私はハラハラして、ハーマンとミーシャの様子をソファから眺める。
ハーマンは非常に厳しく真面目な表情で何かを語っている。
ミーシャの顔が、どんどん青くなっていく……。
「ェェ……」
ハーマン! どういう教え方してんの!?
しばらくすると、青い顔をし涙ぐんだミーシャが、フラつきながら帰ってきて、ソファに座り、顔を覆った。
「アーシャにそんな酷いことできない……」
「ハーマン!! 何を教えた!?」
「――真実を。ただ、それだけです」
「プハッ……」
横で吹き出すなドミニクス!! 何がおかしいんだよ!!
世界の真実(?)を知ってしまったミーシャが再起不能になっている。
……ショックだったか。
まあショックだよね!
「僕は……動物とか、単純にじゃれあって仲良しなんだなって……そっか……」
うああああああ!!!
「ミーシャ殿下、大丈夫ですか」
「すこし……時間が欲しい、かも」
「兄上は衝撃を受けていらっしゃる。兄上の精神(こころ)をお守りするためだ。しかたないな、やはり、オレとするか、アナスタシア」
ドミニクスが真顔で、こちらを向いて言った。
「するわけないでしょ!? 殴るわよ!?」
「それは駄目だ!!」
私とミーシャが同時に非難の声をあげる。
「もういや……」
私は俯いて顔を両手で覆った。
「アーシャ、大丈夫?」
ミーシャが背中を撫でてくれた。
「大丈夫だよ、ありがとう。ミーシャも今はショックだよね、無理しないで」
「あ、いや……僕はだ、大丈夫だよ……」
珍しくどもった。大丈夫じゃなさそうだ。
ああもう、なんて会話よ。
なんでこんな会話してるの!?
コニングは、さっきから黙って色々思案しているようだ。
真面目に考えてくれてるのコニングだけじゃん!!
まったく、他の方法を考えようって言ってるのに、どうしてこんな流れに……ん? 他の方法……そうだ……。
「ねえ……」
私は顔をあげて、薄笑みを浮かべた。
「どうしました? アナスタシア様」
「なんだ、その気持ち悪い笑みは」
「ねえ、別に同性同士でも……いいんじゃないの? ……ふ、ふふふ」
「あ、アーシャ!? ど、どうしたの? 顔がこわいよ!?」
ミーシャが怯えた。
「アナスタシア様!? その発想は危険です!!」
「ハーマン……さっきからお前、真面目に考えてはいるんだろうけど、私とミーシャの気持ちを考えないことばっか言いやがって……あんた昨日さあ、私に酷いこと言い過ぎたとか言って反省してたんじゃないの? 大体、危険ってさぁ、なに? お前が危険感じてるだけだよね? そういうの私とミーシャに強要しようとしてたよね? ……さいってー」
「う!?」
ハーマンが固まった。震えているように見える。どうした。
「アナスタシア! 貴様、何を考えている……!?」
ここにきてドミニクスが初めて怯えた表情を見せた。
お前もなにか危険とやらを、感じているのかナァ。
「うるさい、もとはと言えば、お前が、押すなっていうスイッチを押そうとしたのが悪い。おまえが責任をとれ。……さっきから余計なこと言ってるハーマンとな」
「「まさか」」
「そのまさかだよ。ほら、お前ら頑張ってこいよ……まさか私達に強要しておいて、自分たちは嫌だとか言わないよね……」
私はクイっと親指で、ヒロインベッドを指さした。
「……い、いえ、もともとオレ達は恋仲というわけではありませんし」
「そうだぞ、アナスタシア。お前と兄上は将来を結婚するから別にいいだろって事で……!」
「言い訳はいい……ほら、じゃんけんでもなんでもいいから、どっちがどっちやるか決めなさいよ。ここであった事は口外しないから。出血大サービスで闇魔法で帳(とばり)も降ろしてやんよ……むしろ見たくないしなー。コニングに頼めば風魔法で音も消せるんじゃね? 完璧じゃん。抱きえあ。」
最後別の言葉言おうとしたんだけど、舌がもつれたわ。
「どっちが」
「どっち……って」
「さあ……さあ! さあ!!」
私は鬼のような顔で二人を追い詰める。
「あ、あーしゃあああああ。なんか変だよ! 瞳のハイライト消えてるよ!? もとのアーシャに戻って……っ」
ミーシャが膝を折って私の腰のあたりに抱きついて泣いている。
すまないな坊主、これは負けられない戦いなんだ。
「……っ」
「す」
「「すいませんでした!!! 許してください!!」」
ドミニクスとハーマンの二人は、土下座した。私は勝った。
「……ふん、わかったら、他の方法を真面目に考えてよね……」
……と、長い茶番が終わった所で、コニングが叫んだ。
「それですよ! アナスタシア様!」
「はい?」
「男女同士でなくても良い……つまり、もっと飛躍して考えれば、僕達じゃなくてもいいんじゃないですか?」
「……ほう?」
「僕達じゃなくてもいい?」
ミーシャが涙を拭きながらコニングに問う。
コニングが手をパン、として合わせ、爽やかな笑顔で言った。
「虫を探しましょうよ。ほら、外もある程度スペースがあって茂みもあります。きっと何かしら虫が見つかりますよ。だから、オスとメスを捕まえてお見合いさせましょう」
――その笑顔は、他のメンバーからは後光がさしているかのように、見えた。
「お、おおおお」
男泣きするハーマン。
「コニング、お前ってやつは……まったく」
感動したようにフ……と笑うドミニクス。
「本当に、本当に生まれてきてくれてありがとう!! コニング!!」
「良いアイデアだね。すごいね、コニング」
私とミーシャが拍手する。
そして、その和やかになった雰囲気のまま外へ出た私達は――血眼で虫を探した。