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第9話 兵どもが夢の痕

麗ことマジカルウララがチェーンソーデビューを果たしてから数日後の、とある祝日の平和なお昼時。


自室とは異なるマスコット達に宛がわれた屋敷の部屋、もはやたまり場と化しているその部屋にて出前注文し届いたラーメンを啜っていた麗は、ふとした疑問を口にする。



「そう言えば唐突に浮かんだ疑問があるのですけども」


「マジで藪から棒に唐突であるなー」


「なんじゃい、唐突に」



行儀よく口の中身を呑み込んでから、唐突な事を言い出した麗に訝しそうに視線を向けるロンロンとコンコン。


そんな2人の様子に構う事無く、麗はふとした時に浮かんだ疑問を二人へぶつける。



「怪人とか怪獣とか悪の組織を相手にしてるのわたくし達みたいな魔法少女ばかりではないですか」


「そうであるなぁ」


「そうじゃの、それがどうかしたのかの?」



急に今更何を言い出すんだこのゴリラ、と口に出さないが表情にありありと出しているロンロンの態度に麗は気付くことなく、言葉を続ける。



「殿方のヒーローって居たりしないんですの?ニチアサで放送してるお面ライダーとか、合衆国のキャプテンUSAみたいなの」



麗がふとした時に感じた疑問の正体、それは何故魔法少女しか悪党と戦いを繰り広げていないのかと言うモノであった。


別にその事に対して不満があるわけではないのだが、小学生女児まで頑張って戦っているのだからそう言うヒーローが居ても良いだろうと思ったり思わなかったりしているようだ。



「ウララ、それお主が魔法少女になった頃に質問されたから教えておるんじゃが」


「え?そうなんですの?」


「こやつ、そっくりそのまま忘れておったな……面倒じゃ、ロン坊説明するがよい」


「ゑー、我輩が説明するのであるかー?」


「儂のラーメンの煮卵くれてやるわい」


「わーい、やったーなのである!」



麗が魔法少女初心者だった頃に説明していたらしいコンコンは、同じ事説明するのいやじゃとそっぽを向くと面倒な説明役をロンロンへと押し付ける。


割と辛辣な扱いにしょんぼりする麗だが、そんな彼女の様子を尻目に自分の分のラーメンを食べ終えたロンロンは何処からともなくホワイトボードを引っ張り出してくる。



「マスコット解説劇場、出張編を始めるのであるー」


「おー、頑張るのじゃぞ」


「コンさんマジでやる気ないのであるな……」


「しょうがないじゃろ、ウララのやつがチェーンソー以外にもっと良いのがないかと無茶ブリしてくるんじゃから」



こういう時ぐらい休ませろタワケ、と言い放つコンコンに思わず同情するロンロン。


気まずそうに目を逸らす麗であるも、最近使うようになったチェーンソーは余りにもスプラッタ過ぎる上魔法少女が使う武器としてはどうかと思う、などと麗は激しくコンコンへ抗議している関係で彼女は今新たな装備の調達に四苦八苦しているらしい。



「まずウララが質問した男性のヒーローであるが、前は普通に活動していたのであるよ」


「え?そうだったんですの?」


「ついでに今は魔法少女パワーと言われているけど、ぶっちゃけ魔法少女が一番強い力を持つ素養があるからそう名付けられているだけで、魔法少女以外の男性にも素質ある人はいるのである」



ロンロンの説明に対して、そうだったんですの!?と驚きを露わにする麗。


その様子を見て、儂説明したんじゃけどなぁと尻尾を力なく垂らして溜息を吐くコンコン。



「じゃあなんで男性ヒーローが今は活動してないかって話であるが……大きな理由は二つであるな」


「その理由は聞いても大丈夫ですの?」


「大丈夫なのであるよー」



コンコンから今回の解説料として渡された煮卵をもぐもぐしながら説明を続けるロンロンに、麗は興味津々とばかりに質問をぶつける。



「まず第一に、ヒーローになろうとする男性と言うのは総じて自分よりも他人を優先する気質が超強いのである。自分が傷ついて誰かの涙を止められるなら、喜んで傷を引き受けるようなヒーローばかりだったのであるな」


「まぁ、とても素晴らしいですしかっこよいですわ!」


「そのせいで男性ヒーローは戦いを終えるたびに軽くない傷が蓄積し、早期引退やむなしと言う事態が多発したのである」



ロンロンから説明されたかつて活動していたヒーローたちの生きざまに目を輝かせる麗であるも、続いて放たれた言葉に絶句する。



「まぁこれぐらいならマスコットとか組織の支援とかで何とかなったんであるけどなぁ、一番の理由はやはりグレートウォー事件が大きすぎるのである」


「グレートウォー事件???」


「……ほら、夏休みとかの長期休みになるとヒーロー大集合な劇場版とかあるのであるな?」


「ありますわねぇ」


「ぶっちゃけて言うと、全世界規模でソレが起きたのである。もう40年以上昔の話であるなー」


「その時はすさまじい死闘に次ぐ死闘を全世界のヒーロー達は繰り広げてのう、その時に襲ってきた悪は全て滅んだがヒーロー達も大半が命を落とすか引退に追いやられてしもうたのじゃ」



ロンロン、そして補足するように言葉を継ぎ足したコンコンの言葉に麗の表情が固まる。



「ってちょっと待って下さいましコンコン、そう言えば思い出しましたけど一つ目の理由は聞きましたけど。グレートウォーとやらは初耳ですわ!」


「む、そうじゃったかの?」


「コンさんも年であるから……あ、すんません。なんでもないです」



余りにも衝撃的過ぎるグレートウォー事件に放心する麗、しかしさすがにそんな大事件を聞かされていたら忘れる事なんてないとコンコンに猛抗議を開始する。


一方、そう言えばそうじゃったかのうなどとすっとぼけるコンコン、思わず言わなきゃいい事を呟くロンロンに対して恐ろしい目線を送り、その言葉を黙らせていた。



「ま、まぁ話を戻すにして。グレートウォーの時はヒーローのみならず魔法少女も戦いに参加しておったらしいのであるが、彼女達は誰一人命を落とさなかったそうである」


「それって、もしかして……」


「お察しの通り、ヒーロー達の献身である。そしてソレが今は魔法少女達しか活動してない事に繋がるのである」


「と、言いますとどういう事ですの?」



グレートウォーの際に魔法少女も参加しながら、ヒーロー達のおかげで当時の魔法少女に被害者はいなかった事は察した麗であるが、それが今の魔法少女の身が活動している事に繋がる事が理解できず首を傾げる麗。



「当時魔法少女として活動していた、今は魔法の国の中でも最も強い国力を持つ国の女王様になっている方が……『もう二度と、私達みたいな想いをする子を出さない為に、ヒーローが要らない世界にしよう』と発布したのである。」


「それまではヒーローの才能がある男子や益荒男に魔法の国やソレに連なる機関は積極的に声をかけていたのじゃが、そういうアプローチは掛けないようにしたんじゃよ」


「なるほど……もしかして、その魔法の国の女王様って……?」


「……深くは語らぬがの、目の前で自分を庇った恋仲のヒーローを亡くしておる」



いつもは飄々とした口調で語るロンロンがどこか神妙そうな口調で語れば、コンコンは沈痛そうに顔を俯かせて言葉を重ねて補足を入れる。


自分が思った以上に壮絶な世界を巡る戦いの歴史に、麗は胸の前で手を組み勇気ある戦士たちの魂に祈る事しか出来ずにいた。



「まぁソレはソレとして緊急時のやむを得ない判断とやらで、たまーーにヒーローになる男子もいるらしいがのう」


「ポケットなモンスターの色違いぐらいにはレアなのである」


「わたくしの感動を返して下さいまし!?」



それはそれ、これはこれと言いつつ台無しな事を抜かすコンコンとロンロンに全力で突っ込みを入れる麗なのであった。




そんな賑やかな会話を部屋の外から偶然耳にする人物が一人いた。


そろそろ食べ終えたであろう、出前ラーメンの食器を下げに来た爺やである。


爺やは部屋の中から聞こえてくる話題に、どこか懐かしそうに目を細めると未だ捨てられずにいる懐の中にある傷だらけのベルトのバックルのような物体を、優しく撫でる。



「……少しばかり、時間をおいて部屋に伺うとしましょうかな。今はいつも通りでいられる自信がありませんからね」



誰に言うでもなしに、様々な感情が籠った呟きを口から漏らすと爺やは表情を取り繕い足音を立てることなく部屋の前から立ち去るのであった。




【マスコット達による解説劇場~ヒーローについて~】

「コンコンと」

「ロンロンの」

「「マスコット解説劇場―」」


「そんなわけで本編でも解説劇場やったのに、引き続き解説する8回目なのである」

「コレありなんかの?」

「ダメだったらその時はその時なのである」


「しかしグレートウォーか……懐かしいのう」

「そう言えばコンさんは年齢的に、いやなんでもないのである」

「ふんっ、まぁ実際経験者ではあるのう」


「我輩はその時はまだ生まれてなかった関係で、マスコット学校で聞いた内容しか知らないのであるが、実施どんな状況だったのである?」

「ん?魔界に異次元に宇宙、果てや世界征服を狙うマッド組織の大進撃じゃったぞ?」

「凄いであるな地球、なんでまだ無事なのであるか……」

「それこそ命を賭して戦った戦士たちのおかげに他ならぬわ」


「でも我輩素朴な疑問なのであるけど、そうはいっても悪の連中がボチボチいる以上。魔法少女だけに戦わせては戦力足りないと思うのである」

「タワケ、今活動している連中はグレートウォーやグレートウォー以前に暴れていた連中の足元に及ばぬ雑魚じゃわい」

「えーーー……どんだけ魔境だったのであるか」

「ついでに悪行の悪辣さも桁違いじゃったの、今は魔法少女が即応しているという事もあるが……当時は即応しても尚被害者の数が膨大何てことも多々あったわい」

「何それ怖い、そんな連中がもし出てきたらウララやばいと思うのであるが大丈夫であるか?」

「ウララの戦闘能力は当時の最強格ヒーローに匹敵しておるからの、よほどの事がない限りは大丈夫じゃろうて。それに今の魔法少女達も総合的には強くなってきておる、昔のように蹂躙されることは無い筈じゃ」

「ちょっと待ってほしいのである、ゴリラおかしすぎない?」


「ところで、執事さんが何か凄い意味ありげだったけどもしかして……」

「まぁお察しの通りと言ったところかのう」

「ウララのスパーリングやトレーニングに付き合っているのに、息切れ一つしないからおかしいと思ったがそう言う事であったか」

「しかし戦いの後遺症もあるようじゃし、あやつが戦場に出る事は避けたいところじゃのう」

「執事さんには我輩もお世話になっているのであるからなぁ、我輩らもウララのサポートを頑張っていかないといけないのである!」

「……ロン坊、お主大丈夫か?なんか変な病気に罹っておらんかの?」

「酷いのである!!」



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