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㉔無人島生活6日目07■ 記憶を取り戻したきっかけがラッキースケベとか人には言えませんよね


「アーシャ」


 そのまま滝壺の魚を眺めていたら、ミーシャの声がした。

 振り返るとミーシャが立ってた。


「一人になりたいって言ってたけど、隣座っていい?」

「いいよ」


 私は頷いた。


「ミーシャ、なんだか急に大人びた気がするんだけど……どうしたの?」

「ああ……その。ハーマンが少し授業してくれたのもあるんだけど、実は今日、ショックなことが多すぎたせいか……いろいろ思い出したんだよね。昔のこととか」


「ショックなこと」


 まさかあの連続スケベ事件のせいで昔を思い出したとな!?


「う、うん」

「…………」


 私は体育座りしたまま赤くなった顔で俯いた。


「も……もう一度謝るね、本当に、ごめんね……記憶を失う前の僕は、もう少し自分を律することができるというか……。さっきまでの僕は本当に子供過ぎたね」

「……はい?」


 その発言に、私は驚いて顔を上げた。

 ミーシャはその私の様子に、柔和な笑みを浮かべる。


 ……子供過ぎた、とか何!?


 律するとか難しい言葉言い始めた上に、大人びた微笑みを浮かべた!!

 これが英才教育を受けていた神童第一王子の真の姿か……!?


 ミーシャは滝壺を覗き込んで言う。


「ふふ、さっきから思ってたけど、髪がボサボサだね。切って整えたいな」


 この数日そんなの全然気にしたことなかった子が!


「んー……」


 ミーシャは光の刃をいくつか浮かべて、ジャキジャキジャキン、と自分の髪を切った。


「……よし、さっぱりした。アーシャ、変じゃない? 後頭部とか」


「だ、大丈夫でございます……」


 うわあ……長髪でボサボサ気味だった髪がミディアムのちょうどいい感じに……。

 なんで私の好みどストライクの髪型にしてくるんですか。やめてください!


 ミーシャは座り直して、話を再開した。


「アーシャは、前に言ってたよね、ドミニクスが嫌いだから王妃になりたくないって」

「うん……まあ」

「でも、きっとそれは僕でもその他の相手でも……そもそも王妃になりたくないんだよね?」

「あ……それは」


 その通りなのだ……どうしよう、ミーシャが急に雄弁になったよ……。

 いや、もともと理路整然と喋る子ではあったけれども。


「いいから、言ってごらん」

「……ソウデス」


 言ってごらん、とか完全に上からじゃないですか。

 ああ、お姉さん終了のお知らせか……哀しい!


「わかった。じゃあ逃げて好きなことしたらいい。でも2年だけだよ……ああ、逃げていい、じゃなくて距離を置こう、だね」

「え……?」


 よくわからなくて、首をかしげた。


「僕も王になるなら、勉強が必要だ。がんばって2年で仕上げて見せるから、そしたらアーシャに会いに行くから、僕の婚約者になってほしい」


 なんだ……その計画性……。

 これ、子供が考えることですかね?


「……どうしてそんな提案を」


「僕が今、子供過ぎるから気持ち的に歩み寄るのが難しいのだろう、と。それに多分、君は自由が欲しくてたまらないんだろうなって思ったから。多分そこが解消されないと……僕のことを見てくれないだろうし、王妃になる決心がつかないだろうなって。ちがう?」


「……ミーシャ、私の心読めるの?」


 私は思わずポロッと。


 ミーシャは吹き出した。


「ふふ、やっぱりそうなんだ」


「うっ……!?」


 私は口元を抑えた。


「アーシャは可愛いね」


 ミーシャは私の髪を一房とってキスした。

 なに! それ!! どこで覚えたの!?


「君の子供の時の姿絵も思い出したんだよね、僕。」

「はい?」

「事故に遭う前、婚約者候補の姿絵を何点か見せられて、僕は君を選んだんだよ」

「な、なんだ…と…」

「会いたかった、僕のアナスタシア」


 髪を手にとったまま、上目使いで見られる。

 うああああ!! またウブな日本人を殺すような仕草とセリフを!!


「フフ、僕ったらね。事故に遭う前、君の姿絵を持ち歩いてたんだよ。早く会いたいなって思ってた。まさかこんな年月が経ってこんな場所で出会えるなんて。……運命を感じるね。そして……綺麗になったね」


 また髪にキスし直す。


 ウワァ。


 決して嫌なわけではないですが!

 私の中のウブ系日本人がドキドキ通り越して、カルチャーショックで死にそうです。


 ちなみにですね。

 美人に生まれはしましたが、王子と小さい頃から婚約しているわけだから、愛をささやきに来る男性もいませんでしたし、その、そういうの慣れてないんですってば!


 そして、新事実。

 まさかの……出会う前から執着されてた……?


「あ、あの。姿絵は何点かあったんですよね。姿絵だけで婚約者を選んだんです?」


 思わず敬語になる。

 会ってもないのに、他の候補削ったの!?


「うん。なんかビビッときた。あ、この子と僕は結婚するって」


 ビビッと!!


 前世でも聞いたことはある。

 出会ってすぐに、あ、私この人と結婚するってわかった、みたいな話。


 ひょっとしてそれですか。


 この世界にもあるんですね!


 私のほうはそういうのなかったですけど!!

 どうしてでしょうか!


 そういうのって一方通行なんでしょうかね!? 


「はは……その頃、鳥さんはもういらっしゃったので?」

「いなかったよ、まだ。……ひょっとして鳥さんからの進言だと思ってる?」

「え、ええ。まあ」

「いてもいなくても関係ないよ。……だって今、確信してるよ。僕の目が正しかったって」


 き、綺麗な瞳(め)しやがって!!

 そしていい加減、髪を放してくれ!


「あの~~、でも……2年後に私が既に誰かと結婚してたり、結局のところ、王妃を拒否ったら……?」


 ス……、と笑顔が怖くなった。


 ……?


 笑顔なのに怖いよ……?

 ひょっとして、優しい執着旦那ルートか、ヤンデレ執着旦那ルートしかないんですか?


 というか、そもそも私、悪役令嬢なんですけど?

 ヒロインがちゃんとした仕事しないから!!

 これシワ寄せきてんじゃないすかね!?


 ひょっとして、ヒロインを更生させるほうへ舵を切るべきだったか!?


「ふふ、さて。どうしようかな?」


 あ、笑顔だけどこれ、怒ってますね? え? 怒ってる? すいません、怒ってます?


「恋愛と結婚は禁止しておこうかな。……気持ちの整理がついてない場合は……まあ、延長戦だよね?」

「好きなことしていいって言ったのに?!」


「ん……? まさか、恋愛するつもりだったの?」


 髪にキス、というより、唇を当てたまま聞いてくる。

 怖い。

 下手なこと言ったら……


「いや、それは、予定には有りませんが、人生何があるかわからな」


 下手なことを、言ってみたら……


「あはは、やだなアーシャ。そんな冗談やめてよ……僕を好きになるまでお城に閉じ込めたくなっちゃうかも?」


 ヒエッ!!


 優しい口調なのに圧がある。

 この方、まだ中身、子供ですよね? 子供だよねぇ!?



「ああ、2年距離置くのやめようか……。そっちでも僕は良いんだよ。アーシャ」


「そっ そこは肝に命じておきます!!!」


「よろしい(ニコ)」


 み、みーしゃあ……可愛かったミーシャは、どこおお……。


「王都に着いたら、逃げる隙を僕がつくってあげるからね」

「はい……」


 完全に手のひらの上で転がされている……。


「さてと、それなら早く船を作らないとね。今日はいくつかハウスを作ったから、さすがに疲れちゃった。明日以降みんなでその事を考えようか」


 そう言ってやっと髪から手を放した……。


「は、はい」


「敬語やめてね。そろそろ太陽が傾いてきたね。……アーシャはまだここにいる?」


 あっ ハイ。いえ、かえります。


「……ううん、夕食の支度をするよ」

「じゃ、帰ろ。僕も一緒にやるから」


 そう言ってミーシャは立ち上がり、私の手を引いて拠点へと連れ帰るのだった。


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