私達は、いわゆるバッタを捕まえてきた。
オスメスの判定はコニングが行った。
そういえば、虫を捕まえて工房で飼ってたもんね。詳しいんだなぁ。
飛び跳ねるので、カゴを作ってその中にカップルを入れ、経過を見守っている。
「行け、男ならいくのだ。マキシミリアン!!」
ハーマン……名前付けなくても。そしてその応援は必要なのか?
「まだ、その気になれないのか。好みのメスじゃないんじゃないか」
虫にそんなのあるんかい。
男二人が、二匹の虫に発破(ハッパ)をかけている……。
どういう状況だよこれ。
「結構、時間が掛かりますね。えっと、二匹から我々離れたほうが良いと思います。そして静かにしましょう」
コニングが遠慮がちにドミニクスとハーマンに声を掛ける。
「そうか、ムードが必要なのだな」
「うーん、まあ、そうですね。周りが騒がしいと危険を感じてその気にもならないのでは……と」
「なるほど、たしかに他人がいては、難しいだろう。配慮が足りなかったな」
私はソファの背もたれに手と顎を置いて脱力していた。
なんだこの会話……。
違う、配慮とかムードとかなんでそんなズレたことをいうのだ、と突っ込む気にもならない。
ミーシャは私の横で、私と同じ格好して皆を眺めてる。
多分、ショックが抜けないせいか無口だ。どこか落ち込んでるようにも見える。
むずかしいな、デリケートな問題なだけに、何も言うことを思いつかない。
私は言葉の代わりに、トン、と軽くミーシャの肩に自分の肩をくっつけてみた。
ミーシャが少しこっちを見た後、微笑んだので、私も微笑み返した。
疲れたよね。
「あっ! きた!!」
「いけ、マキシミリアン。そこだ!!」
「乗ったあ!!」
聞きたくない!! 実況すんな!!
「あ、うまくいったようですね」
「じゃあこれで、外に出られるかな」
しばらくすると、ゴゴゴ、という音と共に、私達を閉じ込めていた壁は消えた。
もうすぐ夕暮れだな。
「……ふぅ」
私は安堵のため息をついた。
「アーシャ、おつかれ」
「ん、ミーシャもお疲れさま。もうご飯を作らないといけない時間だね」
「うん、おなかすいちゃった」
「私も。おにぎり作りたいなぁ」
「おにぎり?」
「うん、あとで作ろうかなぁ」
コシヒカリあるし。
その時、また騒がしくなった。
「どうした! マキシミリアン!! どうして!!」
「マキシミリアンが……死んでる!!」
「(……あ)」
そういえば前世の知識だけど、バッタって、確か交尾したあとオスが死ぬんだっけ。
こっちの世界も一緒なのかな。
「えっと、このタイプの虫のオスは交尾した後、死にます」
コニングが淡々と語る。一緒だった。
「なん……だと……!」
「マキシミリアン!! お前……命をかけたのだな!! 立派だった!!」
ハーマンとドミニクスがうざい。
それにしても虫の交尾でいいのなら、大人しく部屋で待ってても、そのうち勝手に壁は消えたんじゃないだろうか。まあ今となってはって感じの話しだけれど。
ああ。だから鳥さんも何もヒント出さなかったのかな。必要なくて。
「そういえば、ヴィクトリアはどこへ!」
「あ、メスの方ですか? それなら開放した後、すぐどっか飛んでいきましたよ」
「夫を見捨てたのか!!」
「見捨て……いや、まあ産卵とかありますし、産卵に至れなかった場合、別のオスと巡り合わないといけませんし……」
コニングが困惑しながら説明する。
「不貞か! ヴィクトリア!! 最低なメスだな!!」
「なんてことだ、死んだ夫と添い遂げるつもりがないのか!! ヴィクトリア!!」
「えっと……この場合、メス……えっとヴィクトリアは何も悪くないかと……彼女も産卵を終えたら死にますし……」
「なんだと、マキシミリアンの子を産むために単独外へ出て行ったというのか!」
「ヴィクトリア、疑って悪かった! なんて健気なんだ!」
コイツラの中で、謎の感動ストーリーが出来上がっているな……。
二人に付き合ってまともに答えているコニングが可哀想である。
「く……!、オレはお前の事を忘れないからなマキシミリアン!!」
「オレも! ……お前は、盟友だ!!」
「来い、ハーマン!! マキシミリアンの墓を建立する!!」
「はっ!! マキシミリアン! 立派な墓を建ててやるからな!!」
お前ら仲良いな……。
私はソファで伸びをした。
「……あ。そういえば全て終わった気がしたけど、片付けの途中だった……」
片付けは全員でやりましょうとか言ってたハーマンは墓作りに行ったし、闇魔法で一気に移動させるか……。
そして結局、サンディの荷物の残りは、私が全て移動させたのだった。
みんなでやろうって言ってたのになー。おかしいなぁ~。
荷物を移動させたあと、私はコニングとミーシャに言った。
「ねえ、ここのアイテム類の整理、私に一任して? 全員が自由に触れると、また今日みたいなことがあったら、困るし」
「良いけど、大変じゃない?」
「あ、それで良いと思いますよ。手伝いが必要ならミーシャ殿下と僕が手伝うということでどうですか?」
コニングが外をちょっと遠い目で見た。
外……つまり、墓作ってる連中の方を。
気が合うな!! コニング!!
ミーシャもそれを見て察したらしい。
「あー。うん、そうだね。そうしよう」
とりあえず、今日の所は全てアイテムを倉庫に詰め込んだところで終わりにした。
そして、まあ。
マキシミリアンの墓には手を合わせておいた。
我々の都合で寿命を縮めたのは確かだからね。