闇テレポートした先は、ドミニクスのツリーハウスだった。
「兄上に話を聞かれたくないので、動物がいない場所へ来たかった。突然連れてきて悪い」
「い……いえ」
「――早速だが。謝罪をしたい。今までの事、すまなかった。お前や母上の言う通りだったな。オレは……悪い王子だった」
……。
どうしたんだ。
私は夢でも見ているのか。
「え、いやその、理解して頂ければ、私はその、別に……」
「そういう訳にはいかない。お前には今まで負担を掛けすぎた。この通りだ、謝罪する」
ど、ドミニクス王子が頭を下げただと……!?
どうしたんだ! コレは一体どういうことだ! ここは映画館なのか!? これは綺麗だ、綺麗なドミニクスだ! 素晴らしい! ……だが!
「本当に、ドミニクス殿下……なの?」
そこまで思っておいて、私は思わず後ずさった。
「信じられないだろうが本物だ。後退りしないでくれ。お前を傷つけようなどと思ってはいない」
うわあ……。
誠意ある言葉にドン引きするなんて生まれて初めてだよ!?
あれ、そういえばおばあちゃんの知恵でも取れなかった指輪がない!
「あれ、殿下。指輪は?」
「あれか。あれは先程、真っ黒に染まったかと思ったら、そこから黒い闇が吹き出したのだが、その後、壊れて崩れた」
「壊れたんですか」
「ああ。そうしたらスーッと頭の中がクリアになって……恥ずかしい話だが、オレはもう少し自分で自分を愛してやるべきではないかと思った」
指輪の条件…… 指輪をはめた人間を愛するようになる……。
「自己愛に目覚めたのかドミニクス……!」
「人をナルシストのように言うのはやめてくれ!?」
確かに、ナルシストという感じではない……!
なんか、キリッとしてる! ドミニクスなのに!!
あれか、今までマイナス思考だったのがプラス思考と混ざって、ちょうど良い具合になったとでも言うのか! 課金アイテム怖い!
「つまり、その思考に目覚めたことにより……」
私は雛鳥を見た。
「お前の思っている通りだ。こいつが現れた」
「ぽよ……」
くそう!! そのシーン見たかった!!
「……そういうわけで、取り急ぎお前に今までのことを謝罪したくなり、ここへ来てもらったというわけだ」
「そ、そうですか。えっと……その、良かったですね。マイナス思考は本当に殿下の悪いところというか、直せば全然普通に能力ある王族だと私は思っていましたので……。そこを改めることができたなら、これからは悪い噂も消え、良き臣下も自然と集まるでしょう。また神鳥の降臨の件、心より申し上げます、おめでとうございます。」
「ありがとう、アナスタシア」
お礼言われた!! まじか!! まさかの闇落ちの指輪がラッキーアイテムに……。
「ところでアナスタシア。この際だから心残りを精算しておきたい」
「なんでしょう」
「神鳥が降臨したことだし、今までの自分を反省し、良き王族になろうと思う……だから、お前に変わらずオレのそばにいて欲しい」
「え」
そこまで言うと、ドミニクスが恥ずかしそうに目をそらした。
え、これ。
これって言っちゃいけないけど、これ本当にドミニクスですよね? 何回言うのって感じだけども。
「その。つまり。兄上にお前を返したくない。兄上がいるのでオレは王にはなれないが、お前はオレの婚約者のままでいてほしい」
真摯な目でまっすぐこっちを見てくる。
「……は、い?」
え、冗談ですか? 私を騙そうとして芝居うってます?
「自信がなさすぎて今まで言えなかった。そして兄上がもし戻ってきたら、返さなければならない婚約者だと思って、ずっと……ひねくれていた、オレは」
「ちょっと、言葉がでませんよ……それ」
心底嫌われていると思っていたから、衝撃的すぎる……。
「だろうな。サンディとのことでお前のことは本当に傷つけたと思っているし、その前までも含めてオレは取り返しのつかないことをしている……が、もう二度としないと誓うし、心を入れ替えるから、もう一度だけ信じてくれないか」
……う。
長い付き合いだからなぁ。
実質どうしようもない弟みたいな感じのとこがあるから、こう言われると弱いといえば弱い。
いきなり過ぎて信じられない思いもある。
……だが、これを受け入れる事は、私にとっては『情』になる。
そして、始まりが『情』であろうとも、これがもっと早い段階なら、私は受け入れたと思う。
……つまり。
「殿下。お忘れではないですか。私がどういう気持かは婚姻において関係ないということを。基本的に私に選択権はございません。――ただ、殿下が普通の恋愛として私の気持ちをお求めならば、申し訳ありませんがお断りします。私達の間にこういった会話が生じるのは、遅すぎた……と感じます」
「……そうか。ああ、そうだな。……まあ、今更だな」
彼は目を伏せた。
「申し訳ありません」
「いや、構わない。最初に心残りと言っただろう。答えは分かっていた。オレの精算に付き合わせた、すまない。だがこれを機にオレも前を再び向こう」
「殿下……」
彼の豹変に慣れてきたら、今度はちょっと感動してきた。
例えが大変悪いのだが、私にとっては、長年の引きこもりニート息子がやっと『母さんオレ、今日から働くよ!』 と言ってきたようなものである。
「これからは、兄上とおまえを、心の底から応援しよう。兄夫婦を支える良き臣下となろう」
――ん? ちょっと待って。
「いや、ドミニクス殿下、私は」
ばたあん!!
大きな音をさせて開かれるツリーハウスの扉。
「ドミー!!」
飛び込んできたミーシャが、ドミーに抱きつく。
ツリーハウスの屋根から何かが飛び立つ音が聞こえた。
聞いてたな!! ミーシャ!!
「ごめんね……、ドミーからアーシャを奪うような事になって……!」
「聞こえていたのですか、兄上……! いえ、長年、兄上の婚約者に迷惑をかけたのはオレです! これからはお二人を応援していきます……!」
待てや。
私はミーシャと結婚するとは……。
「あ、あのお二人とも」
「兄上!!」
「ドミー!!」
涙して、ひしっと抱き合う兄弟を前に、私は否定の言葉を発することが出来なかった……。
……も、もうだめぽ。