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第8話 輝け!マジカルチェーンソー!

マジカルゴリラ……じゃなくてマジカルウララは正義の魔法少女であり、その物理的戦闘能力は魔法少女の中でも群を抜くどころか文字通りの桁違いの力を有している。


「マジカルパンチ!」


「アバー!」



その光り輝く鉄拳の一撃は悪を砕き、引き締まりつつも華奢な腕から投擲される瓦礫や大岩は一切の容赦もなく悪を叩き潰す。



「マジカルキック!」


「グワー!」



近場の魔法少女から救援を求められれば爺やが運転するリムジンで現場に駆け付け、苦戦する魔法少女達と逃げ遅れた市民を庇いながら悪党を叩きのめす姿は、まさに現代のキングゴリラ……じゃなくてクイーンゴリラと言えよう。



「トドメですわ!マジカルメガトンパンチ!」


「ヌワァァーーーーー!!」



そして今も、県境を跨いだ先にある街で繰り広げられた悪者との決戦においても、小学生女子を中心で構成された魔法少女チームがキラキラした光線を放ち、ピカピカしたマジカルステッキからふわふわしたリボンを放つことで攻撃する戦場において、マジカルゴリラは少女達が苦戦していた悪者のボス……。


その名もワルイーゾと言う分かりやすい事この上ない悪党に、最近閃いた新必殺技その名もマジカルメガトンパンチを叩き込むことでその体を爆裂四散させる。

完膚なきまでの大勝利、だがしかし。


マジカルゴリラ……じゃなくてマジカルウララの顔はどこか憂鬱そうな顔をしていた。



「凄いですマジカルウララさん!」


「わたし達のキュアリング光線も、ふわふわリボンも通じなかったワルイーゾを一方的にやっつけるなんて!」


「あの、大丈夫ですか?もしかしてワルイーゾの攻撃が……」


「い、いえ!大丈夫ですわ!わたくしはこの通り元気モリモリですわよ!」



闘いを終え、最終決戦フォームと言える凄くふわふわひらひらした年下の魔法少女達に駆け寄られ、賞賛とお礼の声を女児たちはマジカルウララへ述べる。


しかしどこか憂鬱そうな頼りになるお姉さんの顔に、女児たちの一人が心配そうに見上げるがウララははっとした顔をすると眩いばかりの笑顔を浮かべて親指を立てた。


その後は特別トラブルもなく、マジカルウララは少女達と記念撮影をした後解散し爺やが運転するリムジンに乗り込んで帰宅。


そしていつも通りの日常へと……。



「うらやましいですわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「なんじゃ藪から棒に」



戻るという事はなく、年下の魔法少女達の救援を終え帰宅したお屋敷に麗の雄叫びじみた悲しみの咆哮が響き渡る。


時刻はすでに夕暮れ時と言うのに、賑やかな事この上ない有様である。


マスコット部屋に入るや否やテーブルに突っ伏し、唐突に喚き始めた麗の様子にコンコンは驚きの余り全身の毛を逆立たせつつジト目を向けて麗を睨んだ。



「羨ましいとか言うけど、何が羨ましいか言ってもらわないとわからないのである」


「そうじゃそうじゃ」



淑女らしからぬ雄叫び、まるで未来から来た青狸に縋り付くまるでダメな少年が如き方向を上げるゴリラに対し、マスコット2名はまず何が羨ましいか説明しろと要求する。


その言葉に対しゴリラ、じゃなくて麗は顔を上げると大きく深呼吸して口を開く。



「わたくしも!魔法少女っぽいキラキラした装備や必殺技がほしいですわ~!」


「何言っているであるか、普段からキラキラした一撃が必殺な拳振り回しているのである」


「違いますわ!スティックやコンパクトとか、そういう魔法少女っぽいのがほしいのですわ!」



麗は魂を込めた渾身の雄叫びを上げるも、普段と何が違うと言わんばかりにロンロンは一蹴。


そのあんまりな態度に麗は額に青筋を浮かべながら己の願望を曝け出す。


しかし、その願望に対して特別冷ややかな視線を向けるマスコットが居た。

そう、コンコンである。



「ほーーーう? 魔法少女の初陣やるときに儂が用意したステッキもコンパクトも粉砕した娘が、良くもまぁ抜け抜けとそんな事言えたものじゃのう?」


「う゛っ」



そして繰り出されるコンコンからの口撃に麗は怯む。


そう、このゴリラはコンコンが用意した魔法少女初心者用の鉄板装備であるキラキラしたマジカルなステッキと、魔法少女パワーを使って様々なフォームチェンジや必殺技を放つことが出来るコンパクトを初戦でぶっ壊したのである。



「確かステッキは怪人をぶん殴ったらへし折れて、コンパクトは使い方が良くわからなくて敵に投げたのであったか?」


「うむ、儂が自腹まで切って用意した装備を初使用で木っ端みじんにしよったわ」


「ドン引きなのである」


「ひぃん」



その辺りの経緯を雑談レベルでしか耳にしてなかったロンロンが詳細をコンコンに聞けば、思った以上に無常な内容に心底ドン引きしたつぶやきを漏らす。


ついでに麗はまたテーブルに突っ伏した。



「コンコン~~、ごめんなさいですわ~。謝るから魔法少女みたいな装備わたくしも欲しいのですわ~!」


「お主は未来の青狸に縋り付くダメ少年か、まったく……」


「そんな事言いつつ、何か用意しようと考えてそうなコンさんも十分未来の青狸適正あると思うのである」


「やかましいわ若僧」



しょうがないのう、などと小さく呟くコンコン達の会話に涙にぬれた顔をテーブルから上げる麗。


このゴリラそんなに魔法少女的キラキラに憧れていたのであるな、などとロンロンが失礼な事を考えるのに気が付くことなく、麗はどこかに通話を始めようとするコンコンに抱き着く。



「ありがとうなのですわ!コン衛門~!」


「ええい放さぬか、これではマスコット通信もままならぬわ。と言うか誰がコン衛門じゃ」


「やれやれ、なのである」



感極まった麗はコンコンの言葉も耳に入らないのか、彼女のふわふわした体を抱きしめて頬ずりし始める。


そしてコンコンのマスコット通信の結果、ピカピカ光る派手な魔法少女装備が丁度新作が手に入るという事で麗は喜色満面の笑みを浮かべた。



そして、麗がコン衛門……じゃなくてコンコンに泣きついてから数日後。


新しい魔法少女装備が届いたとコンコンが麗に伝えた瞬間、その装備を確認する前に怪人出現をマスコット達は察知。


現地でその装備をお披露目するという話になったのだが……。



「ま、待て?!マテマテマテ!貴様がいくらゴリラだとは言えその装備は魔法少女的に持っていちゃダメなヤツだろう?!」



これから人々に恐怖と混乱を撒き散らそうと意気揚々とした表情を浮かべていた、切株怪人ウッドガイは丸太のような胴体から伸びた手でマジカルウララを必死に制止していた。


彼が怪人らしからぬ恐怖を露わにしている理由、それはとても簡単な話である。



マジカルウララが手に持っている新作魔法少女装備……ソレはギラギラと獰猛な光を放つ刃を高速回転させ、地獄の魔獣を思わせる駆動音を高らかに辺りに響かせていた。



「何で魔法少女がチェーンソー持ち出してるんだよ!!」



そう、コンコンが用意したマジカルウララ用新装備。


ソレは魔法少女パワーで駆動する電動伐採工具、チェーンソーを模した必殺武器その名もマジカルチェーンソーであった。



「コンコン?ねぇコンコン? コレ魔法少女の装備じゃないですわ?!」


「何言うておる、キラキラ光っておるし激しい音も出しておる。立派な魔法少女の装備じゃろ」


「こんなのわたくしが思っていた魔法少女の武器じゃないですわ~~~!!」


「えぇい、文句を口から垂れる前にとっとと怪人を始末せぬか」


「コンさん、容赦ないのであるな……」



まるで新作のロボットプラモ、それの贋作をプレゼントされた少年のような絶望をマジカルウララは表情に浮かべながらコンコンに抗議するも、抗議されたマスコットはその抗議を一蹴。


その余りにも無情な光景に、思わずロンロンが呟く地獄絵図である。



とりあえず結論から言えば切株怪人は何事もなく解体され、町には平和が戻った。


しかし、マジカルウララこと麗は翌日の新聞の一面記事の内容にまたもやテーブルに突っ伏してさめざめと涙を流す。



「マジカルゴリラ、新たな芸風の開拓か!?とはまた、酷い見出しなのであるなー」


「全く、光るし動くし派手な音を立てるという欲求全て叶える装備じゃというのに文句を言うとはウララは我儘じゃのー」


「あ、コンさん意趣返しとかじゃなく真面目にウララのオーダーに沿ったつもりだったのであるか……」


「うえぇぇぇぇん……」



文句しか言わないウララの様子に、コンコンは我儘な娘じゃのうと言わんばかりの態度。


そんな先輩マスコットの様子を見ながら……。



「まるで注文と違うプラモを買ってきたら孫にギャン泣きされるお婆ちゃんみたいなのである」


「ん?なんぞいったかぁ?若僧」


「何も言ってないのである!!」



まぁ色々あるし今も麗はさめざめと涙を流しているけども。

とりあえずは平和であった。



「もうチェーンソーはこりごりですわ~~~~!!」



なおマジカルチェーンソーは破壊力と取り回しの良さは抜群が過ぎる為、マジカルパンチ等が通じない相手には時々凶器として使うようになるのだが……。


今の麗はそんな未来が割と早いうちに訪れる事を、知る由もないのであったとさ。




【マスコット達による解説劇場~魔法少女の装備について~】

「コンコンと」

「ロンロンの」

「「マスコット解説劇場―」」


「そんなわけでゆるっと始まった解説劇場、7回目なのである」

「段々ネタ切れの足音が近づいている気がするのう」

「まぁ先の話をしてもしょうがないのである」


「今日は魔法少女の装備について解説なのであるー」

「アレじゃな、リリカルな感じのデバイスとかプリティでキュアキュアな携帯電話とか、魔法のコンパクトとかそんな感じのアイテムじゃの」

「わかっていたけど、コンさんの口からプリティでキュアキュアとか聞くとその、キツイのである」

「摺り下ろすぞ小僧」

「ヒェッ?!」


「ま、まぁともかく!基本的に魔法少女の変身って千差万別なのである」

「マスコットの力を借りて変身するパターンと道具を使って変身するパターンの二通りが主じゃが、中には普段は偽装していて偽装を解く事で魔法少女になるパターンもあるのう」

「今まで出た魔法少女で言うと、ゴリラ……じゃなくてウララがマスコット助力変身、シューティングスターが道具変身、GPなガールズプリンセス達が偽装解除パターンであるな」

「まぁもちろんこれら以外にも色々居るから、このパターンだけとは言い難いんじゃけどな」


「そして道具や装備だけど……ぶっちゃけ種類やら効果がバラバラで説明に困るのである」

「魔法少女パワーを収束して光線としてぶっ放す杖とか言う直接的な代物から、魔法少女パワーでお菓子を出して皆を幸せにするブレスレットまであるからのう……」

「いやマジで分類わけだるいのである、こういうのってどういう処が作っているのであるか?」

「基本的にはマスコットが所属しているところから魔法少女に授与されたり、そう言うのを作るのが得意なマスコットが用意したり調達したりとマチマチじゃのー」


「ちなみに今回ウララが受け取ったマジカルチェーンソー、アレどうやって手に入れたのである?」

「ああ、古い付き合いの道具制作職人やっとるマスコット仲間に頼んだのじゃよ」

「その、中々キワモノな道具造る知り合いなのであるな……」

「モノは良いぞ?今回の切株怪人を解体する時に、ウララが全力で振り回しても刃毀れ一つせんしな」

「いや、それはそれでやべー代物だと我輩は思うのである……」


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