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第26話 今からアイツをこれからアイツを取り戻しに行こうか



ロンロンがウェルロスと言う名の雌竜に連れ去られた後。


ロンロンが育った孤児院の院長こと、亀の院長からとあるモノを受け取った麗達は一旦自宅である屋敷に戻ってきていた。


その理由はいくつかあれども、目的はただ一つである。



「儂はこの宝珠から竜の巣へ渡る術を探す、ウララは共に死地へ赴いてくれる仲間を探してほしいのじゃよ」


「任されましたわ!」


「装備についても並行して調達を進めておく、すまぬが少しだけこの場を離れるぞ」



いっぱい泣いて悲しんで、気持ちを切り替えた麗の気持ちは一つ。

勝手に決意を決めて、自らの身を捧げるような真似をしたロンロンを連れ戻す、ただそれだけであった。


地球に戻ってすぐに、再度魔法の国へ渡るゲートを潜るコンコンを見送った麗は愛用の携帯電話を取り出すと、長い付き合いかつ頼りになる先輩魔法少女へすぐに電話をかける。



「こんにちは昴さん、麗ですけど……ちょっとお時間よろしいかしら?」


『こっちは大丈夫だけど、どうしたの? いつもより元気ないみたいだけど』


「ええ、実はちょっとお願いしたいことがありますの。この前救援に来て頂いてすぐでほんっとーに申し訳ないのですが……」


『合コンの予定がポシャったから暇だからいいよ、何があったの?』


麗がかけた電話の相手は魔法少女シューティングスターこと、星空 昴であった。

昴は明るく取り繕っていながら、どこか陰りがある麗の声音に気付くと心配そうに声をかける。


ちなみに合コンの予定がポシャって暇なのは紛れもない事実なのは内緒である。



「実は……ロンロンが、うちのマスコットが連れ去られてしまいましたの」


『え?! ちょ、ちょっと大丈夫なの!?』


「現在コンコンの方で行き先を調べてもらってますわ、それでお願いがぁ……」


『連れ戻す為のカチコミ?それなら遠慮なく言ってほしいの! 敵はどんな相手?』



一人暮らしのアパートの一室、お気に入りの人をダメ人間にするタイプのソファに寄りかかってスルメを齧っていた昴。


そんな中電話で齎された、麗のマスコットが誘拐されたという情報に思わずソファから飛び起きながら声をかけ、状況を把握すると獰猛な笑みを浮かべながら麗に敵の確認を取る。


小学生の頃から大学生に至る今まで、割と鉄火場を潜り抜けてきたベテラン魔法少女は割と血の気が多いらしい。



「……二階建ての御家ぐらい大きな竜の群れ、それがわんさかいるかもしれないねぐらへの吶喊になりますわ」


『あちゃぁ、それは随分ハードだね……うん、私はおっけーだよ!』


「お願いしたわたくしが言うのも変ですけど、よろしいですの? めっちゃ危険ですわよ?」


『出来る限り自分達だけでいつも頑張る麗ちゃんが頼るってよっぽどの事態でしょ?だったら助けてあげるのが先輩の務めってね! 引継ぎ出来次第すぐにそっちへ行くから!』


「ありがとうございますですわ、昴さん!」


『いいってことよ!ゼフィーちゃん達にはこっちから声かけとくからね!』



義侠心溢れる返事と共に、じゃあ後でねと言い残して昴は勢いよく電話を切る。


続いて麗は知り合いの魔法少女に連絡しようと考えるも、改めて自分が真正面からどつき合った竜達の戦力と知り合いの戦力差を分析する。


普通、誰かに救援依頼をする前に分析すべきであるが昴……シューティングスターは麗が知る魔法少女の中でもトップクラスの猛者である。

彼女の戦闘能力に関して言えば、麗は何一つ疑っておらず何があっても命を落とすことは無いと普通に信じ切っていたりする。



「……いえ、わたくしが知っている中で安心してカチコミに連れて行けるのは昴さん以外だとゼフィーさん達しかいませんわね」



そして改めて一人でうんうん唸りながら分析をした結果を、麗はひとり呟く。


戦力としてはマジカルウララ、シューティングスター、ガールズプリンセスの4名の合計6人。

フラワーカレンは年齢的にも、肉体的にも巨躯を誇る竜達とのガチンコ真正面対決へ連れて行くのは忍びないと判断した結果、このような結論に至る。



「孤児院に攻めてきたときの数を考えると、もう少し戦力が欲しいですわ……チェーンソーも今は修理中ですし」



眉間を揉み解しながら呟く麗、最初はちょっと嫌だったけど使う事がそんなに嫌いじゃなくなってきていたマジカルチェーンソーも、今は修理中で手元にない。


友人である魔法少女達を死地同然の場所へ連れていく以上、万全を喫したい気持ちが彼女にも存在していた。



「お嬢様、お困りですかな?」


「はひゃぁん?!」



そうやって一人うんうん唸っていた麗の背後から、壮年の男性が声をかける。


思わず飛び上がった麗が慌てて背後を振り返れば、そこにいたのはお茶が乗ったトレイを手にした爺やがそこには立っていた。



「御戻りになられたようなのでお茶をお持ちしたのですが、ノックしても気付かない程にお悩みのご様子。この爺やにお話し頂けレば、少しは気持ちも楽になるかと思いますよ」


「爺や……ロンロンが、ロンロンが連れ去られてしまいましたの……」


「なんと、それは誠ですか?」



戻った報告をしていないのに、気配だけで戻った事を察した様子の爺やに麗は内心で若干の戦慄を覚えつつも、今現在抱えている悩みを訴える。


麗から放たれたその言葉は爺やにとっても衝撃で、いつもの冷静沈着が服を着ているかのような爺やが目を見開いて驚愕する。



「それで、助けに行くために戦力を集めたいのですが……」


「なるほど、お嬢様もお辛かったでしょうに」


「いえ、わたくしは大丈夫ですの。でも、ロンロンがこのままじゃ……」



爺やに不安を吐露する麗、彼女の脳裏に蘇ったのはウェルロスが放ったロンロンの命などどうでも良く『器』になればよい、と言い放ったあの発言。


その言葉の内容は麗であっても、ロンロンが置かれた状況がのんびりしているわけにはいかないという事を理解させるには十分な内容であった。



「昴さんに声をかけ、昴さんからゼフィーさん達にも声掛けをしてもらっているのですけど……」


「皆まで言わなくてもわかりましたとも、不肖この爺やも老骨ながら御供致しましょう」


「だ、ダメですわ!とっても危ないですわ!」



麗の言葉に沈痛そうに頷いた爺やは、力強く頷くと自らの胸を叩いて麗達のカチコミへの同道を申し入れる。


突然の爺やの言葉に麗は目を見開き、そんな危ない事させるわけにはいかないと必死に叫ぶ。


しかし、爺やは好々爺とした笑みを浮かべたまま懐から傷だらけのバックルのような何かを取り出した。



「大丈夫ですとも、もはやロートルと言って久しい身でございますが。腕に覚えはありますので」


「へ?どういう事ですの?」



突然の爺やのカミングアウトに麗の目が点になる。


麗にとって爺やは幼少の頃に亡くした祖父とは性格も言動も全く異なる大人でありつつも、それでももう一人の祖父と言っても差し支えないほどに身近な人物である。


そんな爺やに、実は自分も腕に覚えがあると言われれば驚愕する他ないと言えよう。


そして。



状況についていけず目が点になっている麗の目の前で爺やが傷だらけのバックルを自らの腰に当てると、バックルの左右から金属製の鎖のようなベルトが引き出されひとりでに爺やの腰に巻き付いて固定される。


そして爺やは麗の目の前で大きく腕を回すようにポーズをとると力強く叫ぶ。



「……変身!」



爺やの力強い叫びと共にバックルが中央から左右に開き、ひび割れた紋章が現れそれらが勢いよく回転して旋風を巻き起こせば、バックルから生み出された眩い光が爺やの体へと巻き付き硬質化して黒く輝く傷だらけのスーツへと変わる。


そして最後にどこからともなく現れたフルフェイス式の兜のようなヘルメットが爺やの顔へと装着され、爺やの変身は完了した。



「星光戦隊スターナイトが一人、ブラックナイト。ここに見参でございます」


「じ、じ、爺やが変身ヒーローでしたわぁぁぁぁ?!」



傷だらけのスーツ、一部には罅が入り金属製のアーマーパーツに欠けたところすらありながらも力強い佇まいを示すその姿に、麗は屋敷中に響き渡るほどの大声で驚愕の叫びを上げるのであった。





【魔法少女による解説劇場~星光戦隊スターナイトについて~】

「シューティングスターと」

「ガールズプリンセスリーダー、ゼフィランサスの」

「「魔法少女解説劇場―」」


「待てシューティングスター、これは一体なんだ。何を私はやらされている」

「しょうがないの、今ロンロン君が誘拐されて行方不明な上にコンコンさんも調べもので席を外してるから、私達がやるしかないわけ」

「そうは言うがな……ええいまぁいい、さっさと済ませるぞ」


「とはいっても私も詳しく知らないんだよねー、グレートウォーの時に活躍していた戦隊の人達ってくらいしか知らないや」

「それでいいのか、まったく。私の方である程度解説しようじゃないか」

「ゼフィーちゃんは知ってるの?」

「妹、サイサリスが騎士道的に憧れていたとか言っていてな。熱心に解説された事がある」

「お姉ちゃんは大変なの」


「星光戦隊スターナイトは、様々な星の力を授けられた戦士達によって結成された戦隊ヒーローだ。リーダーのレッドナイトを筆頭にブルー、ホワイト、グリーン、ブラックの5人で構成されていたらしい」

「イエローはいなかったの?」

「ゴールドナイトがいたらしい、俗にいう6人目ヒーローだな」

「いたんだ……」


「戦い方は若干メンバーによる差はあっても徒手空拳や剣に斧や槍など、白兵戦等が主だったみたいだ」

「なるほどなぁ、今回爺やさんがブラックナイトだったって判明したわけだけど。他のメンバーはどうなったの?」

「……グレートウォーの末期に運用していた巨大ロボが大破、そこから白兵戦に移行したが記録では全員が行方不明になっていると言われている」

「……全滅かぁ」


「でも、爺やさんがこうやって生きていたって事は他のメンバーも生きているかもしれないね」

「そうだな、そうだといいのだがな……」


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