精神世界での戦いによって先代竜王の魂を解放し、最後の決戦に挑むべく在りし日の竜の巣の姿を映し出していた優しい場所を飛び出したマジカルウララ達。
彼女達が再度意識を取り戻すと、先ほどまで瘴気に操られていたロンロンと死闘を繰り広げていた荒れ果てた広間に戻っていた。
精神世界へ取り込まれる寸前の時は満身創痍であったマジカルウララとコンコンは見た目こそボロボロであるが傷一つなく、ついでにさっきまで巨体を誇っていたロンロンはいつも通りの寸詰まりマスコット体型になっていた。
「お嬢様!コンコン様お怪我は大丈夫ですか?!」
「ピカっと光ったら二人とも元気いっぱいだし、ロンロン君は元に戻ってるし不思議極まりないの……」
「大丈夫ですわ!それよりも爺や、シューティングスターさん!何か怪しい黒いモヤモヤはみませんでしたの!?」
黒い巨竜こと瘴気に操られたロンロンにとどめを刺される一歩手前だったマジカルウララ達を救うために駆け出していた爺や達こと、ブラックナイトとシューティングスターは一瞬きの閃光の直後には危機を脱していたマジカルウララの様子に驚きながらも、その身の無事を確かめるべく声をかける。
一方マジカルウララはむんっ、と力こぶを作って見せて元気いっぱいだという事を知らしめると地面に落ちていたロンロンの母の形見である宝珠を拾いつつ……それどころじゃないとばかりに、精神世界から逃げ出した瘴気の行方を知らないか問いかけた。
しかし、その時である。
「──悪意と憎悪に蝕まれ我が子と愛する妻を害し、その事に耐え切れず狂った竜王の苦悩。愉悦であった」
空間全体、竜の巣全体に響くようなまがまがしい声が辺りに響く。
その声の出所を探るべく辺りを見回すマジカルウララ達であったが、コンコンが一際早く声の出所に気付くと上空をその小さな手で指さす。
「ウララ!あそこじゃ!」
「本当ですわ!なんだかソレにモヤモヤを集めていますわ!」
シューティングスター達によって打ち倒され倒れ伏すウェルロスの体からだけではなく、遠くからこちらに押し寄せてきていたドラゴン達の群れから……それだけに飽き足らず竜の巣全体からもどす黒い瘴気が立ち上り、マジカルウララ達の遥か頭上の一点に集まっていく。
「──哀れで愚かな竜王に、我が言葉に縋り姉に託された筈の甥を依り代にする愚かな女、在りし日の栄光の幻影を夢見続ける竜共。嗚呼全てが愉悦であった」
どす黒い瘴気の中心から響くその声は、全てを嘲弄するかのように朗々と謳いながらゆっくりと瘴気によってその体を構築していく。
しかし、その姿をただ指を咥えて見続けるほどマジカルウララはお行儀のよい魔法少女ではなかった。
マジカルウララは無言でコンコンに目配すると、勢いよく飛び上がり……コンコンが空中に作り出した結界を足場にして集まり具現化しようとしている瘴気へ向かって、対空迎撃砲弾が如き勢いで飛翔するや否や。
「くたばりやがれですわぁぁぁぁーーー!!」
空中で回転しながら蹴り上げる攻撃、渾身のマジカルサマーソルトキックを瘴気の中心へ叩き込んだ。
その一撃によって瘴気は声にならない苦悶の声を上げながらその身を揺らし、一方でマジカルウララはそのまま重力に従って落下を始める。
「アホなのであるかゴリラー!? 着地を考えろなのであるー!」
その姿を見て大慌てになりつつも、ロンロンは大きな咆哮を上げるとその体を光と共に巨大化させ……コンコンが頭の上に載ったのを確認すると、大きな翼を広げて飛翔し自由落下を始めていたマジカルウララをその背中で受け止める。
「ナイスですわロンロン!ゴリラ呼ばわりについて今回は不問にしますわ!」
「そりゃ何よりなのである!当然このまま攻撃続行であるな?」
「もちのロンですわ!」
「防御は任せい!例えこの身に代えてでもお主らにあの下衆の攻撃を通させはせぬ!」
軽口を叩き合いつつ最終決戦の意思統一を言葉少なく終えたマジカルウララとロンロンとコンコンの3人は、思い思いの戦意を胸に滾らせ……ロンロンは咆哮を上げながらどす黒い瘴気の中心めがけて飛翔する。
「──愚かで矮小なる存在、魔法少女と名乗る守護者気取りの道化よ、最早遊技場として飽いたこの世界ごと滅び、糧となるが良い」
ゆっくりと全身真っ黒の異形のヒトガタを取り始めた瘴気の塊は、嘲り謳いながらその腕と思しき四肢を自身へ立ち向かってくる赤い巨竜めがけ伸ばし、大量の瘴気を固めた槍を虚空から射出した。
「ウララ!コンさん!しっかり掴まってるのである!」
背中と頭に捕まっている二人にそう呼びかけるや否や、ロンロンは初撃を勢いを殺すことなく器用に翼をはためかせて真横へバレルロールする事で回避、それに留まらず縦横無尽に放たれる瘴気の槍を巨体からは想像つかない機動性を持って回避していく。
時には直撃を食らいそうになることもあるが、しかしソレもロンロンの頭にしがみついているコンコンが傾斜装甲を疑似的に再現しながら展開した結界によって、直撃することなく弾かれる。
「くっ、流石ロンロンのお父様とお母様を弄んだ黒幕だけあって、攻撃が激しいですわね!」
先ほど不意打ち気味に叩き込んだサマーソルトキックの感触から、近付けば痛打を与える自信があるマジカルウララであるも、悲しい事にその射程距離は空中戦を展開している現状においてはゼロに等しい。
その事に歯噛みしつつも、少しずつ黒幕である瘴気の怪物へ近付く中その一瞬を逃さない為に精神を集中を絶やす事なく力を拳へ充填していく。
「──哀れで無様よ、希望に縋る者達など無数に食い潰してきた我らに無策で」
最初に痛打こそ浴びせられたが、碌に攻撃に転じられないマジカルウララ達を嘲弄する瘴気の怪物……しかしその言葉を最後まで告げる事は出来なかった。
「足を止めて弾幕で圧し潰すとか、欠伸が出るぐらい無防備よね」
空中戦こそ己の主戦場、そう言わんばかりに戦線に参戦してきたシューティングスターが放ってきた閃光の収束砲撃、並の怪人なら一撃で消し飛ぶその破壊光線を同時に複数展開しながら砲撃してきた一撃によって瘴気の怪物の体が大きく揺れる。
「シューティングスターさん!」
「若いのばかりに苦労させるわけにはいかないからね!……あ、まっず」
「啖呵を切った直後に直撃を食らいそうになるな、まったく」
極上の愉悦を貪っていた瘴気の怪物、その愉悦の邪魔をしてきた不埒な魔法少女に怪物は言葉を発することなく必殺の瘴気の槍を打ち放つ。
その一撃は極大の一撃を放ったことで、地味に機動力が低下していたシューティングスターを貫くかと思われたが、その寸前に割り込んできたゼフィランサスが手に持った魔法の剣で瘴気の槍を切り払う。
「ゼフィーさんも!」
「遅れてすまない」
自分達をロンロンの下へ送り届ける為、危険な陽動を買って出てくれた頼りになる魔法少女仲間も駆け付けてくれたことに、マジカルウララは満面の笑みを浮かべその名前を叫ぶ。
そして増援はソレだけではなかった。
「吐き気を催す邪悪め、許すわけにはいかぬ。覚悟せよ!」
「魔法少女に遅れるな!王子をお守りせよ!」
「あの時、先代様と共に死ねなかった我らの死に場所はここだと思え!」
遅れて到着したゼフィランサスの妹姫達が、マジカルウララ達に一度は敵対した竜の巣の竜達が次々と戦場へと到達するや否や、瘴気による攻撃を受けながらも決して許すことが出来ぬ悪に対して臆することなく挑んでいく。
「ロンロン!今ですわ!」
「合点承知なのである!」
まさに全方位からの飽和攻撃に晒され、マジカルウララ達への攻撃圧力が低下した一瞬を察知したマジカルウララはロンロンに合図を送り、その合図を受けるや否やロンロンは全速力で瘴気の怪物めがけ高速で突進していく。
「──徒労よ、この程度で殺しきれると思うとは愚か、その思い上がり正してくれよう」
「ごちゃごちゃと、喧しいわこのクソタワケェ!!」
真っすぐ自身めがけて突っ込んでくるロンロンに対し、瘴気の怪物は魔法少女と竜達による波状攻撃をいなしながら、巨大な瘴気の槍を作り出し突っ込んでくる哀れな赤き巨竜を串刺しにするべく射出する。
だがその一撃はロンロンの頭にしがみついていたコンコンの怒りの雄叫びと共に作り出された結界によって阻まれ、結界による反動でコンコンは傷つきながらもその一撃を弾き切った。
そして。
「往生しやがれですわ!マジカルメガトンパンチ!!」
必殺の間合いに入った瞬間マジカルウララは勢いよくロンロンの背中から飛び立ち、拳にために貯めこんだ怒りと魔法少女パワーによって光り輝く鉄拳を瘴気の怪物の顔面と思しき場所へ、雄叫びと共に叩き込んだ。
その一撃が直撃した瞬間空間全体を揺るがすほどの振動が辺り一帯に走り、必殺の一撃を受けた瘴気の怪物の胸から上が抉られたように消し飛ぶ。
しかしそれでも、怪物は死滅してはいなかった。
「──誤算、規格外の魔法少女、上位存在へ報告すべき」
抉るように消し飛ばされた胸元から上を再生しながら、瘴気の怪物は先ほどまでの嘲弄するような言動を取りやめ、どこか焦りを感じる響きを滲ませながら戦闘を放棄して逃げ出そうとする。
「ここにきて逃げるとか、卑怯者にも程がありますわー!」
ジャンプマジカルメガトンパンチを叩き込んだ後、すかさずマジカルウララの落下地点に到達したロンロンの背中に降り立ちながら、魔法少女はやりたい放題他者を弄んだ挙句逃げ出そうとする瘴気の怪物めがけ口から炎を吐き出しかねない勢いで怒声を浴びせかける。
しかし、瘴気の怪物は魔法少女の怒りの言葉を意に介さないどころか……逃がすまいと更なる猛攻を仕掛けてくる魔法少女と竜達の攻撃を一顧だにすることなく逃げの一手を打ち続ける。
その動きは素早く、このままでは竜の巣に係わる全ての者達に不幸と悲劇を振り撒いた災厄を取り逃がしてしまうのかと誰もが思った時。
一目散に逃げだそうとしていた瘴気の怪物が、まるで空間に縫い留められたかのようにその動きを止めた。
「お力添え、感謝しますぞ。ウェルラス様」
「王子……いえ、お姉様の子供と愛したあの人を弄んだ敵を屠る為よ。慣れ合う気はないわ」
瘴気の怪物が怒りと焦燥の赴くままに視線を向けたその先。
そこには瘴気の怪物が目的のために弄び利用した竜の女に体を支えられながらも、逃げ出そうとしていた瘴気の怪物めがけて右腕を掲げ、ピンポイントで瘴気の怪物を逃がさない為に強力な重力場を展開しているブラックナイトが立っていた。
「ウララ!我輩の力を託すのである!だから、あいつを……父ちゃんと母ちゃんの仇を完膚なきまでにぶちのめしてやってほしいのである!」
「任されましたわぁ!!」
今や殺し間となったこの世界から必死に逃げ出そうともがく瘴気の怪物、その姿を見たロンロンは背中に乗っているマジカルウララに対し、マスコット契約によって魂で繋がった力の伝達経路を通して……竜王となった事で爆発的に増加した、己の力の大半を委譲する。
「凄まじい力ですわ、これなら……!」
ロンロンから託された怒りと力、そして今も懐にあるロンロンの母の形見である宝珠から伝わるロンロンと竜の巣の未来への祈り。
そして、愛する仲間であり家族であるロンロンのみならず彼の両親や親族と同族を愉悦の為に苦しめてきた巨悪に対する、燃え滾るような怒り。
それらに導かれるようにマジカルウララはロンロンの背中の上で半身に構えながら、ゆっくりと右腕を引き、見逃す事など出来るはずがない巨悪を見据える。
「これで終わりですわ……マジカルロケットパンチ!!」
マジカルウララはまるで死刑を宣告するかのように瘴気の怪物へ告げると、引き絞るように力を貯めていた右腕を瘴気の怪物めがけて振り抜く。
振り抜かれたマジカルウララの右腕、その腕から勢いよく放たれた極大サイズの光の鉄拳は逃げようともがく瘴気の怪物に一瞬で着弾、その光の空飛ぶ鉄拳は瘴気の怪物の体を磨り潰すように光へと変えていき……。
その次の瞬間、着弾地点である瘴気の怪物を中心にとんでもない規模の虹色の爆発が巻き起こった。
その全てを浄化するかのような虹色の爆発は付近にいた竜を若干巻き込みつつも、彼らに傷を負わせるようなことは無く、爆発と光が止んだ時には瘴気の怪物は塵一つ竜の巣の空には残っていなかった。
「完全勝利!ですわーーー!!」
跡形もなく消し飛んだ邪悪、その姿を見届けたマジカルウララはロンロンの背中の上で拳を突き上げて勝利の雄叫びを上げる。
その勝利の雄叫びはまさに、滅びに向かっていた竜の未来すらも木っ端みじんに打ち砕いた事の福音を告げるモノであった。
【マスコットによる解説劇場~なんでロンロンがトドメ刺さなかったの?~】
「ロンロンと」
「コンコンの」
「「マスコット解説劇場―」」
「いやー、長い戦いもよーやく終わったのである。これでやっと我輩も煮卵食べて冷房効いた部屋でくつろぐ日々に戻れるのである」
「こやつ、シリアスが終わった瞬間だらけモードになったのう」
「しかしロン坊、あの瘴気の化け物はお主にとって仇じゃよな?」
「まぁそうであるなぁ」
「それならば、お主自身が止めを刺したかったのではないかの?」
「あーー……その感情が無いわけではなかったのである」
「ふむ、しかしソレを選べない理由があった。そういう事かの」
「ぶっちゃけた事言うと、我輩必殺技的なの持ってないのである。それならばゴリラ、じゃなくてウララに全部任せた方が安心だったのであるよ」
「び、微妙にしまらない理由じゃのう……。いやあの化け物を逃がす可能性考えたら、確実に始末出来そうなのを選ぶのは間違ってはおらんのじゃが」