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㉖無人島生活7日目02● ハイジOPのブランコは乗ってみたい衝動に駆られるが、実際その場に立ったら怖気づくと思う。

 私は、食卓の食器を洗った後、まずは山頂へ行くことにした。


 畑に水やりしよ。


 闇魔法でテレポートする。


 山頂の小屋近くに出ると、白い狼のペロが出迎えてくれた。


「わん」

「ペロ、おはよ。はい、干し肉あげる」


 ペロにお礼のように、ペロペロされる。

 多分、ペロの目を通じてミーシャも視てるんだろうな。ずっとじゃないだろうけど。



「えっと鶏の卵を貰って。餌を……」


 それにしても、長年住んでるだけあって餌まで揃えてある。すごいな。


 ヤギのミルクを絞らせてもらう。

 テレポートを使って、拠点のキッチンに卵やミルクを置く。

 ん、私この仕事向いてるんじゃない?


 近くの池にバケツを運んで、やはり闇魔法で畑まで運ぶ。

 そんなに広くないし、丁寧にやりたいから、これは普通に自分の手で、水やりする。


 そして、収穫できそうなものを採って、カゴにいれ、やはりキッチンへ送る。


「……いいな、こういう暮らしも悪くない」


 とは言え、現代っ子の記憶があるから、そのうち飽きるだろうなぁ。

 田舎暮らしに憧れがある前世でもなかった。



 ペロと少し追いかけっこして、花畑で転がる。

 なんてメルヘン。

 そしてペロに抱きつくと柔らかくてふわふわしてる。


「お…おおお……もっふ……」


 これは、ペロに抱きついて昼寝したい!!


 ああ……何もかも忘れてずっとこうしていたい。

 それも適度に雲がある綺麗な青空。

 まるでアルプスの少女ごっこだよ。ブランコ欲しい。



 さてと、あとは池で冒険者魔法を使って飲料水を作ったら一度帰ろうか。

 キッチンから新しい瓶を取り寄せて、池の水を汲んだ後、魔法をかける。


 人数が増えたからドリンクもたくさんいるなぁ。


 そう思いながらノンビリと水を作っていた時。



 ドン!!


 ――いきなり。

 すごい衝撃で背中に何かが刺さり、そのまま、池に私は沈んだ。



「ぷは……っ! ……!?」


 ドドドドッ!!


「な、なんの音……!? ああっ!?」


 ――闇の手を使って自分を持ち上げ、水面に顔を出すと、銀色の魔力矢が無数に飛んできた!


 私は闇の防御膜をいくつか展開してとっさにそれを防ぎながら、池のほとりに降り立つ。


 ――背中が、痛い。


 冒険者魔法で、少しでも治療をしたいが、今はそちらまで手が回らない。


 魔力矢の数がすごくて、撃ってきている主の姿が確認できないが――これはサンディだな……!!


 聖属性にこんな戦闘力があるとは思えない。


 ――課金アイテムか!!


「サンディさん! 何をなさるの!!」


 私は背中の痛みに耐えながら叫んだ。


「なーんだ、バレてた!?」


 サンディの声が聞こえた。

 矢が止まることはない。


「こんな事をなさるのは貴女だけでしょう……! というか、この見晴らしの良いところのどこに隠れるところがっ……」


 こいつ、ミーシャの眼にも引っかかってない。


「あはは。光魔法に姿をくらます魔法があるのよ。それを買ったのよ! ずっとあんたを殺す隙を狙ってたわ!! やーっと1人になった!!」


 そんな光学迷彩みたいな光魔法、あんの!?


 ミーシャはザッと見ただけって言ってたから、そんな魔法使って隠れてるなら、見つからないはずだわ。


 こんの、課金者め! 


「何故殺す必要があるんですか? 学園でもずっと、私がいじめたとか言ってきてましたけど、私が何もしてないことは貴女が一番ご存知なのでは?」



「断罪イベントが終わったら、悪役令嬢はダイレクトに死刑、もしくは修道院送りになってその途中で死亡なのがセオリーよね。言ってもわからないだろうけど。あなたはもう要らない役者なの。このゲームでこのルートなら海の藻屑だったはずなのに……なのに、なんなの? あんたさあ。私のハーレム横取りしようとしてんじゃん!! 私の男どもにチヤホヤされてんじゃないわよ!!」


 うわ……出た。


 前世でなんか読んだやつだー! これは私の世界だ、とか言い出すヤツだー!

 なんてテンプレ腹黒ヒロイン……!


 しかし、そうか。あなた側の事情としては、私も死んでる予定だったのね!


 まったく、こっちは幼い頃から、ヒロインの邪魔しないように、そして自分は逃げ出せるようにと計算して生きてきたのに……!


 ミーシャの事は……私に執着してしまっているから、ヒロインからしたら確かに横取りになってしまっている。

 けれども。


「あなたの取り巻きたち、私の事、全然好きでもなんでもないんですけど!? まったくもってハーレムじゃないよ、あんなの!!」


「うるさい! どうせ、そのうち仲良くなって落とす気なんでしょ! サークルの姫になるつもりだってわかってんだから!!」


 なんのサークルの姫だよ!! 遭難者の会とかか!?


 被害妄想がすごい。

 まあ……私の言葉が届くような子なら、もともとこういう事にもならないか。


「……どうやらこれ以上話しても無駄なようですね」


 私はため息をついた。


 それにしてもミーシャに見つからないにしても、ペロがいるはず。


 こんなやついたら、ペロは匂いとかで気がつくんでは……ああ!!

 ――ペロ寝てる!!


 ああそうか、ヒロインは聖女。つまり聖属性魔法を使う。

 聖属性には眠りを与える魔法がある……。眠らせたわね!


 けど、動物は他にもいる。

 そこの家畜達とか空飛んでる鳥とか。

 基本白い動物と懇意にしてるみたいだったけど、おそらく視るだけなら普通の動物でも視れる気がする。


 多分、今のこの状態をミーシャは視てるだろう。


 ミーシャはここに来てほしくない。

 こんなヒロインの毒牙にかかってほしくない……会わせたくない。



「ジェフェリーがいる島にやっと来ることができたってのに、まさかあんたのほうが最初にジェフェリーと出会うなんて。ドミニクスなんて、とっとと捨てればよかったわ」


 こいつ。

 いくらなんでも、あれだけイチャラブしてたドミニクス殿下をそんな風に言うなんて、ひっどい言い草だよ!



「ジェフェリー殿下に会いに来た……? でも私達は事故で……ここに来たのは偶然では」


「あの船の事故はねぇ、私が起こしたのよ。私があのでかいタコを召喚したの。あのタコ高かったんだから★」

「高い……?」


 やっぱり課金アイテムか。

 金は前世のものだろうか。よくわからんが。だけどさ!


「え……あのタコ、あなたが召喚した魔物だったの!? あの船には、たくさんの人が乗ってたのよ!? ……死んだ人だって……きっと出たでしょう!? なんでそんな酷いこと」


 いくらヒロインだからって、そんな事して良い訳ないでしょ!?

 どうしてそこまで他人の命を軽んじ、踏みにじる事ができるのよ。



「モブ共なんて、どうなろうと知ったこっちゃないわ。私はね、色んな男をはべらせてきたけれど、本命はジェフェリーなのよ。ジェフェリーは、選択肢によって何タイプかに育てられる美味しいキャラなのに、あんたに横取りされた私の気持ちわかる!?」


 わからん!!

 しかし、何タイプかだと!?

 では執着系じゃないミーシャもいたのか!?

 なんてことだ……くそっ!!

 でも、子供の頃に既に知らないところで執着されてた私には関係ない話しか……って!

 い、いや、今はそれどころではない。


 こんな会話している間もずっと矢が飛んでくる。

 矢は尽きないの? 魔力がある限り飛んでくるとか?

 しかも、矢を射る動作をしてない。

 オートで矢が飛び出してきてる。ずるい!!



 なんでこんなヤツがヒロインなんだ……。


 しかし、この程度の課金アイテムなら、私でもまだ倒せる。

 無課金(あくやくれいじょう)舐めんなよ!!


 私は一度、深呼吸をした。よし。



 ――魔法は基本、一つを作動させている間、別の魔法を発動させることはできない。

 だが、マジックサークル……いわゆる魔法陣を空間に発動できるようになった者は、その数を増やすことにより、複数の魔法を発動させることができる。

 そのサークルに、例えば防御系のサークルを代入することにより、自動防御魔法を発動し続けられたりする。


 ただ、使用する魔力量が多いため、魔力量に自信がある人もできるだけ使わない。


「……使い時ね」


 私は3サークルまで扱える。

 王妃教育でやらされたのよ!! 辛かった!! でも役に立つ!


「――『Magick Circle_1』」


 私は発動したサークルに闇の防御膜の魔法式を代入する。 

 文字が浮かび上がり、自動で防御膜が作動するようになった。――だが、ガッツリ魔力がそっちに持っていかれる!


 でもこれで、私自身の手は空く。


「……う」 


 背中に刺さった矢を引き抜き、冒険者魔法で回復を1回分だけかける。――結構傷が深いらしくやはり1回ではだめだ。

 だが、十分に動ける程度には痛みは減った。


 私は闇でロングソードを作り出す。


 多分あいつ、普通のガチンコには弱いぞ。


 攻略対象たちをあんな風にしたのも酷いし、私を追い詰めたのも許せないけれど、罪もない人たちを自分のイベントの為に海の藻屑にしたのが一番許せない!




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