私は剣を手に、サンディへと走る。
「なっ。ちょっと待ちなさいよ!!」
ガキン! と音がして、私が振り下ろした剣を弓で受け止めるサンディ。
……接近して気がついたけど、彼女自身の身体全体に魔力変質で強固な守りを固めてる。
弓は課金アイテムだから、自分の守りは自分の魔力なんだな。
課金アイテムをあと何もってるかさっぱりわからないけど、普通に聖属性なら軽く倒せるとは思うのだけれど。
それにしてもこの防御はどうやったら突破できるのかしら。
ヒロインだから、どうせ魔力は豊富だろうなぁ……世の中不公平だ、こっちは魔力切れを気にしてるってのに。
とにかく、剣を振り回して、サンディを殴り続ける。
魔力変質が、こちらより魔力精度が高くて斬れない。
「はわ! あわわ! きゃう! あっでも。あららー? どうやら私の魔力精度を超えられないみたいね!」
喋り方、うぜえええ!!
「お強いですね」
剣じゃだめか。
私は大きな闇の腕を二本出して、サンディを掴んだ。
動きは鈍いから捕まえるのは簡単だな。
「ちょっとやだ!! なにそれ!!」
「殴れない、斬れない、なら。もういっそ本体を捻じ曲げるしかないでしょ!」
無課金プレイするしかない者の怒りを知れー!! この課金チートが!!
「何怖いこと言ってんの!? ……ああ!?」
私は、サンディを逆エビ固めスタイルにもっていく。
くそ、固い! これも魔力変質が効いてる!
だが、せめて気絶にでも持っていければ!
くそくらえ、ヒロイン補正ー!!
ゴリッ!!
ヒロインは海老反りになった。
平気平気、整体みたいなもん(狂)
「ぎゃああああああああっ!?」
魔力変質使ってるから、回復は使えまい!
回復使うなら魔力変質を解かないといけないだろ!
悔しかったらマジックサークル使ってみろ! ザマァ!
だが、その時。
「お、オクトパス!!」
サンディがそう叫ぶと――船を襲ったあのタコの魔物が現れた。
や、山の上に巨大タコ!!
タコってどこからどこまでどうやって測ればいいのかわからないけど、10メートル以上は身の丈ありそう。
私はタコに備えるために、一旦サンディを地面に放った。
「ぐっ……! オクトパス、餌よ!! その女を食べてしまいなさい!!」
サンディは地面に腹ばいになったまま顔を歪めているものの、死にそうな雰囲気はない。
多分、聖女だし自動回復パッシブとかがあって、いま自動で治りつつあるんだろう。ああもう、ずるいな。
タコが、その足を私に伸ばしてくる。
うわ、陸地なのに、結構動作が早い!
「く……っ」
掴まれたら今度は、私が巻き付かれて圧迫死するかも。
「――『Magick Circle_2』」
仕方なく、マジックサークルを追加、マルチタスクを増やす。
闇の手に闇の剣を作成して握らせる。
タコの足を斬らないと。
このタコ、タコだけに足は8本か。
ああ、タコいいね。ご飯のおかずにしよう! 茹でて食べてやる……!
私は、闇の剣でタコの足をまず、一本切り落とした。
動作は早いとはいえ、ここは陸地だし、全然かわせる。
二本目も難なく切り落とす。
「絶対許さないんだから!!」
サンディが寝転がったまま、後ろからまた弓を撃ってくる。
もう弓を撃てるまで動けるまで回復したの!? ヒロインの回復はっや!
闇の防御膜のオートが防いでるけれども!
ああ、うざい……!
でも今はタコ優先!
次は3本目を切り落としにかかった時。
「このままじゃ……しょうがないわね。騎士団(ジ オーダー)!!」
サンディがまた何か課金アイテムを使った。
当たりに黄金色のサークルが無数に出現し、そこから、甲冑を着た騎士たちが現れる。
何千の兵よ!?
「……な、なに」
「あはは! 高レベルの光魔法よ! さすがにこの数は相手できないでしょう!」
……どう考えても禁忌レベルの魔法でしょ!? これ!!
ショップよ! 金のためとはいえ、ヤバい商品並べ過ぎでしょ!
金になれば何でも売るんですかー!?
ゲームバランス考えろやぁ!!
そんな事考えてる場合じゃじゃない、騎士団の弓兵まで矢を撃ってきた!
「うあ!」
防御膜にヒビが入る。
威力強い!! そして数が多すぎる!
その刹那、私は下半身をタコの足にグルっと捉えられた。
「あ――」
そしてタコは私を巻き付けたあと、違う足で――
ビリ。
私の背中側から服を破いた。
「はあああ!?」
更に今度はスカートを破こうとしてる!
「なにしてんの!? このエロだこ!!」
私は思わず両手で、まだ無事な服の前側を抑える。
「ご飯食べるのに不要な部分はいでんのね、あはは。面白い格好ね!」
さらに騎士団の歩兵が近づいてくる。
闇の防御膜は何度も壊れ再生している。
これじゃ魔力が想定していたよりかなり早く枯渇する……!
――ザッ、ザッ。 歩兵の足音が聞こえる。
このままじゃ、首を飛ばされるのでは!?
一旦、闇の手と剣で、歩兵を薙ぎ払うがちょっとした時間稼ぎにししかならない。
これ、はっきり言って絶対絶命なんですけど!!
さすがに手に負えない!
だめだ、3サークル目を発動して、テレポートして逃げよう。
大丈夫、それくらいならまだやれる……、と思った時。
――ぽた。
私を掴んでいるタコの足に血が落ちる。
……あれ、私、背中以外にどこか怪我を?
いや、してないはず、じゃあこれは?
タコの血……じゃないよね?
不思議に想って上を見あげると。
「アーシャ……なんて、格好……ううっ」
「…………」
光球に包まれ、口と鼻を手で抑えたミーシャがいた……。
そこから血がたれている……。
エロ耐性が未熟!!
いや、それはともかく!
……またこのパターンかよ!!!
「じぇ、ジェフェリぃ殿下ぁあ!!」
ヒロインが鼻血垂らしてるミーシャに黄色い声をあげる。正気か。
いくらイケメンでも鼻血たらして登場するヒーローなんぞテンサゲやぞ。
お前ほんとにそれでええんか。
ミーシャは、無数に作り出した光の刃を飛ばしタコをあっというまに切り刻んで、落ちる私を受け止めた。
「アーシャ、……だ、だいじょう…もふぇ!?」
「ありがとう、ミーシャ……。……でも、ちょっと、鼻血なんとかしようね」
私は、自分の破けた服の一部を使って、ミーシャにマスクを付けた。
「う、うん……」
ミーシャは悪くない。
タコが悪い。そう、タコが悪いんだ。
そして、ヒロイン(課金者)の相手を一人でしようとした私が無謀だった。
いや、だっていくら課金してるからってここまで酷いとは思わなかったよ。
ミーシャは、大きな光のバリアを作り、向かってくる騎士団がガンガンとそれを攻撃する中、自分が着てたシャツを脱いで、私に着せてくれた。
「……背中の傷ひどい。やっぱり一人で行かせるんじゃなかった」
ぎゅ、と抱き締められる。傷に響きます、痛いっす。
そしてまるで危ない場所へ一人で行かせたみたいな言い方だけど、私はただ、畑の様子を見に来たなんですけどね!?
「……」
……でも。
……助けに来てもらえて、ありがたかった。
私もミーシャに抱きついた。
「アーシャ……?」
ヒロインに会わせたくなかったはずなのに。
ミーシャが来てくれたことに、自分でも思っても見なかった安心感が胸に広がり、思わず涙がでてきた。
「ミーシャ……助けてくれてありがとう。すぐに逃げなくてごめん」
私はミーシャの胸に顔を埋めた。
「怖かったね」
私の頭を撫でて、彼はそう優しく呟いた。