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㊺無人島生活9日目03■ 長年の引きこもりニート息子がやっと働くって言ってくれたの……そんな気分。


 闇テレポートした先は、ドミニクスのツリーハウスだった。


「兄上に話を聞かれたくないので、動物がいない場所へ来たかった。突然連れてきて悪い」

「い……いえ」


「――早速だが。謝罪をしたい。今までの事、すまなかった。お前や母上の言う通りだったな。オレは……悪い王子だった」


 ……。


 どうしたんだ。

 私は夢でも見ているのか。


「え、いやその、理解して頂ければ、私はその、別に……」


「そういう訳にはいかない。お前には今まで負担を掛けすぎた。この通りだ、謝罪する」


 ど、ドミニクス王子が頭を下げただと……!?


 どうしたんだ! コレは一体どういうことだ! ここは映画館なのか!? これは綺麗だ、綺麗なドミニクスだ! 素晴らしい! ……だが! 


「本当に、ドミニクス殿下……なの?」


 そこまで思っておいて、私は思わず後ずさった。


「信じられないだろうが本物だ。後退りしないでくれ。お前を傷つけようなどと思ってはいない」


 うわあ……。

 誠意ある言葉にドン引きするなんて生まれて初めてだよ!?


 あれ、そういえばおばあちゃんの知恵でも取れなかった指輪がない!


「あれ、殿下。指輪は?」

「あれか。あれは先程、真っ黒に染まったかと思ったら、そこから黒い闇が吹き出したのだが、その後、壊れて崩れた」

「壊れたんですか」

「ああ。そうしたらスーッと頭の中がクリアになって……恥ずかしい話だが、オレはもう少し自分で自分を愛してやるべきではないかと思った」


 指輪の条件…… 指輪をはめた人間を愛するようになる……。


「自己愛に目覚めたのかドミニクス……!」

「人をナルシストのように言うのはやめてくれ!?」


 確かに、ナルシストという感じではない……!

 なんか、キリッとしてる! ドミニクスなのに!!

 あれか、今までマイナス思考だったのがプラス思考と混ざって、ちょうど良い具合になったとでも言うのか! 課金アイテム怖い!


「つまり、その思考に目覚めたことにより……」


 私は雛鳥を見た。


「お前の思っている通りだ。こいつが現れた」

「ぽよ……」


 くそう!! そのシーン見たかった!!


「……そういうわけで、取り急ぎお前に今までのことを謝罪したくなり、ここへ来てもらったというわけだ」


「そ、そうですか。えっと……その、良かったですね。マイナス思考は本当に殿下の悪いところというか、直せば全然普通に能力ある王族だと私は思っていましたので……。そこを改めることができたなら、これからは悪い噂も消え、良き臣下も自然と集まるでしょう。また神鳥の降臨の件、心より申し上げます、おめでとうございます。」


「ありがとう、アナスタシア」


 お礼言われた!! まじか!! まさかの闇落ちの指輪がラッキーアイテムに……。


「ところでアナスタシア。この際だから心残りを精算しておきたい」

「なんでしょう」


「神鳥が降臨したことだし、今までの自分を反省し、良き王族になろうと思う……だから、お前に変わらずオレのそばにいて欲しい」

「え」


 そこまで言うと、ドミニクスが恥ずかしそうに目をそらした。

 え、これ。

 これって言っちゃいけないけど、これ本当にドミニクスですよね? 何回言うのって感じだけども。


「その。つまり。兄上にお前を返したくない。兄上がいるのでオレは王にはなれないが、お前はオレの婚約者のままでいてほしい」


 真摯な目でまっすぐこっちを見てくる。


「……は、い?」


 え、冗談ですか? 私を騙そうとして芝居うってます?


「自信がなさすぎて今まで言えなかった。そして兄上がもし戻ってきたら、返さなければならない婚約者だと思って、ずっと……ひねくれていた、オレは」


「ちょっと、言葉がでませんよ……それ」


 心底嫌われていると思っていたから、衝撃的すぎる……。


「だろうな。サンディとのことでお前のことは本当に傷つけたと思っているし、その前までも含めてオレは取り返しのつかないことをしている……が、もう二度としないと誓うし、心を入れ替えるから、もう一度だけ信じてくれないか」


 ……う。


 長い付き合いだからなぁ。

 実質どうしようもない弟みたいな感じのとこがあるから、こう言われると弱いといえば弱い。


 いきなり過ぎて信じられない思いもある。


 ……だが、これを受け入れる事は、私にとっては『情』になる。

 そして、始まりが『情』であろうとも、これがもっと早い段階なら、私は受け入れたと思う。


 ……つまり。


「殿下。お忘れではないですか。私がどういう気持かは婚姻において関係ないということを。基本的に私に選択権はございません。――ただ、殿下が普通の恋愛として私の気持ちをお求めならば、申し訳ありませんがお断りします。私達の間にこういった会話が生じるのは、遅すぎた……と感じます」


「……そうか。ああ、そうだな。……まあ、今更だな」


 彼は目を伏せた。


「申し訳ありません」

「いや、構わない。最初に心残りと言っただろう。答えは分かっていた。オレの精算に付き合わせた、すまない。だがこれを機にオレも前を再び向こう」


「殿下……」


 彼の豹変に慣れてきたら、今度はちょっと感動してきた。


 例えが大変悪いのだが、私にとっては、長年の引きこもりニート息子がやっと『母さんオレ、今日から働くよ!』 と言ってきたようなものである。



「これからは、兄上とおまえを、心の底から応援しよう。兄夫婦を支える良き臣下となろう」


 ――ん? ちょっと待って。


「いや、ドミニクス殿下、私は」


 ばたあん!!


 大きな音をさせて開かれるツリーハウスの扉。


「ドミー!!」


 飛び込んできたミーシャが、ドミーに抱きつく。


 ツリーハウスの屋根から何かが飛び立つ音が聞こえた。

 聞いてたな!! ミーシャ!!


「ごめんね……、ドミーからアーシャを奪うような事になって……!」

「聞こえていたのですか、兄上……! いえ、長年、兄上の婚約者に迷惑をかけたのはオレです! これからはお二人を応援していきます……!」


 待てや。

 私はミーシャと結婚するとは……。


「あ、あのお二人とも」


「兄上!!」

「ドミー!!」


 涙して、ひしっと抱き合う兄弟を前に、私は否定の言葉を発することが出来なかった……。

 ……も、もうだめぽ。


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