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第29話 メカゴリラRETURN



既に日は沈み始め夕陽が町を照らし始める頃。


淫魔怪人インキュバスから貴重な情報と、ロンロンが連れ去られた先である竜の巣へ行くための大事な手がかりを徴収した二人の魔法少女は、最後の打ち合わせのために屋敷の一室へと戻っていた。



「ウララ達が回収してくれたこの宝珠、軽く分析してみたが確かにコイツがあれば竜の巣へのゲートを容易く開けそうじゃの」



コンコンはその小さな手で、ウララ達が淫魔怪人インキュバスから半ば強制的に徴収してきたという宝珠を持ち、宝珠を分析して満足そうに頷きながら言葉を紡ぐ。



「良かったですわ~」


「一つの問題点はクリアできたね」



コンコンの言葉に固唾を飲んで見守っていた麗は少しへにゃへにゃになりながら安堵のつぶやきを漏らし、そんな後輩を見て昴は優しく笑みを浮かべながら麗の後ろ腰をぽんぽんと叩く。


本当は頭を撫でてあげたいところだが、悲しい事に昴が麗の頭を撫でるには背伸びした上でジャンプしないと届かないという事情がそこには存在していた。



「お嬢様、ゼフィランサス様達がお見えになられました」


「案内ありがとうですわ、爺や」



そうしている間に、竜の巣カチコミ隊(麗命名)のメンバーの一員である頼りになる魔法少女ことガールズプリンセスの一団が到着したことを爺やが麗へ告げ、麗は頼りになる執事を労う。



「ガールズプリンセス総勢4名、到着を報告する。よろしく頼むぞウララ」


「こちらこそよろしくですわ!」



ちょっとメカメカしい騎士装束に身を包んだゼフィランサスが爺やに案内されて部屋の中へ通され、右手を差し出してきたゼフィランサスに対し麗はその手を両手でつかんでぶんぶんと上下に振り回す。


そして麗はゼフィランサスの背後にいる3人の少女達に視線を向けると、ゼフィランサスの手を離した後深々と頭を下げた。



「この度はうちのマスコットを取り戻すお手伝いに馳せ参じて頂き、深く感謝を申し上げますわ」


「騎士ならば当然だとも」


「サイサリスー、素直に困ってるなら助けるぐらい言えばいいのにー」


「騎士かぶれのお姉様は相変わらず、変な性分してるねぇ」


「か、からかうな愚妹共!」



麗に深く頭を下げられたくすんだ銀髪をポニーテールにした魔法少女、サイサリスは力強く頷きながら素っ気なく言葉を返し……その言葉を背後に控えていた溌溂とした印象の少女と、どこか斜に構えた少女に笑われる。


カッコいい騎士ロールを全力で台無しにされたサイサリスは、顔を真っ赤にして背後の二人に怒鳴り散らし長姉であるゼフィランサスに大きく咳払いされて、慌てて佇まいを正した。



「すまない……こんな妹達だが腕は確かだ、頼りにしてほしい」


「今更ガールズプリンセスの皆様の実力を疑うわけないですわー!」


「ウララは良い子だな……どうだ、うちの一族に適齢期の男子が確かいた筈だから相手としてどうだ?」


「まだそう言うのは考えてませんわ!」



すっとこどっこいな妹達の痴態に眉間を揉み解しつつ実力は問題ないと言いつつ謝罪するゼフィランサスであるも、麗からの言葉にこんな素直な妹欲しかったなぁとしみじみと遠い目をする。


思わず飛び出た身内への取り込み発言であるも、残念ながらその言葉は軽やかにスルーされるのであった。



「まってゼフィーちゃん、私が良い男の子いないか紹介してほしいって言った時。いないって言わなかった?」


「……今は一旦置いておこうか、今回論ずるべきはそっちではない」


「…………今度、魔法の国のイケメンとのセッティングを要求するの」


「……考えておこう」



なおゼフィランサスの不用意な発言は、絶賛彼氏募集中の魔法少女シューティングスターこと昴に耳聡く察知され問い詰められるという、予想外の事態を誘発していた。


慌てたゼフィランサスは今はそんな事を言ってる場合じゃないと問題の先送りを実行、その先送りに対して昴は一旦矛先を収めるのであった。



「儂も若いイケメン紹介してほしいのう……いやまぁ良い、それは後回しじゃ」



ついでに喪女マスコット狐ことコンコンにも若干被弾していたが、切羽詰まった現状において優先事項は高い話ではないので、気を取り直して小さく咳払いすると。


ぽむぽむと小さな手を叩き、部屋の中のメンバーの視線を集める。



「ゲートは明日の明朝、この部屋に開く。家主殿にも執事殿経由で皆が逗留する旨は了承頂いておるから安心するのじゃ」


「ちょっとタンマ!ウェイトですわコンコン!ロンロンがピンチなのだから、一刻も早くカチコミかますべきだと思うのですわ!」



そしてコンコンの口から飛び出したまさかの言葉に、麗は目を見開くと泡を喰ったかのような勢いで詰め寄る。



「落ち着けいウララ、お主とて亀のヤツの孤児院を竜の群れから守るときに軽くない消耗をして居る上、ずっと気が張り詰めたままではないか」


「でも!」


「完全な状態であるお主の無法極まりない純粋な暴力が必要なのじゃ、お主が一刻も早く助けに行きたい気持ちはわかる。だからこそ、万全足る状態で行くべきなのじゃ」



コンコンの言葉に麗はぐぬぅ、とお嬢様らしからぬ呻き声を漏らしながら黙り込む。


気合と根性さえあれば割と何とかなる性質を持つ魔法少女であるが、それでも決して無尽蔵の体力を持つわけではない。


ましてや……今日の麗は朝から魔法の国に赴き、孤児院を守るために無限湧き状態の竜達を相手に大立ち回りをした挙句、焦りから気を張り詰めたまま今に至っている。


ゲームに例えて言うならば、無限湧きする強敵を相手に延々と戦った後回復を挟むことなく今に至っており、更には回復も休憩もなしに敵の根城へ突入しようとしている状態と言えよう。


しかし、だからと言って納得できないのがゴリラ心、じゃなくて乙女心である。


拳を固く握りしめて震わせる麗の様子に、ゼフィランサスは戦闘衣装を解除し日常的に魔法の国で纏っているドレス姿になりながら、麗の肩を優しく叩いて声をかける。



「ウララ、貴女が戦った竜について改めて聞かせてもらっても良いか?実際に戦った者の意見を聞いておきたい」


「……わかりましたわ、それでは談話室に行くのですわ!爺やー!」


「既に皆様方の寝室の準備、および談話室の準備は整えさせてあります」


「ナイスですわ!」



ゼフィランサスの行動と発言から、麗が引き下がる理由を作ってくれたと察した麗は自身の思考を切り替えるように己の両頬を勢いよくピシっと叩くと、いつもの溌溂とした笑顔を浮かべてゼフィランサスと彼女の妹達を伴い、たまり場の部屋を出ていく。



「コンコンさんも苦労してるよね」


「年長者の務めじゃて、お主は行かなくてよいのかの?」


「私も後で行くわ、でもまぁ……こういうのはゼフィーちゃんの方が得意だしね、あの子聞き上手だしあの子の妹と麗ちゃんの交流も大事だと思うの」


「あやつも良き先輩を持ったのう」



部屋の中に残されたのはベテランマスコットとベテラン魔法少女の二名、戦歴に差こそあれど後に続く者達を導いた経験のある二人は、互いにシンパシーを感じながら言葉を交わす。


そのシンパシーの何割かは、同じ喪女の気配を感じたからなのかどうかは二人の名誉の為に敢えて控えておく。



「あれ? なんかゲート開きそうになってない?」


「む?そうじゃのう、しかし来客など……おお忘れておった、そういえば頼んでいた物があったのう」


「そんな、大密林通販の配達忘れていたみたいに言っていいのかなぁ」



忘れとったわいなどと呑気な事をのたまうコンコンの様子に、やっぱり寄る年波ってあるのかなぁなどと思いつつ流石に口には出さない昴、しかし苦笑いは隠せていなかった。


そんな呑気な事を話している二人の前で魔法ゲートはさらに広がり、二つの影がゲートから現れる。



「コンちゃんお待たせ~、サプライズゲストも連れてきたよぉ~」


「ココガマジカルゴリラノ拠点デスネ」


「なんかメカメカしい麗ちゃんみたいなロボが来たーーーー!?」



ゲートから現れたのは丸々とした印象を見る者に与える、狸のようなマスコットと……。

マジカルゴリラ、じゃなくてマジカルウララと死闘を繰り広げた狂気の科学者が生み出した超兵器ことメカゴリラであった。



「おお、メカゴリラではないか。もう自律稼働できるほどに復旧したのかの?」


「元々の動力炉より出力が大幅に落ちたから~、前よりも性能は落ちちゃったけどね~」



一方大破したメカゴリラを預けたコンコンは、自身の足で歩き動くメカゴリラの姿に感嘆の声を漏らし、狸のマスコットはまだまだ発展が必要だよ~と間延びした声で応じる。



「コンコンさんコンコンさん、説明を求めるの!」


「む、すまぬのう。こちらの狸はポンポン、儂の同期であり独身維持の誓いを破った裏切り者の新婚マスコットじゃ」


「裏切り者とか酷いの~、ポンポンっていうの~よろしくね~」


「あ、どうも。よろしくお願いします」



丸々とした狸のマスコット、ポンポンはコンコンの言葉に困ったような声を漏らしながら身を揺らし、ぺこりと頭を下げて昴へお辞儀。


丁寧にお辞儀をされた昴は面食らいつつも、コンコンが口走った独身維持の誓いという不毛極まりないワードに突っ込むかどうか、若干迷っていた。



「こやつは昔から様々な装備やアイテムの開発が趣味でのう、ウララのやつが振り回しておったマジカルチェーンソーもこやつの発明品じゃ」


「アレは自信作だったの~、でも木っ端みじんになって帰ってきてショックだったの~。でもその反省を踏まえて新型チェーンソーを作ってきたの~」



コンコンに紹介されながらポンポンは肩から下げていた鞄をごそごそと漁ると、その中から明らかにサイズ的に収まるわけがない寸法のチェーンソーを取り出し、ゴトリと重量感に満ちた音を立てながら床の上に置く。


そのチェーンソーは殺意の塊のような造形をしていながら、全体的にピンクなカラーリングで仕上げられており要所要所は魔法少女のステッキがごとく、可愛らしくデコレーションされていた。



「名付けてマジカルチェーンソーMk.IIなの~。メカゴリラちゃんのチェーンソーのデータも活用した自信作なの~」


「見事な仕上がりじゃ、ウララのヤツも喜ぶじゃろうて」


「麗ちゃん、喜んじゃうんだ……」



自信満々にえっへんと胸を反らす狸のマスコット、ポンポンが取り出したチェーンソーに少なからず昴はドン引きしながら呟く。


昴は半ば現実逃避気味に、あの鞄ってやっぱり狸だし四次元なのかな~。などと考えつつ視界から意図的に外していたメカメカしい少女こと、メカゴリラへ視線を向ける。



「それでこちらの、メカゴリラさん……だっけ? 一体どういうロボなの?」


「うむ、そやつは前にウララと死闘を繰り広げたロボじゃ。何でも性能試験のためにウララに決闘を申し込んだらしいのう」


「ヨロシクオ願イシマスワ」


「そ、そうなんだ……あ、どうも。昴です、よろしく」



続けて昴は事情を知っているっぽいコンコンに質問をぶつけ、返ってきたコンコンの言葉にどうしよう何一つ訳がわからないなどと宇宙猫フェイスを浮かべつつ、優雅に一礼をするメカゴリラに気おされつつも挨拶を返す。



「どのぐらいこの町を空けるかわからんからのう、ポンポンとメカゴリラにはこの町の守護を頼んでおいたのじゃよ」


「メカゴリラちゃんの動力炉はまだ不安定なの~、激戦地へ放り込むのはおススメできないの~」


「なるほど……うん、麗ちゃんも安心すると思う!」



想定外の情報の洪水に昴は遠い目をしながら考え込み、そして考える事を放棄した。


続けての昴の行動、それは。



「折角だしメカゴリラちゃんも一緒に談話室行くの、皆に挨拶しよう!」


「アイサツ、ジッサイダイジ。了解デスワ」



このメカメカしい存在こと、メカゴリラの存在に衝撃を受ける道連れを増やす事であった。


そして昴はメカゴリラの硬い手を掴みながら、ぎょっとするメイドさんに声をかけ……談話室へと向かう。


その後、談話室にてかつての強敵との再会に麗がテンションを爆上げしたのは言うまでもない。





【マスコットによる解説劇場~メカゴリラ脅威のスペック~】

「コンコンと」

「ポンポンの」

「「マスコット解説劇場~」」


「いやぁ、最近は儂も忙しくて魔法少女の面々に頼んでおった解説じゃが、何とかマスコットで解説できる状況になったわい」

「いきなりコンちゃんに引っ張られたと思ったら、巻き込まれたの~」

「と言うわけでポンポン、早速じゃがお主が復旧させたメカゴリラの性能について解説頼むのじゃよ」

「コンちゃんは相変わらずだな~、でもスペック語りは大好物だから頑張るよ~」


「メカゴリラちゃんだけど、正直言うと元の状態からは桁違いにスペックダウンしちゃっているの~」

「ふむぅ、やはり原因はぷらずま融合炉とやらの喪失かのう?」

「そうなの~メカゴリラちゃんの固定兵装は全部、プラズマ融合炉の出力ありきだから殆どの兵装がロック状態なの~」

「難儀じゃのう」

「外装を変形させて使うメカゴリラチェーンソーの動力炉は生きてたから~、そこからリバースエンジニアリングして~、更にボクのアレンジを利かせた新機軸動力炉を搭載させて何とか動けているの~」


「しかしそうなると、今のメカゴリラは実質徒手空拳のみで戦うしかないという事かの?」

「基本はそうなの~それにフルパワーで戦闘稼働すると動力炉の出力が足りなくて~、リミッターかけないと三分間ぐらいしか元の出力を出せないの~」

「どこぞの光の巨人じみた時間制限じゃのう」

「ボクが傍にいたら~、エネルギーを送電して時間延長できるの~」

「まさかの外付け給電採用とな」


「でもメカゴリラちゃんの火器管制システムは凄い優秀で~、ボクが作った銃火器とか兵装も運用できるからそっちで何とかできるの~」

「ちなみに聞くがの、主にどんな装備を用意しておる?」

「主にマジカルバズーカとかマジカルヘビーマシンガンなの~」

「ソレ、法令的に大丈夫かの?」

「突っ込まれて調べられなければギリセーフなの~」

「ソレは世間的に言ってアウトと言うのじゃタワケ!」


「あ、そうじゃポンポン。ちょっとバズーカやら何やらを幾つか借りてって良いかの?」

「別に構わないけど~、使い捨ては困るの~」


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