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第2話 【急募】ゴリラ脱却方法

全てを平等に明るく照らす朝陽が、町を照らし出していく。


日常的などこにでもある朝の風景、それは一般的とは言い難い豪奢なお屋敷が立ち並ぶ高級住宅街の一角にある立派なお屋敷でも同様であった。



「納得いきませんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



訂正、なんか一般的とは言い難い可愛らしくも憤怒に満ちた雄叫びが響き渡ると同時に、声の主がどたどたとけたたましい音を立てながら走る音と共に。



「コンコン!ロンロン!緊急会議ですわーーー!!」



足音の主が目当ての部屋に辿り着くと共に、ドアの蝶番が臨終寸前の悲鳴を上げながら乱暴に開け放たれる。


扉を開け放ったのはこのお屋敷の主である、景気の悪いご時世を関係ないと言わんばかりに長者番付を駆け上がる不動産界の風雲児……の一人娘。


強く気高く可愛らしくをモットーにお嬢様であろうと奮起している華の女子高生、春日井(かすがい) 麗(うらら)である。なお現在進行形で強さはともかく気高さと可愛らしさを投げ捨てているのは言うまでもない。


そんなお嬢様に対し、声をかけるのは2匹のコロコロとした体形の不思議なナマモノ達である。



「なんじゃ藪から棒に」



可愛らしい声に対して不釣り合いな老人口調で喋ったのは、コンコンと呼ばれた二頭身のお茶が入った湯伸びを両手で抱えている狐のようなマスコット。


自身の体ほどもありそうな大きなふわふわとした尻尾が気怠そうに揺れている事から、麗が持ち込んだ話がどうせ大したモノじゃないだろうと、声に出していない感情が露骨に表れている。



「そうなのである、それと我輩流石に反省したからそろそろ下ろしてほしいのである」



そしてそのすげない態度を取るのはロンロンと呼ばれた、全体的に丸っこい印象を与える二頭身のドラゴンもまた同じで、麗とマスコット的珍生物2匹の関係性がどのようなものかを物語っていた。


なおロンロンは自身が言っているようにロープでぐるぐる巻きにされている上、天井から吊るされており今も下ろしてほしいと懇願している。



「えぇいこのトンチキマスコット共め……コレを見るのですわ!なんでこのわたくしが新聞にまで『マジカルゴリラ』扱いされてますの?!」



まともに取り合う姿勢を欠片も見せないマスコット2匹に、麗は拳を握りしめぐぬぬと唸るがそれどころじゃないと気を取り直すと、テーブルの上に手に持っていた新聞紙を激しく叩きつける。


良いからとにかくコレを見ろ、そういわんばかりの麗の態度にコンコンは面倒臭そうに湯呑の中のお茶を飲み干すと、どれどれと言わんばかりの仕草で新聞を覗き込み……麗が何故こんなにも癇癪を起しているのか理解した。



「マジカルゴリラまたしてもお手柄!イモムシ怪人を鉄拳粉砕大喝采!! ……か、なんじゃ良い事ではないか。地方紙とはいえ一面記事で取り上げられとるし悪い事はなんも書かれとりゃせんではないか」


「マジカルゴリラって時点で大問題ですわ!わたくしはゴリラじゃなくてウララですわ!! 好意的に応援して下さるのは大感謝ですけども!」



麗がテーブルに叩きつけ、コンコンが読み上げた新聞の一面記事、ソレには先日出現したイモムシ怪人事件の顛末が掲載されていた。


内容としてはマジカルゴリラ……じゃなくてマジカルウララにボコボコにされた挙句、魔法少女パワーが極限まで込められたアッパーカットを食らいイモムシ怪人が爆発四散した旨が記載されている。


そう、今も複雑な表情をしながらもプリプリと怒っている縦ロールのお嬢様……彼女こそがこの町で怪人を拳や蹴りでしばき倒し、町の平和を守っている正義の魔法少女。


正式名称マジカルウララ、通称マジカルゴリラの正体である春日井 麗その人なのである。



「何を今更言っているのであるか、そもそもウララが活躍するたび新聞は大体こんなノリなのである。それと下ろしてほしいのである」


「うっ、それはそうですけども……でも納得いきませんわぁーーー!あんなに華麗に美しく怪人をおしばきしたと言いますのに!」


「普通お嬢様は『おしばきした』とか言わないのである。それと下ろしてほしいのである」



吊るされたままのドラゴン的マスコット生物、ロンロンが心の底からどうでも良さそうに言い放つ言葉に麗は言葉に詰まりながらも、納得いかないとばかりにうがーと吠える。


ちなみにロンロンが先ほどから縄で縛られて天井から吊るされている理由は、先日のイモムシ怪人襲撃と言う緊急事態の時に徳川埋蔵金発掘を理由に失踪していたのが理由である。


先ほどから口を開くたびに下ろしてほしいと懇願しているが、この仕打ちについては残念でもないし当然であった。



「でも!でも酷いですわ!わたくしはちゃんとマジカルウララって名乗っておりますし、ゴリラじゃないって何度も何度も言っておりますわー!」


「まぁウララが憤然極まり無いのも理解できなくはないがのー、良いではないかゴリラ。強くて賢くてその上優しい、お主にぴったりじゃろ」


「いやですわー!ゴリラなんて魔法少女から最もかけ離れているのですわ!」



残酷極まりないコンコンの言葉に対して、麗は新聞紙を叩きつけたテーブルをバンバン叩いて遺憾の意を示すし、麗に叩かれるたびに頑丈かつ高価そうな造りのテーブルは壊れそうな軋み音を立てている。


だが彼女の癇癪もある意味しょうがないと言えよう、麗は華の女子高生であり魔法少女になる前の幼少期は魔法少女に憧れ、魔法少女になった今は戦闘スタイルはともかく魔法少女であろうと努力を続けているのだ。


その憧れと積み上げた努力的にも、ゴリラ呼びを素直に受け入れるわけにはいかないと言えよう。



「しかしのー、お主は魔法少女とかお嬢様とか言っとるけども……普通のお嬢様は毎朝朝陽が上る前に起きて10kmのロードワークとかせんじゃろ」


「しかもウララ、ロードワークの後帰ったらトレーニングルームでウェイトトレーニングまでやっているのである。お嬢様どころか魔法少女やっている娘でもそんなトレーニングやっているのいないのである」


「う゛っ!そ、それはそれ!これはこれですわ!戦いに赴くモノたるもの鍛錬は必須なのですわ!」


「限度があると思うのである。それとそろそろ下ろしてほしいのである、昨日の晩御飯どころか今日の朝ごはんも食べてないからお腹減ったのである」



喧々諤々と麗がいかにゴリラであるかを説明するマスコット達、それを否定する麗。


何とも不毛な会話が繰り広げられる中、コンコンが大きな狐の耳をピンと立てて何かを察知する。



「む、どうやらまた怪人が出てきたようじゃぞ」


「えーー、この前イモムシ怪人をおしばきしたばかりですのにー。まだ朝トレした後のご飯も食べてないのですわ!」


「適当にサンドイッチなりなんなり摘まみながら向かえば良いじゃろうて」


「あのーお二方―、我輩も今日はサボらないから下ろしてほしいのである。もしもーし?」



唐突に空気が慌ただしくなり、部屋を飛び出していく麗とコンコン。


一方吊るされたままのロンロンはこれ幸いとばかりに、仕事をするから下ろしてほしいと懇願するが二人は華麗にスルーをしたまま部屋を退出していくのであった。



「おやロンロン様、貴方は現場へ向かわれないので?」


「吊るされたまま放置されてるのであるー、執事さん助けてほしいのであるー。我輩腹ペコなのである」


「気の毒ですなぁ、しかしお嬢様の仕置きである以上執事である私が勝手をするわけにも行きませぬ。とりあえずお嬢様が食べそびれたこちらでも食べて堪えて頂けますか?」


「地獄に仏なのであるー」



お嬢様である麗への朝ごはんを乗せたトレイを手に、部屋へ入ってきた執事。

口ひげがお洒落なロマンスグレーの紳士は天井から縄で吊るされているロンロンに気付くと、テーブルの上に放り出されたままの新聞を手際よく片付け、その上に手に持っていたトレーを下ろしつつ何故そうなっているかを問い掛ける。


問い掛けられたロンロンはここを逃したら宙吊りから逃れられないという危惧を抱え執事へ助けを求めるも断られて嘆きつつも、余りにも不憫に思ったのか紳士が手に持って差し出したサンドイッチに齧り付くのであった。





そんな具合にロンロンが執事お手製サンドイッチの美味さに舌鼓を打っていた頃、麗ことマジカルウララとマスコットのコンコンが急行した現場では。


マジカルウララは想定外の苦戦をしていた、なお原因はこれ以上ゴリラ扱いされたくないが故のパンチやキックを使わないという縛りが原因である。



「マジカルビンタですわ!!」


「はべぇっし?!」



怪人セアカコケグモ男の顔面に叩き込まれたのは、マジカルウララの可愛らしい構えから放たれた優雅と言えなくもないビンタの一撃。


なおその破壊力は叩き込まれたセアカコケグモ男の首が伸びるのではないかと思うぐらいのけぞり、インパクトの瞬間には辺りに響き渡るほどの音が鳴り響いた事から破壊力が可愛らしくないのは言うまでもない。



「今更ぶりっこしてもどうにもならんじゃろうが、とっとと拳なり蹴りなり叩き込むのじゃ」


「いやですわ!この怪人はビンタでおしばきすると決めたのですわ!」


「こ、このゴリラめ……だがしかし、マジカルゴリラと言われてるから不安だったが蓋を開けてみれば大した事のないゴリラであったな!」



そんな葛藤に満ち溢れるマジカルゴリラ、じゃなくてウララにジト目を向けつつツッコミを入れるコンコンに対して断固拒否ですわと言わんばかりに叫ぶウララ。


このような茶番に不本意ながら巻き込まれた事にセアカコケグモ男は苦情を申し入れたくなる気持ちを堪えつつ、それでも怪人間のネットワークで仕入れた情報に比べマジカルゴリラが脅威でない事に安堵すると、ビンタで大ダメージを負った頬を抑えつつウララの挑発をし始める。



一方コンコンは、ゴリラを連呼されて挑発されたウララの表情がスンっと消えて真顔になった事に気付くや否や退避を開始、周囲の一般市民の保護をし始める。


そうしている間にも怪人はよせばいいのにウララへの挑発を続け……。


ウララは顔を俯かせると怪人に背を向けると、道端に設置されていた自動販売機へ向かって歩き始めた。



「ど、どうしたんだろうマジカルウララ。喉でも乾いたのかな?」


「き、きっとそうだよ。そうに決まっている」



普段はウララの事を正式名称を知っていながらマジカルゴリラと呼ぶ市民達も、本能的恐怖から震えた声で彼女をゴリラ扱いする事なく、突然のウララの行動を不思議に思いひそひそ声で話し合う。


だが、次の瞬間。



「えいっ」


「は?」



ウララの意図を理解できず様子見をしていたセアカコケグモ男や戦いを見守っていた市民、市民の保護に動き回っていたコンコンの目の前で。


ウララはまるで小石を持ち上げるくらいの様子で、ウララの身長よりも大きい自動販売機を軽々と持ち上げ、そのままギロリと音が聞こえる錯覚を感じさせる眼力でセアカコケグモ男を睨んだ。


ウララが何をしようとしているのか、その意図を察した怪人は後退りながら上ずった声で叫び始める。



「ま、待てゴリラ!話し合おうゴリラ!貴様が限りなくゴリラだとは言え言葉を介する心優しきゴリラのはずだ!?」


「どう考えても死刑執行の書類に自らサインしとるじゃろ、ソレ」



この時セアカコケグモ男は悪気無し、むしろウララの剛力と優しさを褒め称えたつもりであった。


だがしかし、言うまでもなくその発言は……ウララの逆鱗に触れていた。



「だ!れ!が!ゴリラじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



両手で担ぎ上げた自動販売機に、自身の魔法少女パワーを纏わせ光り輝かせるウララ。


憤怒の化身と化したマジカルゴリラは、まるで巨大なキングゴリラが岩石を放り投げるがごとき勢いでセアカコケグモ男めがけ、光り輝く自動販売機を全力投擲。


魔法少女パワーが込められた大質量物が直撃しただけでも致命傷と言うのに、衝撃で弾けるように壊れた自動販売機から零れ落ちた大量のジュースが込められた魔法少女パワーを虹色の光と共にぶちまけながら、次々と怪人の体にぶつかっては炸裂していく。


その様子は、まるでクラスター爆弾が直撃したかのような有様で……全てが終わった頃には、セアカコケグモ男は塵一つ残さず消し飛んでいた。




後日。


麗はマスコット達がいる部屋のテーブルに無言で新聞紙を叩きつけ、そのままテーブルに突っ伏して泣き崩れていた。



「なんでこうなりますのぉ~~~~~……」


「残念でもなく当然じゃの」


「せやな、としか言いようないのである」



わんわんと泣き声を上げる麗に対し、にべもなく言い放つ全てを目撃したコンコンと……漸く宙吊りから下ろしてもらえたロンロン。


麗が号泣する原因となったのは、先ほど彼女がテーブルに叩きつけた新聞紙の一面記事にある。


その記事の一面にはこう書かれていた。



『マジカルゴリラまたしても大手柄!新必殺技マジカル自動販売機アタック!』



ちなみに新聞の一面を飾る写真は、怒り全開状態のマジカルウララが自動販売機を怪人めがけて投げつけた瞬間と言う奇跡の一枚である。


余談であるがマジカルウララが武器として使用した自動販売機は、彼女の父が上手い事やって弁償をしっかりやっておいたらしい。






【マスコット達による解説劇場~魔法少女パワーについて~】

「コンコンと」


「ロンロンの」


「「マスコット解説劇場―」」



「えー、と言うわけでぬるっと始まった解説劇場2回目なのである」


「ほんで今日は何の解説をするんじゃ?ロン坊」


「今日はゴリラ、じゃなくてウララが拳やら自販機やらに纏わりつかせたりしてる魔法少女パワーについて解説するのである」


「お主はまたウララをゴリラ扱いしよって、また飯抜きの折檻喰らっても知らぬからな」



「ほんで魔法少女パワーであるが、まぁ平たく言うと光線的必殺技出したり肉体を守る力になる不思議パワーの事なのである」


「ソレがないと魔法少女は普通の女子と何ら変わらんからの、ビルや車を簡単に破壊する怪人の攻撃を受けても吹き飛んだり……軽い怪我をするだけで済んでいるのはソレのおかげじゃのー」



「そんでもってこの魔法少女パワーなのであるが、個人個人でそのパワーの適性がめっちゃ違うのであるよ」


「光線技が得意な魔法少女もいれば、治療や暴れる怪人を鎮静化させるのが得意な娘もいるからのう。ウララのヤツはその辺りこれっぽっちも適正ありゃせんけど」


「清々しいまでにフィジカル特化であるからな、あのゴリラ」


「しかも儂ら二人で魔法少女契約ダブルブッキングしてしもうたモノじゃから、その適正が更に特化されてもうワケ判らん事になってしもうとるわ」


「普通はダブルブッキング契約なんて不可能であるのにな、ある意味あのゴリラの魔法少女的才能が恐ろしいのであるよ」



「しかしウララのヤツはほんと凄まじいのー、普通あんなにパワーを込めて殴る蹴るしてたらあっという間にパワーが切れて魔法少女の変身切れてしまうものなんじゃよなー」


「元々体をしっかり鍛えていたり、精神的にタフな娘はパワーの総量が多い傾向にあるけど……多分魔法少女の歴史の中でも、ゴリラレベルでパワーを持ってる魔法少女はそういないと思うのであるよ」


「色んな魔法少女のサポートしてきた儂じゃけども、ウララ並の魔法少女は一人しか知らぬわ」


「え゛? コン婆も知らないほどのレベルであるか?」


「ぶち殺されたいか?若僧」


「ヒェッ」



「と、とりあえず魔法少女パワーについてはこんな感じであるな!」


「後でしっかり折檻するからな、覚悟しとけよ若僧」


「お、お慈悲を~~」


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