「じぇ、ジェフェリー殿下ぁ! 私も……っ。こんな、怪我しちゃって……助けてくださいぃ」
その声に私は、ふと我にかえって赤面し、ミーシャに抱きつくのをやめた。
わ、私はお子様に何を……。
「君、サンディだっけ? ……せっかくアーシャが僕を頼って抱きついてくれたのに、邪魔しないでくれる?」
「ミーシャ、は、恥ずかしいからやめて」
怪我してる背中の痛みを忘れるほどに恥ずかしい。
「何が恥ずかしいのかわからないけど、真っ赤になって可愛いね、アーシャ」
「あ、あわわ……」
ウワァァ……! そういうの、ウブ系日本人死ぬからそれ!
そんな私達の様子を見て、サンディは一瞬、醜悪に顔を歪めたが、すぐに可愛い顔を作った。
「ジェフェリー殿下! その方に私は……こんな怪我を負わされたのです。殿下はその方に騙されているのですよ!!」
いまだ海老反りの格好で草っぱらで倒れたまま、ぶりっ子して叫ぶサンディ。
「……君、面白いね」
冷めた目でミーシャがサンディに言う。
「はっ! そうなんです、私面白れぇ女なんですぅ!!」
自分から面白れぇ女って普通言わないよ!?
「でもぉ、普段はこんなんじゃなくって……ホントは普通の女の子でぇ……」
頬を染めて可愛らしく続ける。ただし海老反りのまま。
「ふぅん? でもまあとりあえず……」
ミーシャは今度は光球をいくつも浮かべると、それを使って騎士団を弾き飛ばしていく。
弾き飛ばされた騎士団は、一瞬で光の粒になって消えていく。
「数が多いからちょっと時間かかるね」
そう言いながらも、私にしてみればあっと言う間の出来事。
それはサンディにとっても同じだったらしく。
「き、騎士団が一瞬で全滅した……。うそでしょ。……さすがジェフェリー……」
「ミーシャ、すごい……」
私は感嘆の声をもらした。
私が禁忌クラスだと思った騎士団を、ミーシャは単純な光球だけで蹴散らしてしまった。
「え……? アーシャ。もっと言って?」
両手で頬を包まれる。
「す、すごいね、ミーシャ」
何故2回言わせる!?
「ふふ。アーシャに褒められちゃった」
半分は褒めさせたの間違いでは?!
ちょっと前まで、子供を褒める感じで気楽に言ってた言葉だし、その返ってくる笑顔が微笑ましかったのに。
「あ、あのね。頬を包むとかやめ……て?」
顔が真っ赤になるのってどうして、自分の意志でコントロールできないんですかね!
「え、なんで? 照れてるの? 可愛い……」
額をコツンと、合わせられる。うあ!
重ね重ね申し上げますが、ワタクシ、こういうのに耐性がない日本人でしたので……!
「ちょっと、さっきから何いちゃついてるのよ! 私のジェフェリーよ!!」
――ピコン!
「ステータスオープン……っ」
「あっ」
何の音かと思ったら、サンディが呟いて何か空中でポチポチやってる。
また課金アイテムを買うつもり!?
「何やってんだろ、変な人だね……」
「ちょっと、サンディさん! 私も剣を収めるから少し話し合いを……!」
「うるさいわね! ジェフェリーにクッキーは効かないから……よし、そう、これ、これよ!!」
ミーシャにクッキー効かないって……あ。予想だけど、神鳥さんの護りがあるのかな?
そして、ヒロインは矢じりが赤いハートになっている矢の束をさっきの弓矢に装填した。
「これでジェフェリー殿下は、私のものになるのよ!!」
「まさかあのクッキーみたいに、マジックアイテムで人の心を手に入れるつもり!?」
「なんだ、バレてたの? ゲームの難易度の関係でジェフェリーはクッキーの効果はキャンセルできる仕様だからね! でもこれは、ジェフェリーにも効く! 言っておくけれどこれは、どんな防御したって刺さるんだからね!!」
ぼ、防御力無視の矢!?
そう言ってサンディはミーシャを狙って矢を発射した……!
「アーシャ……!」
光の防御膜を貼って、更に私をかばうように抱きしめるミーシャ。
「……っ。ダメだよ、ミーシャ! あれはミーシャを狙ってるんだよ!! ミーシャがあの矢を受けたら、ミーシャがあの子を好きになっちゃうよ!? ハーマン達がおかしかった時みたいになるよ!!!」
「それでもアーシャがこれ以上傷ついたら嫌だ!!」
さらにギュッと隠されるように抱かれる。
「……っ」
……彼のその態度と言葉に、私はまた涙が出そうになった。
――だめだ、いくらミーシャでも強力な課金アイテムは防げないだろう。
……どうしよう、ミーシャがあんな女の虜とか……いやだよ!!
その時、ミーシャの肩にいた、鳥さんが私を見て、少しぼんやりと光った。
――脳内に文字が浮かぶ。
『テレポート』
……!
……あ、そうだ。
……あれだけの本数の矢があるってことは――
どんな防御も破る仕様はあっても、狙った相手に必中するアイテムではないかもしれない。
課金アイテムだから、てっきり必中だと思い込んでたけど――
命中判定のある矢ならば、テレポートでどっかへやっちゃえばいい。
私はむしろそうあって欲しいと思い、ならば、と巨大な闇のテレポートゲートを、私達の前に設置した。
「ははは、防御膜いくら貼ったって無意味なんだから!!」
「これは、防御膜じゃなくて、テレポートゲートよ!」
「はい!?」
薄紫に光る闇のテレポートゲートに矢が吸い込まれていく。
「あああああ!?」
「……よし!」
「わ、アーシャ賢い!」
「ミーシャの鳥さんが教えてくれたんだよ!」
「ちょっと! なんてことしてくれるのよ!! 1本1諭吉(※現在は渋沢)なのに!」
バラ売りだった!? しかも高っ!!
それはともかく、矢を排出しなきゃ。
出口ゲートを近くに見える山頂付近の森の中に開いて、飛び出す矢を排出する。
木々に刺されば、問題なし――
「ぎゃぉおおおおおおっ」
……ん?
「な、なによ、この声」
サンディが怯えた顔をした。
「あ、あの声……」
「ミーシャ知ってるの?」
「あそこの森……この山頂付近の森一帯のボスの声だ」
しばらくすると、森の中から象のように大きな――あれは……!?
「ゴリラ!?」
「あ、惜しい。 僕ね、ゴリオくんって呼んでるだけど」
違う、そうじゃない! 名前を当てたかったんじゃない!!
そのでっかいゴリラには、先程のハートの矢が無数に刺さっている……。
「ちょ、ちょっとこれどうなるの!?」
「さ、さあ……」
サンディに聞かれた。いや、知らんて……。