私はかなり適当にテレポートした。
森の中に出た。
ミーシャにはすぐ見つかるんだろうな。
あいつアニマル千里眼だし。
ズンズン歩く。
「はあ……」
しばらくして、冷静になってきた。
……助けに、来てくれたんだった。
ちょっとセクハラ挟んだくらいで怒りすぎだったかな。相手、心は子供なのに。
「はあ……」
2回目のため息がでた。
――その時、しゅる、と足に巻き付くものがあった。
「ん、蔦(ツタ)?」
森の中だし、ツタが絡むこともあろう……と、そのツタをはずそうと手を伸ばした時――
「!?」
他のツタが意志を持ったかのように、腕にも巻き付いてきた!
「え! これって!!」
しまった、これ知ってる。
一度ダンジョンで遭遇したことある!!
足がガクン! と、力が抜けたかのように膝をつく。
「やば……」
――魔力を吸う植物の魔物だ!
ツタで獲物を捕まえて、魔力が出なくなるまで――つまり死ぬまで吸い尽くす。
対処法は火属性の魔法か、火属性以外のエンチャント、されてない武器。
つまり今、私はこいつに対してできることがない!
以前、遭遇した時は、火属性以外の冒険者仲間が捕まった。
その人が無理に脱出を試みようと魔力を使ったら、発動した瞬間にその魔力は吸い取られていた。
魔力を豊富に持っている餌だと思われたら最後、いくつもツタが絡まってくる。
ようは、暴れれば暴れるほど締め付けてくるみたいなアレです。
――助けが来るまで、魔法を使わないことが、今できることだ。
「く……っ」
……ん? ……助けが来るまで?
助けってミーシャ? だよね?
「……」
……自分の状況を見る。
「あああああ!!」
また!! ツタが体中に這って、えっちな漫画とかに出てきそうな格好になってる!!(涙目)
しかもまだ濡れてて透けてる!!
なんで隠したい部分はちょうど避けて逆に強調されるようにツタはってるんだよ!
このエロ植物!! エロ職人か!!
だれか、女の人助けて!!!
ミーシャはダメだ!!
免疫のない少年ハートのミーシャに、こんな姿を見せるわけにはいかない……!
こんなの落ちてるあの本に、無垢な少年を遭遇させるようなものだよ!
――濡れてちょっとパリパリになってて艶めかしい女の人が表紙で、開こうとしてもはりついてて開けないみたいな、しかし興味が惹かれてならないその表紙に、なんとかして開く工夫を、全脳に血を巡らせてでもしたい、あの本だよ!
変な扉を開かせてしまうかもしれない!!!
自分でいうのもなんだが、公爵令嬢のボディはあれです、わがままボディってやつです。
あかん! 純粋な若い男の子には見せちゃいかんです!!
なんとか……っ、なんとかミーシャに見つかる前に、自力で脱出か通りすがりの女性冒険者とかに助けられたい!!
助けてお姉様!!
遭難者の中におっぱいのついたイケメンはいませんか!!
「ううう」
じたじたしていた所、目の前に白い狐が通りかかった。
お、綺麗な狐……。
「……」
狐がじーっとこっちを見た。
――たら(鼻血)。
……ぱた……っ……(気絶)。
狐が鼻血を出して、その後、気絶した!!
狐さんがあああああ!!
「があああああああ!!! みいいいしゃあああああ!!!」
確実にミーシャに見つかった! 畜生!
しかも視られた!!!
てかなんなの、その反応!? やっぱ連動してんの!?
狐さんは大丈夫!?
――しばらくして。
茂みがガサ、という音がして、ミーシャとハーマンが姿を現した。
「あ、あーしゃ……た、たすけにきたよ……」
ミーシャはハーマンに肩を貸してもらい、支えられて歩いている。
なんで目隠ししてんの!?
「殿下しっかりなさってください……!!」
「何があった!?」
私は思わず令嬢らしからぬ言葉を発した。
「それは申し上げられません……!!」
ハーマン!!
「う……!」
ミーシャはその場に膝をついた。
「だめだ、つい、視てしまった……ごめん、アーシャ……」
あ……さっき怒ったから、反省して目隠しして見ないようにしたけど、私を探してまたこの現状を見てしまったのか。
「アナスタシア様。オレから殿下にどうして貴女がお怒りになったかはだいたい説明致しました。殿下は反省されましたので……どうか殿下を許してあげてください……その、どうしようもない時、というのは男(ひと)にはあるもので……。というか……あなたに非はありませんが、ひどいコンボを決めましたね、アナスタシア様」
「非がないと言いつつ、まるで私が悪いみたいな言い方だ!?」
コンボって何!!
おまえだって頭おかしかった時、私に酷いことしようとしてただろう! エロ同人みたいに!
「……強すぎたんだ」
なにが!! そこまで言うならもうはっきり言えよ!!
ハーマンはミーシャに向き直った。
「ミーシャ殿下、こちらでお休みください。この魔物は火属性である私が対処を致します」
「うん……お願いするよ、ハーマン……」
なんか仲良くなってる気がする。
ハーマンが私から少し離れた場所のツタを燃やし、火属性をからめた石の剣を使い、切っていく。
「核はこちらのほうですかね――あ!?」
「どうしたの?」
どさっ……。
ハーマンが焼き切ったツタの中から、ツタに絡まれまくったドミニクス殿下が現れた。
「ど、ドミニクス殿下!」
ハーマンが抱きかかえてツタから剥がす。
ドミニクス殿下は気を失っている。
「……ということはサンディも?」
ハーマンがツタを全部焼き切っていく。
私も解放されて地面に降りる。
「アーシャ、ごめんね」
ミーシャが近づいてきて、顔をそむけたまま、ブランケットを私にかけた。
「……ありがとう、このブランケットどうしたの?」
「アーシャが拾ったトランクの中に入ってたよ。この事態をハーマンに伝えたら使えるものがないか探していきましょうって」
ハーマン、グッジョブ。
ツタは全部焼ききったものの、サンディは見つからなかった。
「どうやら、サンディは、いないようですね」
ハーマンがドミニクスにまだ絡まってる残りのツタを取りながら言った。
「ハーマン様、ドミニクス殿下を抱えてくださる?」
「もちろんですよ」
私がやってもいいけど、ハーマンはガタイがいいしお願いしよう。
「あと、サンディさんの事は、ドミニクス殿下が目を覚ましたら聞いてみましょう」
「……このお兄さんが、僕の弟なの?」
「……ええ、ミーシャ。あなたはお母様に似ていて、彼はお父様似なので、似ていませんけれどね」
「へえー……あー、うん。そっか」
……?
……なんか元気ないな。