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第20話 同僚に実家での様子を見られると気まずいのは世界共通


人生で初めて経験した魔法ゲートを使用した、異次元にある魔法の国への移動と言う経験。


そんな人によっては羨望の余り血涙を流しそうな経験を果たした麗が感じた感想、それは。



「魔法の国の酔い止めってすごいですわ!あれだけ気持ち悪かったのがピタって泊まりましたわ!」


「ちなみに地球に持っていったら、薬事法的な方向で怒られるのである」


「ソレ、わたくしが飲んでも大丈夫なんですの!?」



魔法の国の公衆トイレはバリアフリー完備である事と、魔法の国で売ってる酔い止めは後遺症が心配になるぐらい良く効くというものであった。



「大丈夫なのであるよ、ちょっと科学で証明できないのが1個2個通り越して10個ぐらいあるから薬事法通らないだけらしいのである」


「昔は天狗の薬だのエリクサーなどと言って、秘密裡に流通されとったそうじゃがのー」



ロンロンとコンコンの説明に対して、思った以上に昔から魔法の国は身近にあったんだなぁなどと麗は思いつつ、魔法ゲート酔いが覚めた麗は改めて周囲を軽く見回す。


そこには麗のような体型をした人から、コンコン達のようなマスコットが往来を行き来して時折見慣れない人間界の服装をした麗に好奇の視線を向ける人物がいるぐらいで、それ以外は桜塚市となんら変わらない平和な光景が広がっていた。



「魔法の国と言っても、そんなに地球と違いはありませんのね」


「そりゃそうなのである、でも空を見上げてみてほしいのである」



素直な麗の感想にロンロンもまた同意を示しつつ、すっとこドラゴンマスコットは小さな手で空を指さす。


その言葉に釣られて麗が空を見上げると、そこには。


デフォルメされたつぶらなお目目がついた、大きな雲が空を揺蕩う様に泳いでいた。



「え?なんですのアレ?まるで某キノコおじさんのワールドに出てくるような雲ですわ……?」


「そう言う種族なのである、空から困っている人や事故が起きていないか見守るという大事なお仕事をしてくれているのである」


「ほえー……メルヒェンですわぁ」



空を見上げた先にあった地球では見られない光景に、麗は感嘆の吐息を漏らす。


そして目が合った雲めがけ、麗が大きく手を振れば雲もまた腕のような雲をにょきっと伸ばして麗に対して腕を振って返事をした。



「ちなみにお手当もがっぽり出るお仕事らしいのである」


「変な所で現実に引き戻すのはおやめなさい、ロンロン」



そしてちょっと世知辛い話に、麗はロンロンに対して腕を組みながらジト目で見下ろすのであった。


和気藹々とはしゃぐ麗とロンロン、そんな二人にコンコンは半ば呆れながら言葉を紡いだ。



「まったく、観光しに来たわけじゃないじゃろうが。ロン坊や、お主が育ったという孤児院へ案内せい」


「ぐぬぅ、観光気分で有耶無耶にする作戦大失敗なのである」


「さりげなく姑息な事考えていましたのね」



コンコンの言葉に対し、ロンロンはよっぽど孤児院へ案内するのが嫌だったのか呻くように呟く。


麗はロンロンの言葉に腰に手を当てて呆れるとロンロンを抱き上げ、逃げられないよう小脇に抱えた。

最初はじたばたともがいていたロンロンであるも、見た目以上にがっちりホールドされている事で逃げられないと悟ったのか、諦めたかのように力を抜いた。



「わかったのである、逃げないし案内するから下ろしてほしいのである」


「いやですわ、なんだか絶妙に収まりが良いからこのまま行きますわ」


「我輩の羞恥心とかそう言うの考慮されなさすぎて、泣けるのである」



ロンロンが現状を嘆くも状況が変化する事はなく、ロンロンは麗の小脇に抱えられたまま自身が育った孤児院への道案内を始める。


てくてくのそのそと歩く事数分間、やがて麗達の視線の先には大きくはないがされども小さいとも言えない一階建ての建物が見えてきた。



「アレが我輩の育った孤児院なのである」



ロンロンは麗の小脇に抱えられたまま説明すると、頑張って麗の腕の中から脱出して地面に着地する。



「む、逃げられましたわ」


「流石に孤児院の弟妹の前で、抱えられた姿見られるのは我輩もいやなのである」


「ロン坊も多感な年ごろじゃったか……」


「微妙に距離感のある多感な少年を見る目はやめるのである、コンさん」



コンコンがしみじみ呟いた言葉にロンロンはジト目を向けながら応じる。


しかし気を取り直したのか、ロンロンは麗達を先導するように歩き始めるとマスコットの身長でも操作できる高さにある呼び鈴のスイッチを押す。



「建物の造りは特別変わったものはないですわね……」


「そりゃのう、人型の子供とかも預かるじゃろうから奇抜な造りになる事もないんじゃろうなぁ」



建物を興味深そうに眺めている麗が呟いた言葉に、コンコンは世界が変わっても生きる者の体型が極端に違ったりしないのであれば、そんなに変化は生じないモノだと説明する。


そうしている間に孤児院の中から賑やかな足音が聞こえ、すぐにドアが開かれた。



「おきゃくさまですかー……あ、ロン兄ちゃん!ロン兄ちゃんだ!」


「おう、久しぶりに帰ってきたのであるよー」



扉を開けて出てきたのは、小学校低学年ぐらいに見える大きさの男子であった。

その見た目はロンロンやコンコンのような寸詰まりのマスコット体型と異なり人間に近い体躯をしているが、人間とは明らかに異なる特徴を有していた。



「ロン兄ちゃん、そっちの人達は誰―?」


「我輩が契約している魔法少女のウララと、同僚マスコットのコンさんなのである」


「そうなんだ!はじめましてウララさんとコンさん!おれはテンテン!よろしく!」



その少年の半ズボンから見える足はふわふわした毛に覆われており、頭には兎のような毛足の短い大きな耳が生えていたのだ。

しかしその少年は兎のように臆病という事はなく、むしろ好奇心で瞳を輝かせながら麗とコンコンを見ながら元気に挨拶をする。



「はじめましてテンテン、ロンロンにはお世話に……うん、お世話になっていますわ!」


「うむ、そうじゃのう。よろしくのうテン坊や」



元気で愛らしい少年の様子に麗とコンコンは頬を緩ませ、麗は体を屈めて微笑を浮かべながら少年と目を合わせて挨拶をし、コンコンもまた近所の元気な子供を見守るお婆ちゃんのような目で少年を見ながら挨拶をする。



「テンテン、亀爺ちゃんはいるであるか?」


「かめじー?うん、いるよ!」



ロンロンは人知れず麗とコンコンが余計な事を言わなかった事にさりげなく安堵の溜息を洩らしつつ、孤児院に帰って来た目的をテンテンと名乗った弟分へ尋ねる。


少年はロンロンの言葉に屈託ない笑みを浮かべながら、ついてきて!と告げると足早に孤児院の中に入るようロンロンたちを促した。



「お邪魔しますわ~」


「失礼するのじゃ」


「ただいまなのであるー」



三者三様の言葉と共に麗達は扉を潜って孤児院の中に足を踏み入れると、テンテンの案内によって院長の部屋に到着した。



「テンテン、ちょっと我輩は亀爺ちゃんとお話あるから皆とおやつを食べてくるのである」


「わかったー!ありがとうロン兄ちゃん!」



ロンロンは院長の部屋の前まで案内してくれた弟分に、魔法ポケットから取り出したお菓子が山盛りになっているバスケットをテンテンへ渡す。

独り占めする考えが吹き飛ぶぐらいお菓子が山盛りになったバスケットに、テンテンは目を輝かせると嬉しそうに受け取ってロンロンにお礼を言いながら元気に走り去っていくのであった。



「さて……亀爺ちゃん、入るのであるよー」



元気な弟分の様子にロンロンは満足そうに頷くと、ちらりと麗達に一度だけ視線を向けた後院長室の扉をノック。



「ロンロンか、入ってきなさい」


「お邪魔するのであるー」


「し、失礼しますわ!」



ロンロンがノックした扉の向こうから聞こえてきた穏やかな声に、ロンロンは呑気に入る旨を伝えながら扉を開く。

扉を開いた先の院長室、その部屋の奥にいたのは……。



「ふぉっふぉっふぉ、相変わらず元気そうじゃのうロンロン」


「亀爺ちゃんも元気そうで何より、なのである」



豊かな口ひげを揺らしながら、上機嫌そうに声を弾ませる立派なゾウガメであった。







【マスコット達による解説劇場~麗達の好物について~】

「ロンロンと」

「コンコンの」

「「マスコット解説劇場―」」


「我輩の黒歴史が掘り起こされる予感を感じる中、18回目の解説を始めるのである」

「怒涛の勢いで展開が進むもんで、儂はついていくので精一杯じゃわい」

「ソレ明らかに年寄りの……いやなんでもないのである」

「よろしい」


「今回は皆の好物について解説するのである!」

「今までとは打って変わって普通の解説じゃのう」

「たまにはこういうのも良いと思うのである」


「まずはゴリラ、じゃなくてウララの好物から説明するのである」

「そうじゃのう、アヤツの好物は何と言ってもバナナじゃな」

「剛力無双でバナナが大好き、これはもはやゴリラそのものだと我輩は思うのである」

「……ノーコメントにしておくかのう」


「次はロン坊じゃが、まぁこやつはご存知の通りかのう」

「割と事あるごとに煮卵食べているであるからなー、でも煮卵以外にも大好きなモノあるのであるよ?」

「ほう? 言うてみい」

「卵焼きにオムライス、後おでんの卵も大好きなのである」

「全部卵ではないか」


「最後にコンさんであるが……コンさん、何が好物なのである?」

「これと言って浮かばぬのう、強いて言えば玉露かのう」

「コンさん狐だし、油揚げとかネズミの天ぷらとか好きだと思っていたのである」

「狐が全員油揚げとかが好きというのは偏見じゃぞ」


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