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第39話 復活!恐怖のイモケム怪人!



日本のどこかにあるかもしれないしないかもしれない悪の組織の秘密基地。


今日も今日とて光を忌み嫌う悪の住人達は、雁首揃えてドーナツ状のテーブルについて中心にホログラフィックとして映像が表示されている、とある魔法少女の戦闘風景を眺めている。


千差万別と称するのが適切かと思われるほどにバラエティに富んだ外見をしている悪の面々であるが、不思議な事にその表情は皆諦観を含んだ絶望の乾いた笑いを上げているという奇妙な光景が広がっていた。



「どうして……どうして……」


「おかしくない?ゴリラの破壊力の上昇速度おかしくない?」



自信満々で送り出した自信作の怪人達が次々と鉄拳制裁によって無惨に爆裂四散させられる光景に、悪の幹部は両手で顔を覆い泣き崩れ……。


今も映像の中で鏡怪人マジックミラーを一撃で爆砕しているマジカルゴリラの姿に、別の幹部はあのゴリラ本当に生命体なのだろうかと呟く始末である。



「水晶怪人クリスタルドン、戦車怪人エイブラムン……お前たちの死は無駄では、無駄ではないぞ……!」


「いや無駄だったろ、エイブラムンは結構善戦してたけど」


「あいつの正面装甲が一撃で粉砕される映像は最早恐怖映像だろ」



映像の中で散っていった3人の怪人の内、もっとも実力派であった戦車怪人の死を悼む悪の幹部に別の幹部は、碌にマジカルゴリラに対抗できず一方的にぶちのめされた光景に情け容赦ない言葉をぶつける。


売り言葉に買い言葉と言わんばかりに会議場で取っ組み合いのケンカを始める幹部達を横目に、諦観に満ちた感情を目に浮かべた幹部は思わず遠い目をする始末。


控えめに言って地獄絵図である。



「もういっそ、桜塚市諦めて別の地域の侵略を目指すべきでは?」


「しかしそうすると、他の組織の侵略対象と被る事になる。それに魔法少女から逃げたとあっては他の組織に舐められるわ!」


「じゃあどーすんだよ!あんな暴力の化身、もはや関わらないのが一番じゃねーか!」



喧々諤々と醜い事極まりない口論を続ける悪の組織の面々たち、友情がないわけではないがそれ以上にエゴの塊である彼らに協調性などあるわけがなかった。


しかしその時、勢いよく会議場の扉が開け放たれた。



「マジカルゴリラ討伐の役目、この合成怪人イモケム怪人に任せてほしいでケモ!」


「お、お前は?!」


「兄弟そろってゴリラに爆裂四散させられて余りにも哀れだったから、色々実験してたら生まれた合成怪人!?」


「え?待ってほしいでケモ、俺様そんな適当なノリで生まれたケモ???」



扉をあけ放って現れたイモムシとケムシを掛け合わせたような怪人、イモケム怪人の姿に沸き立つ悪の幹部達。


その中に聞き逃せない言葉があった気がしたイモケム怪人は思わずツッコミを入れるが、立場的に幹部よりも下の立場にある怪人のイモケム怪人の疑問は黙殺された。



「そうだ、こやつは元の耐久力よりもはるかにその耐久力が増している!こやつなマジカルゴリラに対抗できるはずだ!」


「行くのだイモケム怪人!我らの意地をマジカルゴリラへ見せつけよ!」


「ハハァッ!」



大事な疑問を黙殺されたとはいえ悪の幹部の命令、それを怪人であるイモケム怪人が拒否する理由はない。


悪の幹部の堂々たる指令にイモケム怪人は敬礼をすると、雄々しい足取りで退出していく。


そしてイモケム怪人が離れたのを確認すると、幹部達は互いに顔を見合わせて小声で話し始める。



「……で、あいつ勝てると思う?」


「いやー無理だろ、ゴリラの成長速度がえぐすぎる」


「しかしどうする、偉大なる首領が遺したこの組織の宿願。このままでは達成は難しいぞ」



意気揚々と出撃していったイモケム怪人の覚悟を無慈悲な言葉で切り捨てる幹部達、しかし彼らの言葉に別の幹部が言葉をぶつけると幹部達は一斉に……空席となっている会議室の奥にある玉座へ視線を向ける。


この組織のボスである首領はグレートウォーの総力戦の最中で討ち死にしており、この組織は残党兵がまとめあげ維持をしていた敗残兵の集まりであった。



「偉大なる首領は展望のない撤退は容赦なく処罰する御方であった、しかし雌伏するための撤退には寛容であった」


「そうだ!我々は撤退するのではない!後ろに向かって前進するのだ!」



割と戦力的にも払底している有様である上に怪人を開発しても作った先からマジカルゴリラに爆砕される以上、正直現状手がない悪の組織の面々。


幹部達が表の身分で運営しているフロント企業によって運営資金は何とかなっているとは言え、このままでは悪戯に資源と戦力を浪費するのは目に見えていた。


だからこその、一旦活動休止宣言に至るのであったとさ。





そして意気揚々と飛び出したイモケム怪人、彼は一度自分達が敗れた桜塚市郊外にある自然公園に出現。


突如現れた怪人に市民達は若干慣れた様子を見せつつも、それでも大慌てで逃げ始めていく。



「ケーモケモケモケモ!この自然公園はイモケム怪人である俺様のモノにするんだケモー!」


「怪人だーーー!?」


「なんか明らかに継ぎ接ぎっぽい再生怪人だー!」


「おい貴様なんて言った!貴様からぶち殺してくれるケモー!!」


「ぎゃーーーー!?お助けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



出現するや否や我が物顔で自然公園の領有を宣言するイモケム怪人に対し、慌てて逃げつつも若干余裕がある市民が口走ったいらん発言にイモケム怪人は激昂、ターゲットにされた市民はイモケム怪人が伸ばしてきた糸から必死こいて逃げようと試みる。


だがしかし怪人と市民、市民が逃げ続けられるワケもなく哀れな市民がイモケム怪人の手にかかるかと思われた、その時である。



「おーーーっほっほっほっほ!性懲りもなく出てきやがりましたわね!」


「き、貴様は!!」


「魔法少女だ!魔法少女が来てくれたぞー!」



まるで何時かの光景の焼き直しであるかのような光景、そして高らかに響き渡る少女の高笑い。


無辜の市民を守る為、現場に急行した魔法少女は街灯の上に奇麗な直立をしながら高笑いをしていた。


その姿にイモケム怪人は体をわなわなと震わせ、毒牙にかけようとしていた市民の事も忘れ現れた魔法少女へその指を突き付けて叫ぶ。



「貴様は、俺様達の仇敵!マジカルゴリラ!!」


「誰がマジカルゴリラじゃい!!」



そしていつかの光景Take2と言わんばかりのゴリラ呼ばわりと、その呼び方に激怒する魔法少女マジカルゴリラ……じゃなくてマジカルウララ。


その光景を市民の避難誘導を手伝っていたマスコット、コンコンは小さくぼやくように呟く。



「まるであの時の焼き直しじゃのう」


「そうなのであるか?」


「あの時ロン坊は埋蔵金発掘とか言ってサボっておったからのう、知らぬのも当然じゃわい」



呑気すぎるマスコット2名の言葉、そのままマスコット達の視線の先でマジカルゴリラは街灯の上から勢いよく飛び上がると、イモケム怪人めがけて急降下式ジャンプキックを叩き込む。


しかしそこは復活のイモケム怪人、同じ轍を踏まないとばかりに腕から意図を伸ばして自分へ迫りくる魔法少女を絡めとろうと試みる。


だがマジカルウララが意図に撒かれると思ったその時、空中で体を勢いよく捻る事で回転運動エネルギーを作り出し、イモケム怪人が放った糸を絡めとりながら動きを阻害される事無くイモケム怪人のどてっぱらに回転ジャンプキックを叩き込んだ。



「ケモォォォン?!」



ライフル弾もかくやと言わんばかりの回転ジャンプキックをどてっぱらに叩き込まれたイモケム怪人は吹き飛び、公園の舗装床に抉れたような跡を作りながら吹っ飛ばされる。


幸いなことに蹴り飛ばされた方向に噴水はないため大きな損害こそ出なかったが、抉れた床で修理の手間が発生しているのは言うまでもない。



「くっ、ぐふぅ!だがしかし、この程度で俺様を倒せると思うなよマジカルゴリラ!」


「だからゴリラじゃないって言ってるでしょうに!わたくしはマジカルウララですわ!」



膝をがくがく言わせながら立ち上がったイモケム怪人は戦意を喪失することなく、体勢を立て直すとマジカルウララめがけ束ねた糸を使って変則的な関節攻撃を執行。


思わぬ攻撃方法にマジカルウララは少し驚きを見せるがすぐに即応すると、自身へ迫る意図を左腕で弾こうとする、しかしその時。


マジカルウララの手によって払われるかと思われた糸は魔法少女の左腕に粘着力を持って絡みつき、それだけで終わらずイモケム怪人は綱引きの要領でマジカルウララの体を勢いよく糸で引っ張った。


この時イモケム怪人は意図によってマジカルウララを引き寄せ、そして引き寄せた勢いと自身のパンチ力の相乗効果による大打撃を狙っていた。



「綱引き勝負ですわね?負けませんわぁぁぁぁぁ!!」



突如始まった怪人と魔法少女の力比べ、その力比べは一瞬拮抗するように見えたがすぐにイモケム怪人は姿勢を崩してしまい、そのまま自身が狙っていた戦略を逆手に取られマジカルゴリラの剛力によってその体を魔法少女の下へ引き寄せられてしまう。


そうなったら何が起こるかと言えば、言うまでもなく。



「マジカルメガトンパンチ!!」


「ケモォォォォォン!?」



支点力点作用点と言わんばかりの勢いでイモケム怪人のどてっぱらに、マジカルウララ必殺の一撃が直撃した。


引き寄せた時の勢いと下から掬い上げるように放たれた鉄拳の勢いにより、空へと打ち上げられてしまうイモケム怪人。


だがそれでも、まだこの時はイモケム怪人は存命しておりまさに恐るべき生命力と耐久力と言えた。


しかし……。



「ロンロン!アレやりますわ!」


「合点承知の助なのである!」



空に無防備な状態で打ち上げられた怪人、その状態は新たにマジカルウララが習得した必殺技を放つのに最適な条件を満たしてしまっていた。


余談であるが地上に立っている目標にその必殺技を放つことも出来なくはないが、破壊力と周辺への被害的に水平発射をするのは憚れるというのが、この局面に至るまで使えなかった理由だったりする。



「ウララ、パワーを送るのである!」


「っしゃぁ!託されましたわぁー!」



市民達への避難誘導をしていた寸詰まり体型をした幼竜マスコットことロンロンが、精神集中すると共にマジカルウララへ向けて力の奔流によって生まれたエネルギーラインを直結、それによってマジカルウララの体に尋常ではない活力が満ちると共に爆発的に魔法少女パワーが増加していく。


そしてマジカルウララは空中に打ち上げられつつも何とか必殺技から逃れようともがくイモケム怪人を見据えると、弓を引き搾る弓手のように右腕を大きく振りかぶる。


そして。



「マジカルロケットパンチ!くらいやがれですわぁぁぁぁぁぁ!!」



死闘と仲間との絆によって得た新たな力による、現状唯一無二のマジカルウララの遠距離必殺攻撃が哀れなイモケム怪人めがけて放たれた。


その光り輝く巨大な鉄拳は恐るべき速度でイモケム怪人へと迫り、そして直撃したイモケム怪人を瞬く間に光の粒子へと磨り潰すように変換していき……その直後には虹色に光り輝きながら大爆発をするのであった。



「おーーっほっほっほ!大勝利!ですわぁーーー!」



イモケム怪人が爆裂四散したのを見届けた魔法少女は腰に手を当てると、反対の手を口元に充てて上品な勝利の高笑いを上げる。


なお、翌日の地方新聞朝刊の一面を煌びやかできゃぴるんるんとした魔法少女としてではなく……ヒーロー的な扱いで飾る事になったのは言うまでもない。







【マスコット解説劇場~古今東西悪の組織なお話~】

「ロンロンと」

「コンコンの」

「「マスコット解説劇場―」」


「そんなわけでデジャブを感じる悪党成敗をお送りした直後の解説劇場なのである」

「まぁあの頃からはウララの戦闘能力はもう、比べ物にならないぐらい飛躍しておるがのう」

「ゴリラの成長速度がインフレ気味でドン引きなのである」


「それで今回は悪の組織についての解説であるなー、でもこの前同じような解説やった気がするのである」

「うむ、なので今回は悪の組織の資金源について解説しようと思う。無論全てを把握できているわけでもないがのう」

「大丈夫?放送コードに引っかかったりしないのである?」

「安心せよ、放送コードに引っかかるような資金調達をしていた組織はグレートウォーで軒並み消し飛んだわい」


「まず一番多いのが真っ当な稼業によって利益を上げるフロント企業からの資金流用じゃな」

「でもそういう活動やってたら、株主にしこたま突っ込まれそうなのである」

「そりゃそうじゃ、故に悪の組織のフロント企業は株を公開していない事が大半じゃの」

「それはそれで、何か間違ってる気がするのである」


「次に多いのが、そもそも稼ぐ必要がないほどに資産が潤沢なケースじゃの」

「いわゆる悪の王族とかそういう感じであるな」

「うむ、この手の組織の厄介な所は資金調達で労力を要さない関係で、侵略活動に労力を集中投入できるところじゃのう」

「シンプルなだけに厄介なのである」


「後は……コレは変わり種であるが、自分達の活動をエンターティメントとして配信したり企業とタイアップしてる悪の組織もあるのう」

「ソレ、悪の組織としてありなのであるか?」

「こういう連中は悪の組織から足抜けしながらも、今更正義に行けない連中がしかしこれ以上露骨な悪行をしたくない。されども自分の本能から悪をせざるを得ない連中がやる事が多いのう」

「世知辛いのである」

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