至っては、タンクトップにハーフパンツと言うお嬢様らしさを投げ捨てた格好を取った上で、ロンロンがちゃぷちゃぷと浮いている水が張られている盥にその足をつけているという昭和のおっさんかと思うかのような状態であった。



「あのー、我輩いつまで盥に氷作ってればいいのである?」



一方すっとこドラゴンことロンロンは水を張った盥の中に漬けられ、時折むにゃむにゃと唱えた氷を作り出す魔法を唱えては盥の水に浮かせる事により、室温を僅かにでも下げる為の冷却氷を作成するマッスィーンにされていた。


まがいなりにも当代の竜の巣の王、竜王に対して中々に酷い扱いと言えよう。



「我慢せいロン坊、水盥に浸かれるだけましじゃろうが……」


「コンさん毛皮だから水に漬かると大変そうなのであるなぁ」


「こういう時ばかりはこの毛皮が恨めしいわい……」



時折麗の素足でもちもちなお腹を弄ばれつつも、ロンロンは部屋の中のメンバーの中である意味一番マシな環境にいる事からそれ以上文句を言う事もなく、時折小さな氷を作る魔法を使っては室温低下の努力を続ける。


ちなみに竜の巣純正のプライドが高い竜にこんな事頼んだ日には、烈火のごとくブチギレられるのは言うまでもない。



「ヴぁーー、暑いですわ!!」


「騒ぐでない、毛皮がない分お主は儂よりもマシじゃろうに」


「そうはいっても暑いものは暑いのですわ!」



暑さの余りムキー!と言わんばかりに癇癪を起す麗、その我儘さだけを切り取ればお嬢様らしいと言えなくもないがだらしない格好はお嬢様と言えるかどうかは不明である。


しかしその時、麗の脳裏に閃きの電光が走る。



「そうですわ!暑いのならば涼しいところへ行けばいいのですわ!」


「藪からスティックにも程があるのである」


「シャラップですわ!爺や、爺やはおりまして?!」



盥に足を漬けたまま勢いよく立ち上がった麗の勢いで、盥から放り出されそうになったロンロンが盥の端っこに捕まりながらボヤくように呟く。


しかしそんな幼竜のボヤキに耳を貸すことなく、麗は勢いよく手を叩いて爺やを呼び出す。



「如何しましたか?お嬢様」


「爺や!お車を出してくださいまし、海に行きますわ!」


「承知いたしました、それではすぐにご用意致します」



麗に呼び出された爺やは、かっちりとしたいつもの仕立ての良いスーツに身を包み汗一つ浮かべることなく麗の我儘を聞き届けると、うやうやしく一礼をして準備のために退室していく。



「唐突に何を言い出すかと思えば……しかしこの暑さではどうにもならんし、悪の組織連中もおとなしいからたまには良いじゃろうて」


「海?確かめっちゃ広い水たまりなのであったか?」


「なんじゃロン坊、お主海は見た事ないのかの?」


「知識と映像でしか知らないのである」



海に行くなら話が早いとばかりに支度を始める麗とコンコンの様子に、ロンロンは盥から這い出るとタオルで体を拭きながらコンコンへ問い掛け、意外にも海を実際に見た事は無いロンロンに驚きを見せるコンコン。



「海に行ったらスイカを叩き割って焼きそばとか食べますわよロンロン!」


「スイカ!食べたいのである!」


「こやつ本当に食い気には忠実じゃのー……」



そんなわけで急遽決まった海へのお出かけする事となった麗と愉快なマスコット達。


彼女達は執事さんこと爺やが運転するリムジンに乗り込み、穴場とされる海水浴場へと向かう事となったのだが……。



「我輩思ったのであるが、お屋敷のエアコンがだめなら直るまでエアコン全開の車に籠っていたらダメなのであるか?」


「そんな環境にお優しくない事は魔法少女的にNGですわ!3DSに配慮できる魔法少女であるべきですわ!」


「任天●に配慮してどうす……いや配慮は必要かもしれんが全く違うわ、このタワケ」


「それを言うならSDGsだと、我輩は思うのである」



そんな身もふたもない会話を交わしている間にリムジンは海水浴場の駐車場へと到着し、周囲の海水浴客が駐車場に乗り込んできたリムジンに仰天するのにも構わず、ラフい格好に身を包んだ麗は爺やから水着が入ったバッグを受け取ると、一目散に更衣室へと走り出す。



「アヤツ、めっちゃ浮かれておるのう」


「ゴリラまっしぐらなのである」



当の本人がいないのを良い事にナチュラルにロンロンが麗をゴリラ呼ばわりする中、爺やは微笑ましいお嬢様やマスコット達の様子に穏やかに笑みを浮かべると、軽々と言わんばかりの調子で日よけ用のパラソルやらレジャーシート、クーラーボックスを取り出して肩に担ぐと砂浜へ向けて歩き始め……コンコンとロンロンもまた執事に続く形で砂浜へと向かう。


彼らが向かった砂浜は穴場と呼ばれるだけあって、それなりに人々が水遊びを楽しんでいる姿が目に付くものの、有名な海水浴場のような砂浜や海よりも人が多いと言われるような光景とはかけ離れた長閑な風景が広がっていた。



「うひょほーい!海なのであるーー!」


「これロン坊!……まったく、アヤツも大概はしゃぎすぎじゃのう」


「ロンロン様もまだ年若い様子ですからなぁ」



そんな雄大な海を生まれて初めて見たロンロンはコンコンが止める間もなく浮かれに浮かれ、小さな足を動かして波打ち際へ一直線にかけていく。


余りにも幼いロンロンの行動にコンコンは苦笑いをしながら、爺やが用意したコンコンサイズのビーチチェアに寝そべりサングラスをかけながら浜辺で優雅にレジャーにいそしむスタイルを取り始める。



「お待たせしましたわー!」


「ようやっと来たか……ってお主、水着姿でこそいるものの魔法少女に変身しておるではないか」


「ふっふっふ、これは作戦ですわ!コンコン!」



更衣室で着替えてきた麗が遅れてやってくるが、コンコンが言う様に水着姿であると同時に麗は魔法少女マジカルゴリラ……じゃなくてマジカルウララに変身していた。


特に怪人が現れているわけでもないというのに、魔法少女になっているマジカルウララにコンコンが不思議そうに問いかけると魔法少女は自信満々に、チューブトップ状のブラに覆われた豊満な胸を張りながら作戦を語り出す。



「コンコンとロンロンが一緒に居たらわたくしの正体がバレてしまいますわ!でも魔法少女の姿なら、誰も気にしないって寸法ですわ!」


「ふむなるほど、悪い作戦じゃないのう……魔法少女と言う時点で人目を引くという点に目をつむるならばじゃが」



思った以上にごり押しスタイルな麗ののたまった作戦にコンコンは頭痛を堪えるように呻きつつも、爺やがすかさず差し出したトロピカルなドリンクをちゅーちゅー吸う事で気を紛らわせるのであった。


ちなみにロンロンは……。



「ゲットだぜ!」


「ぬわーーー!?なのであるー!」



波打ち際で海水浴に訪れていたやんちゃ少年の群れに虫取り網によって捕まり、玩具になってしまっていた。



「我輩はポケットなモンスターじゃないのである!放すのである!」



必死に麗とコンコンに助けを求めているが、悲しい事に彼の救援コールは彼女達に届いていないのであった。




【マスコット解説劇場~麗のスタイルについて~】

「ロンロンと」

「コンコンの」

「「マスコット解説劇場―」」


「と言うわけで季節をガン無視して夏真っ盛りなお話をお送りする中、ぬるっと始まる解説劇場なのである」

「何のかんの言ってイモムシ怪人をウララが消し飛ばしてから、まだ半年も経っておらんからのー」

「それなのにゴリラの成長速度が速すぎてビビるのである、そりゃ悪の組織の連中も匙を投げて然るべきなのである」


「しかしウララのヤツ、女である儂から見てもほれぼれするぷろぽーしょんじゃわい」

「そうなのである? 我輩からしたら、すっげー腹筋とか太ももと腕の筋肉してるのであるとか思っていたのである」

「ロン坊、それ絶対ウララのヤツに言うでないぞ? じゃが言うほどバキバキと言う訳でもないわいしの」

「少なくとも叔母ちゃんはもっとほっそりしてたのである」

「タワケ、ウェルロスのやつは儂から見ても心配になるぐらい細っこいだけじゃわい」


「でも言われてみれば確かに、ウララが熱心に読んでるトレーニング冊子に出てくるお姉さん達よりもウララの筋肉はおとなしいのである」

「むしろアヤツの将来的に、これ以上筋肉つけたら体型が崩れそうじゃから儂としては心配なんじゃがのー……」


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