うーん、でもまあ、彼らの言うことも、もっともな気はする。
もし万が一、またエロい目……じゃなかった偉い目にあったら、しばらく立ち直れない気もするし。
……そうだな、午前中あんなことあったせいで、実はまだちょっと疲れてるし、ミーシャたちの作業見学行くかな。
そうだな、そっち手伝えばいいや。
しかし、まだ午前が終わったばっかりなんだね!!
「……わかったよ。ミーシャ達と温泉行く」
「良い子だね、アーシャ」
ミーシャに頭を撫でられ……え、良い子!?
それは私の立場だったはず……。
子供扱いするな、とは言われていたけれど、まさかミーシャの方から良い子扱いされるとは思わなかった。
「?」
ミーシャはニコニコして、どうしたの?って顔してるが……。
「あ……ありがとう?」
「うん、よろしい」
よ、よろしい!?
いや、身分的にも年齢的にも本来は、さほどおかしくはない。
本来ならば。
成長スピードが早すぎる……ミーシャの精神年齢は今、いくつなんだ……。
◆
そして、ミーシャとドミニクス殿下とハーマン、私で温泉へ向かう。
コニングはお留守番で工房にこもるそうだ。
「ん……あれ」
ミーシャが立ち止まった。
「どうしたの?」
「いや、コンが、変な場所に入り込んじゃった……あ、コンってあの……白いキツネね」
「……」
あの鼻血垂らして倒れた白キツネか!
「ミーシャ殿下、変な場所とは?」
「うん……今までこんな場所があったなんて僕も知らなかった。――いや、なかったと思うんだけど……最近、誰か住みついてたのかな?」
「兄上、小屋でもあったんですか?」
「いや、小屋とも違う……豪華な部屋だなぁ、とは思うんだけど。ちょっとコンを回収しにいきたいからちょっと寄らせて。危なくはないと思う」
豪華な部屋?
……あ! ひょっとしてヒロインが課金したものか!?
見てみたい!
ミーシャが言う場所へと私達は向かった。
「なにこれ」
岩場の切れ目の中に、ピンク色の光がキラキラしている。
「えーっと、ここに触れるだけでいいみたいなんだけど」
そう言ってミーシャがピンクの光にふれると、姿がスッと消えた。
「……一瞬のテレポートみたいなものか」
ドミニクスも続けて触れて、その姿が消える。
「ふむ」
私も彼らにならって、中へ入る。すると――
「わっ!?」
部屋の中は、コンパクトな広さだった。
だが、その内装は、前世で誰しもが見かけたことがあるだろう、子供用おもちゃのお姫様の部屋、といった感じだった。
ただし、安っぽくはない。白とピンクが基礎となった、大抵の女の子が一度は憧れちゃう感じの部屋だ!
天蓋付きのピンクのベッド。白を基調としたテーブル。
可愛い扉のクローゼット。
片付けが下手だったのか、服が床とかに散らかってる。
絨毯可愛いのに! 片付けなさいよ!!
また、おままごとキッチンが大きくなったようなダイニング。
あああ! 冷蔵庫あるううううう!!
「なんか……目がチカチカするな……」
ドミニクス殿下が、部屋を白い目で見て近くの椅子に腰掛けた。
「女性の部屋のようですね」
「多分ね。これサンディの部屋だと思う」
課金で部屋を買ったな……。
どこでも暮らせるやん。
異世界の沙汰も金次第かい。
クレカの支払い額が気になる!
「……は?」
ドミニクスが、驚いて、私を見た。
「ドミニクス殿下を見捨てた後か、ちょくちょく一人でここに来て過ごしてたんじゃないかな。彼女、やたら身綺麗じゃなかった? ほら、お風呂ある」
「うわ、あいつ……」
ドミニクス殿下が青筋を隠すように額を覆った。
「あ、コンがいた」
ミーシャがコンを見つけた。ピンクのソファの上で丸まって寝てる。
可愛い。
ミーシャが抱き上げてよしよししてる。
「……ここが気に入ったの?」
とか話しかけてる。
……良い。ほのぼの可愛い良い。
でも、懸念がある。
「ミーシャ、この部屋がいつまで存在するかわからないから、コンちゃんは連れて帰ったほうが良いかも」
ヒロインはエンディング迎えちゃったわけだし、ここも消えるかも?
「きゅぅ……」
コンが寂しそうに鳴いた……う。
「でもその代わり、ここにある家財を私が全部運びだすから、ほら、このクッションとかコンにあげるといいよ」
多分、運び出せばアイテムはそのまま消えない気がする。
「そか、ありがとうアーシャ」
「きゅ!」
コンが私のとこへ来て足にスリスリしてくれた。
……可愛い、死ぬ。
「じゃあ、時間もったいないから、ここはドミニクス殿下と私で作業するよ。温泉の方、しばらくミーシャとハーマン様だけでもいい? 手早く終わらせて合流するよ」
「な、お前勝手に決めんな」
「だって殿下も闇属性じゃないの。テレポート手伝ってくださいよ」
「めんどくさいな」
「ベッドあげますから」
「……しょうがないな」
釣れた。
「ソファーと椅子があるから、団らん部屋とか作れそうだね!」
「ふふ、アーシャ。なんだかウキウキしてるね」
「だってこれはテンション上がるでしょう!」
「わかったよ。気をつけて作業してね。……ドミー、アーシャを頼むよ。念のためにコンは置いていくからね」
「はい。兄上もお気をつけて」
ドミニクス殿下、ミーシャには普通の態度っていうか、ちょっと猫かぶってる感あるな。
……とか思ってたら。
ミーシャ達が出ていった後、ドミニクス殿下は、ベッドにゴロっと転がった。
猫かぶりいいいいい!!
「ドミニクス殿下! さっそくサボる気ですか!?」
「あとは、まかせた姉上」
「も……もう!! あと、姉上違うし!」
ドミニクス殿下がこのモードに入ると、何言ってもだめだ。
サバイバル生活でも彼のサボり癖は変わらない模様。
しょうがない、一人でやるか。
まずは風呂をのぞく。
シャンプーとトリートメントあるっ……!!
そしてボディーシャンプー……うわあ。
足拭きも洗濯したら使える!!
お宝やーーーー!!
私は速攻で拠点のバスルームにそれを送った。
そこからの作業はもうテンションあがりまくりだった。
前世でしか手に入らないようなものもあったし。
死にものぐるいで拠点に移転させた。
サンディ……とても良い暮らししてらっしゃいましたね……!
しかし、拠点が、モノだらけになってしまった。
ミーシャに頼んであとで倉庫作ってもらおう。
ミーシャに頼りっぱなしだなあ。