「僕は……ゴミだ……(ブツブツ)」
樹の家――もはや拠点といった方がいいか。
そこへ帰ると、コニング伯爵令息が樹の下で体育座りをし、青い顔で俯いていた。
「なんだ、これ……」
私はコニング伯爵令息を指差し、思わず呟いた。
「ミーシャ殿下が例によって、正気に戻してくださったのですが、その結果、罪悪感で心が潰れたようです。ちなみにオレもそうだが、殿下達をお守りしなければという信念で保っております。でも実はかなり死にたいです(真顔)」
ハーマン……!
さすが将来の王宮騎士!
「……アーシャ、この人……コニングもここに住まわせてあげるの?」
「ミーシャ、あなたが決めるといいわ。ここはもともとあなたのお家の敷地みたいなものなのだから」
「んー……。まあ放っておくわけにもいかないよね……」
そう言うとミーシャは、簡単なツリーハウスをもう一つ作った。
ハーマンも手伝っているので早い。
ハーマンのツリーハウスから見える位置にコニングの小屋が設置された。
コニング伯爵令息は青い顔をして言った。
「恐れ多い、恐れ多すぎる……。もう、僕は息をしているだけで不敬罪なのでは……?」
「……そういうのはいいから、アーシャに謝ってよね」
ミーシャ、割りと大人な対応するなぁ。
頭が賢いからかな。
一方、コニング伯爵令息はハッとして私に向かって土下座した。
「申し訳有りませんでした、エルヴェスタム公爵令嬢……!!」
「ちょ、ちょっと。もういいわよ。正気に戻ってくれたなら、私はそれだけで安堵できるから」
色々とショックが残ってはいるけれども、引きずりたくはない。
「なんというありがたいお言葉でしょう……! こ、これからはお詫びを込めて誠心誠意、お力になります!!」
コニング伯爵令息は海辺での私の姿を思い出したのか、赤面しながらお詫びしてきた。
これしばらく寝てる時に思い出して足バタバタするやつだな。
私も色々足バタバタしそうだよ。うん(遠い目)。
「あー……まあ、お互い助け合っていきましょう……」
そりゃね、ハーマンもコニングも。
やった事自体は許せないんだけれども、ヒロインのせいで頭がおかしくなっていた訳だから、彼らも被害者なんだよね。
私も平気なわけではないのだけど、まあ、許さないとしょうがない、みたいなとこはある。
ここの王様であるミーシャが、彼らを許していることだしね。
コニング伯爵令息は、気持ちを落ち着けてきます、と早速自分のツリーハウスへ登っていった。
それを眺めながらミーシャは言った。
「あと、僕の弟の……ツリーハウスもいるよね?」
もう感動。なんて気が回る子なの。
ああ、でもそうよね。
自分の弟だもの。家くらい作ってあげるわよね。
「……そうね、偉いわ、ミーシャ」
私は頭を撫でようとした。が、手を取られた。
「偉くないよ、当然のことだ。……あと、もう……子供扱いしないで」
!?
み、ミーシャが……頭なでなでを、拒否った!?
そして子供扱いするな!?
さっきまで、つい先程まで撫で撫で喜んでたじゃない!?
どうして!?
「わ、わかった……」
私は、少し震えるその手を引っ込めた。
まるで反抗期が始まった息子を持った気分だ……!?
ミーシャは、ドミニクス殿下のツリーハウスをサクサクと作った。
ハーマンのヘルプもあるとはいえ、めちゃくちゃ手早い。
ドミニクス殿下、顔色悪いな。
私は少しだけ……魔力の譲渡を行った。
魔力を持っているもの同士は、相手に魔力を譲る行為が行える。
細かく言うと、奪うこともできるのだけど。
魔力をしばらく流してあげると、ドミニクス殿下の顔色が少し良くなった。
どれだけの間、ツタに絡まれていたのだろう。
まったく、世話の焼ける……婚約者だ。
起きたらどうせまた、こいつとは喧嘩になるんだろうな。
クッキーで頭おかしくなるその以前から……こいつとは反りが合わない。
「ツリーハウスへ運んで寝かせますね……よっ」
ハーマンがドミニクス殿下を抱えた。
ハーマンは成人男性をひょい、と難なく抱える。
鍛えてんな。さすがだ。
「ハーマン様、ありがとう」
「いえいえ、臣下として当然ですとも」
これで作業が終わり、かと思いきやミーシャの樹穴の近くに、もう一つツリーハウスを作り始めた。
「ん? どうしたの」
「アーシャの家作ってる」
「え、どうして」
「……男女で同じ家は良くないかと思って。ごめん、気がつくの遅くて」
え。えええ!!
「いや、何も謝ることないし。別に私は今更同じ家でも気にしないと言うか……」
ミーシャは私のその言葉に首を横に振った。
「着替えとかもあるし、やっぱり女性は別室のほうが良いと思う。それとね、ベッドをあげるよ。以前も言った通り、僕はベッドいらないから」
「あ、ありが……とう……?」
ふ、複雑だ……。
樹の穴の家、結構気に入ってたから、ちょっと寂しい!
ミーシャ、今までを取り戻すかのように成長が速いな……。
ハーマンの授業も、ついさっきちょっとやっただけだよね!?
その『ちょっと』と先程からの自分の反省点で急激に成長したのですか!?
なんかおかしくない?
ちょっとお母さん……じゃなかったお姉さん、ついていけないわ!?