これはとある日の昼下がり。
通っている学院が夏休みであるのを良い事に、ロンロン救出作戦を終えた後の数日間を割とゆっくりのんびりだらだらといつもの愉快な面々が過ごしていた時の事である。
「わたくし、空を飛びたいですわ」
「藪からスティックに何を言い出すのであるか、このゴリラは」
いつもの風景が戻ってきたたまり場の部屋にて、唐突にそんなことをのたまったナンチャッテお嬢様こと麗はソファに寝そべっていた体を起こしながら、先ほど思いついた事を口に出す。
その姿はまるで、眼鏡のダメ少年が狸……じゃなくて猫型ロボットに無茶ブリをする前の動きに酷似していた。
「コンコン、何か不思議道具はありませんの?」
「ぬぉぉぉ、筋肉痛が遅れてきよったぁぁぁ……そんなもんないわい」
「やめるのである!我輩のお腹をもちもちするのはやめるのである!」
麗はさりげなくゴリラ呼びしてきた不届きなロンロンに近づくと、彼が逃げ出す前にがっしとその体を掴みもちもちしたお腹を堪能しながら、いつも頼りになるマスコットであるコンコン経視線を向ける。
しかし無情にも、激闘の後遺症と言う名の遅れてやってきた筋肉痛に呻くコンコンはそんな便利道具なんてないと一蹴するのであった。
「そんな事言わないでほしいですわ!コンコンの不思議な伝手と年の功で何かあるはずですわ!」
「しばくぞ小娘、ともあれ空を飛ぶと言うてものう……そんな代物あったらとうの昔にお主に渡しておるわい」
さり気なくド失礼な事を抜かした麗をコンコンは半眼で睨みつつ、そもそもそんなものがあったら飛行能力皆無な麗を補助するためにとっくに用意して出しているとコンコンは説明する。
その言葉に対して麗はぐぬぅ、とお嬢様らしからぬ呻き声を漏らして黙った。
「空を飛びたいなら我輩が大きくなって背中に乗せるのであるよ?」
「ソレもわくわくしますけど!やっぱりわたくしも自分の力で空を飛びたいのですわ!」
ずっとお腹をもちもちされ続けているロンロンは抵抗は無駄なのだと悟った顔をしつつ、麗へ見上げて問いかけてみれば返って来たのは割と我儘さんな返答。
「もう諦めて執事殿に頼んでヘリにでも乗せてもらってスカイダイビングすれば良かろうて」
「えーーー」
「えーーー、じゃないわい全く」
コンコンの素っ気ない言葉に麗はそう言いながらも何か出してくれるんでしょ?と言わんばかりの視線をコンコンへ向けるが、今回ばかりは本当に何もないとコンコンは尻尾を振るのであった。
その様子に麗も今回ばかりは本当に無いのだと理解すると、がっくりと項垂れる。
いつもの3人ならここでこの話はお仕舞となり、そのまま別の話題が始まるところであった。
だがしかし、今回ばかりはそうはならなかった。
「話は聞かせてもらったの~~」
間延びした口調と共にたまり場の部屋の中にゲートが開き、その中から寸詰まりの体型をした狸型マスコットがひょっこりと顔を出す。
「ポンポンではないか、マジカルマシンガンとマジカルバズーカは確かにこの前返したじゃろ」
「違うの~、チェーンソーの修復が終わったから届けにきたの~」
「お主も新婚じゃろ、わざわざ届けに来なくてもこっちから出向いたというのに」
やってきたのはトンチキマジカル兵器の匠マスコットであり、コンコンの親友であるポンポンであった。
ポンポンはコンコンと言葉を交わしつつふかふかの尻尾に手を突っ込むと、ずるりと音を立ててさらに凶悪な出で立ちとなったマジカルチェーンソーMk.IIIを凶悪な重量を示す音と共に部屋の床へと置く。
「ポンポンさん、ありがとうですわ!今度こそ大事に使いますわ!」
「兵器も道具も使ってなんぼなの~、ガンガン使い潰してくれれば問題点洗い出せるから気にせず酷使してほしいの~」
「コンさんコンさん、もしかしてこの方割とマッドな方であるか?」
「チェーンソーとか作る時点で察するのじゃ、ロン坊」
制作者であるポンポンの頼もしすぎる言葉に、麗は満面の笑みを浮かべて床に置かれたチェーンソーを手に取って軽々と持ち上げる。
このゴリラ魔法少女にならなくても割と規格外の体力と筋力になってきてるのである、などと失礼な事をロンロンが考えたのもやむを得ないと言えよう。
「それで~、ウララちゃんは空を飛びたいって話だったの~?」
「っ! はい!そうですわ!!」
「おい待てウララ、悪い事は言わぬからやめておくのじゃ」
「今回ばかりは我輩も同意なのである、なんかすっげぇ嫌な予感するのである」
調度品を壊したりしない程度にマジカルチェーンソーMk.IIIの取り回しをチェックしている麗に、そんなことをのたまうポンポン、その発言にチェーンソーをお嬢様らしさを忘れぬよう上品に床に置きながら麗は期待に瞳を輝かせて同意の言葉を返した。
一方でポンポンが作る代物のトンチキさを知っているコンコンと、培われた経験則から嫌な予感が止まらないロンロンは必死になって麗を止めている。
「コンちゃんもロンロン君も酷いの~、今回は自信作なの~」
「マッドな技術屋が言う自信作ほど、危険な雰囲気が漂う代物はないと我輩思うのである」
「慧眼じゃなロン坊、そしてその考えは概ね合っておる」
必死に止めるよう訴える二人のマスコットに対し、ポンポンはぴょんぴょんとはねながら抗議の意を示した。
ちなみにポンポンが作り出したトンチキ兵器の主な被害者は長い付き合いのコンコンである。
「お主が作った尻尾手入れ機で尻尾どころか全身の毛が縮れたり、マジカルロケットランチャーの試射に付き合って爆発してアフロになった事、儂は忘れておらぬぞ?」
「ちょっと失敗しちゃっただけなの~、科学の発展には犠牲がつきものなの~」
「ソレちょっとの分類なのであるか?」
かつての苦い試験運用と言う名の実験体になった思い出を振り返りながらコンコンがジト目でポンポンを見れば、ポンポンは気まずそうに目を逸らしながら反省の意が全くないと判る発言を返す。
その様子にロンロンは、この狸割とすっとこどっこいだな?と思いつつアフロになったコンコンを思い浮かべかけ……コンコンから鋭い視線を向けられた事で慌ててその思考を打ち切っていた。
「ぐ、ぐぬぬ……でも、空への憧れは止められないのですわ!」
「言葉だけ聞くと良い言葉であるが、その内実を知ると凄くしょうもない憧れなのである」
「シャラップですわ!」
マスコット達のやり取りを見て、安全基準的に若干心が揺らぐ麗であったが自分の安全と空への憧れを天秤にかけた結果、憧れが勝ってしまった。
そうした結果、どうなったか。
「ポンポンさん!スタンバイ完了ですわー!」
「おっけ~、こっちもマジカルジェットパックとウララちゃんの接続が完了されたの確認できたの~」
お屋敷の中庭にて、魔法少女に変身した麗ことマジカルウララは機材を体にセットした状態で仁王立ちしていた。
その姿は魔法少女と言うよりもヒーローとか鉄の城とかそんな感じの出で立ちであったが、それには大きな理由がある。
「のうポンポン、もうちょっとデザインなんとかならんかったのかのう?」
「え~?空を飛べないヒーローが飛べるようにするなら~、このデザイン以外ありえないの~」
コンコンが物凄く奥歯に異物が挟まったかのような物言いで物申せば、ポンポンは口を尖らせながらこのデザインが良いのだろうと反論する。
だがコンコンがそう口にするのもしょうがないと言える、何故ならば……。
「しかしこう、空を飛べるなら我慢できますけども……きついコルセット巻いてるみたいで窮屈ですわ~」
マジカルウララが装備している飛行機材は、まるで金属製の腹巻かはたまたコルセットかと言わんばかりにマジカルウララのお腹周りを覆う様にがっちりと巻かれており、背中側には二つのジェットノズルが付いたロケットのようなパーツが付いていて、左右からは真っ赤な金属製の翼が生えていた。
「コレ、どう見てもその、マジンゴーのジェットなスクランダーにしか見えないのである」
「タワケ!儂が必死に言わないようにしていたことを言うヤツがおるか!」
そう、まさに今マジカルウララが装備しているそれは、偉大なるスーパーなロボットの始祖が空を飛ぶために装着していた装備に酷似していた。
「そのマジカルジェットパックは~、ウララちゃんの魔法少女パワーを燃料にするの~」
「超技術ですわー!」
「ウララちゃんの意思に沿って旋回とかできるの~~」
「よっしゃーですわ!大空はわたくしのものでしてよー!」
ポンポンの言葉を受けてマジカルウララは気合に満ちたお嬢様らしからぬ雄叫びを上げると、離陸のために両足を動かして加速し、背部スラスターを点火させて大空へと飛び立っていく。
「やった~成功なの~~」
勢いよく空へと飛びあがり、そして空を勢いよく旋回したりバレルロールしたりと縦横無尽に飛び回っているマジカルウララの姿に、子供のようにぴょんぴょん飛んではしゃぐポンポン。
「のうポンポン、アレ……試験、しておるよな?」
「小型モデルだとばっちり成功しているの~」
「……ロン坊、備えておくのじゃ」
「合点承知の助なのである」
その様子と言葉に、嫌な予感を感じたコンコンが問いかけてみれば返ってきた無法極まりない返事に、コンコンは頭痛を堪えながら唯一空を縦横無尽に飛べるロンロンに備えておくよう指示を出した。
一方その頃、元気に楽しく大空を舞っていた魔法少女の方はと言えば。
「アレ?そう言えばコレ、どうやって着地しますの?」
空は確かに飛べているが、着地方法を聞いてなかったことに気付く。
「ま、まぁゆっくり減速しつつ地表へ近付けば……ほわーーーー?!」
自分に言い聞かせるように呟きながら減速と下降を始めるマジカルウララであったが、その時背負っているジェットパックのノズルが勢いよく爆発、ダメージはジェットパックが粉微塵になる事で肩代わりしてくれたおかげで魔法少女自体は無傷で済んだが……。
「あ、やっべ、なの~」
「言うとる場合かーー!」
「ちょっと行ってくるのであるー!」
その光景を地上から見上げていたマスコット3人、思い思いの言葉でてんやわんやしながら対処を始める。
地味にマジカルウララの耐久力なら結構な高度から地面に落ちても、人型の穴を地面に空けるだけで済んだりするがそれでも見てる方は気が気でないのは言うまでもなく。
「ポンポン、後でみっちり説教するからの。覚悟するのじゃぞ」
「お、お慈悲をなの~~~」
コンコンは巨大化すると共に翼をはためかせて上昇するロンロンが、その背中でマジカルウララを受け止めたのを見上げながら、親友でありやらかし常習犯のポンポンに死刑宣告じみた説教をすることを告げるのであった。
【マスコット解説劇場~ポンポンの作ったやべーモノの数々について~】
「ロンロンと」
「コンコンの」
「「マスコット解説劇場―」」
「と言うわけであわや墜落の危機、メーデー案件を無事回避したウララを下ろした現場からマスコット解説劇場をお送りするのである」
「なんじゃその独特過ぎる始まりは、ともあれ今回はー……ポンポンのやつが作ったトンチキ道具の数々を紹介するかのう」
「やべえ、この時点ですでにろくでもない代物しか出てこない予感しかしないのである」
「まずはマジカルチェーンソーじゃな、やっぱり」
「最近はウララもアレ気に入っているし我輩らも慣れたけど、何かがおかしい気がするのである」
「ちなみに重量はそれぞれ初代が5kg、Mk.IIが11kg、Mk.IIIが8kgじゃの」
「Mk.II重すぎない?」
「耐久力と頑丈さを重視した結果、重量が膨れ上がったらしいのう」
「まぁうん、その頑丈さのおかげで暴走状態の我輩の攻撃をパリィ出来たと思えば正解だったのであるが……いや、チェーンソーでパリィって時点でおかしくない?」
「考えたら負けじゃぞロン坊、ちなみに設計のブラッシュアップと素材の厳選によってMk.IIIは軽量化に成功したらしいがのう」
「初代から見るとアホみたいな重量増加してるのは相変わらずなのであるなー」
「続いて紹介するのはマジカルマシンガンじゃ」
「コンさんが腰だめに構えてぶっ放してたと噂の機関銃であるな、いや待ってほしいのである。本当にぶっ放したのであるか?」
「ガトリング銃やら火縄に比べたら楽なもんじゃわい」
「詳しい事は聞かないでおくのである。撃ちだすのは弾丸じゃなくて魔法力的なサムシングなのであるな、不思議な兵器なのである」
「ポンポンのやつ曰く、作れそうだったから作ってみたら出来たの~。らしいのう」
「すげえアホみたいな動機なのである」
「ちなみに派手な見た目と裏腹に殺傷力はないのじゃ、当たると死ぬほど痛いがの」
「地球に売り込んだらがっぽがっぽ稼げそうな夢の兵器なのである」
「そりゃ無理じゃ、ポンポンのやつは一度作った道具や装備と同じもの量産する事はいやがるからの」
「なんちゅう難儀な性質してるのであるか、ポンさん」
「そう言えばコンさん、マシンガンやバズーカもそうであるが魔法力をぶっ放すって事は持ち主のパワーに火力が依存してるって事であるよな?」
「うむ、その通りじゃ」
「それならゴリラに持たせたら無法極まりない火力になると思うのであるが、なんで渡さないのである?」
「わかっていて聞くとは中々良い度胸じゃのうロン坊、使うのに繊細な制御が必要な道具なんてウララのヤツに渡したら最後、引き金引いた瞬間マシンガンもバズーカも木っ端みじんに決まっておるじゃろうが」
「うーん、わかってはいたけど無慈悲すぎるのである」