「うわ!?」
「なんです?!」
「……いってぇ。あ? なんだ?」
「アーシャ!!」
ミーシャが、私を光から庇うように抱きしめるのと同時に――
――ガコン!
――ガコン! ガコン! ガコン!
ゴゴゴゴゴ!!
ものすごい音と地震のような振動があった。
「……光は収まったようだよ、みんな」
私は眩しくて目を開けていられなかったんだけど、ミーシャは平気だったのか、そう教えてくれた。
目を開けてみる。
「え、なにこれ、どうなったの?」
「小屋の外に壁ができるのが見えたよ。ほら、そこのドアから見えてる」
ミーシャが指さした。
見に行きたいよね、とミーシャが私の手を引いて小屋の外へでた。
他のメンツも一緒に出てくる。
外へ出ると、小屋の周りを、わりと広範囲にぐるっと囲むように、白く大きな壁で囲まれていた。
天井だけがガラスのように透明だった。
「え……これって。閉じ込められた?」
「んー……」
ミーシャが光の刃を飛ばしたが、壁に傷ひとつつかないし、いつもは一瞬で岩壁に穴をあける光の線も、全く刃が立たなかった。
その他のメンツも色々と試してみたけれど、壁はビクともしなかった。
ちなみに、これで初めてコニングが風属性だと知った。
「これは……困ったね」
あのミーシャが髪をくしゃくしゃして、考えを巡らせてる。
「考えてもしょうがないから、寝るか。オレは寝るから、なんとかできたら起こしてくれ」
ドミニクス……! 貴様!!
「……はい、おやすみなさい」
私はじと目でドミニクス殿下に言った。
「駄目」
「えっ」
「はい?」
しかし、ミーシャがダメ出しした。
「さっき、アーシャの胸に顔突っ込んだから寝るの許さない……」
「!?」
「あ、兄上、それはこいつが!」
「アーシャのせいにするの? ドミーがいたずらしたせいで、こんな事になってるのに? まさかそれなのに、皆にまかせて自分はサボろうなんて、そんな悪い子じゃないよね? ドミー?」
ミーシャは優しく笑顔ですが、逆らったら殺すってオーラが出てる。
「……はい」
ドミニクス殿下が、素直に従った……。うわあ……。
「うん、いい子だね、ドミー」
しかし、ミーシャのこめかみに青筋が……。わ、話題を変えよう。
「み、ミーシャ、鳥さんは何か教えてくれないの?」
「今のところは何も」
「みなさーん、ちょっとこれ見てください。小屋の中にさっきなかったものが」
コニングが小屋の中から叫んだ。
コニングの声に私達が小屋にもどると、小屋の壁に、壁に取り付けるタイプの看板が出現していた。
「なんか読めない文字のようなものが書いてあります……」
「どれどれ?」
私は王妃教育で語学を何種類もやらされている。
本来ならドミニクスがやらないといけないものまで。
大変だったけど、この悪役令嬢の頭脳と身体は優秀で、色んな事をすいすい覚えてくれるから助かったわ。
この身体のままで、前世の世界に戻りたいと思う程に。
まあ、それはともかく。
「えーっと……あれ。これニホ」
そこまで言って私は口を紡いだ。日本語だ。
「ニホ?」
ミーシャが首をかしげる。
「何語だって?」
ドミニクスが読めもしないのに割り込んでくる。
――日本語だ。
そりゃそうか。課金アイテムなんだから。
そして、その看板に書いてあったのは――
『コングラッチュレーション!
課金50万円突破 感謝アイテム!!』
課金額すげえ!? いや、しかし問題はそこではない。
問題はその下に書かれていた文字だった。
……はっきり言おうか?
『えっちしないと出られない部屋!』
――そう、書いてあった。
「うっそでしょ!!! 馬鹿じゃないの!!!!!」
「あ、アーシャ!? どうしたの」
ミーシャが驚いて私の顔色を伺っている。
「あ……」
これ、なんて言えば!?
「顔が赤いよ、アーシャ、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫だよ」
そりゃ赤くもなりますわ……。ああ、もう……こんなのばっか……。
「何が書いてあった、アナスタシア」
ドミニクスが早く言えよ、みたいな態度で言ってくる。
「う……」
とても口にしたくない!
けれど、ミーシャの魔法でもビクともしないこの部屋の壁の事を考えると……。
条件達成しないといけないんだろうけど……。
だいたい、誰と誰がって……なるじゃん?
どう考えても、最終的にミーシャと私になるに決まっている!!
か、解決方法は他にないの……?
私はメンツを見た。
そんな話をして全員の目が集中するのがつらい。
……とりあえず、誰か一人には打ち明ける所から考えよう。
ミーシャに最初に言うのが筋だと思うけど……そもそもミーシャって……
閨 教 育 ……は、してんの?
幼くして行方不明になった彼だし、さすがにまだやってないよ……ね?
そこから説明しないといけないかもしれないし、説明した所ですぐに察して、
『じゃあ、しようか! 他の方法考えるより早いよね!』
……とか! なりかねない!?
ドミニクスは、そもそも、まともに会話ができるかどうかも不明。却下。
となると、コニングかハーマンか。
ハーマンは話しやすいと思うが、ヤツの会話はたまにデリケートさに欠けるとこがあると私は思っている。
そうなると、コニングか。
そうだな……コニングがボタン見つけてきたことだし、コニングにしよう。
「……えーっと、コニング様以外はちょっとその隅っこか隣の部屋行ってて。まずはコニング様に話します」
「えっ。僕!?」
まさか指名されると思わなかったのだろう。
コニングがビクっとした。
何故怯える。
「えー、なんで?」
ミーシャが、なんで僕に一番に話ししてくれないの、みたいな態度だ。
うん、できるものならそうしてはあげたい。
しかしこれは駄目だ。
「えっとね……まずコニング様に話しして、それをコニング様から他の皆に話ししてもらいます」
「なんでそんなまどろっこしい事をするんだ」
いちいち口を挟むドミニクス。私は軽く睨んで言った。
「ウルサイダマレ」
「!?」
ドミニクス、こんな事になったのはお前のせいだからな!! 文句は言わせねぇ!!
「おまえ……オレに対してそんな口を……」
ドミニクスが信じられない、といった顔で固まっている。知るか。
「まあ、お考えの上でのことでしょう。ミーシャ殿下、ドミニクス殿下、こちらへ。ソファーにでも座って待っていましょう」
ハーマン、グッジョブ!
「ありがとう、ハーマン様」
「いいえ。こちらはお任せください。コニング、あとで詳しく聞かせてくれ」
「はい、ハーマン様」
コニングが頷くのを見てから、ハーマンは二人をソファーへ連れて行った。