ハーマンいわく、他の生徒も彼が散策した範囲では、出会わなかったらしい。
「この島は広い。森も広がっているから、何人か流れ着いていたとして、会えなくてもおかしくはないですね」
でも、ミーシャが見つけていないってことは、いたとしても少数なんだろうなぁ。
「そうね……話は変わるのだけど、ハーマン様」
「なんですか?」
「ミーシャに色々教えてあげてくれない? そうね……7~8歳くらいの王子が教わりそうな……勉学以外の事、できる? 特に同性同士じゃないと教えにくい事とか……」
私の記憶が確かなら、ミーシャが行方不明になったのはそれくらいの年齢のはずだ。
「懐かしい記憶をたどる事になりそうですが、まあできないことはないかと。ただ、王宮のやり方、というより我が家の教育方法にはなりますが」
「構わないわ。きっと基本は同じだし」
「アーシャも教えてくれるんだよね……」
ミーシャが不安そうに言った。
「もちろん。これまでと引き続き同じことをやるわよ。あと、私以外の人とも喋ったりしてみないとね」
「はあーい」
「よろしくお願いします、ミーシャ殿下。そして私を正気に戻してくれてありがとうございます」
ハーマンは柔和に微笑んで握手を求めた。
こいつも攻略対象だから、容姿スペック高いんだよな。
まともになったら普通にイケメンに見えるわ。
「うん……」
ミーシャは拒否ることなく、握手した。
そして少し照れてる感じがする。
ハーマンはサンディのアイテムで頭がおかしくなってたって事は説明しておいたし、納得して頭切り替えたんだろう。
偉い子だ、ミーシャ。
「ハーマン、家欲しい?」
お?
「家、とは?」
「勉強見てもらうなら家がいる」
「なるほど。あなたたちがこの近くに住んでいるならこのあたりに洞穴でもあれば、そこを拠点としましょうか」
「うちの近くの木の上におうち作るよ、僕」
「ミーシャ……なんて偉いの!?」
私はミーシャの頭を抱いてヨシヨシした。
いや、マジで感動ですわ!
「うあ、アーシャ……」
なんか照れてる、可愛い。
「えっ、殿下が!? 私の家を!?」
ハーマンが仰天したあと、萎縮する。
「いや、僕はそのほうが便利だと思った……だけだよ」
「それでも偉いよー。お姉さんは嬉しい!」
「おねえさん……(おねえさんかー……)」
その様子を見ていたハーマンが口を開く。
「お二人は仲の良い姉弟のようですね。しかし、オレも嬉しいですが、殿下にそのような労働をさせるなど……」
「姉弟……? むう。できる人がやればいいと僕は思う」
――そう言って、ミーシャは私達の拠点にハーマンを連れていき、そこから遠すぎず近すぎない場所にサクサクとツリーハウスを作った。
「す、素晴らしい!」
「あと、これ」
ミーシャは石から切り出して、石のロングソードをハーマンに手渡す。
「かなり硬い岩で作ったからなかなか折れることはないと思う。魔力変質して刃を覆って使えば、問題ないでしょ。折れたりしたらまた作ってあげる」
「み、ミーシャ、すっごい親切だね」
「だって、勉強教えてくれるし、仲間になったんでしょ?」
あっさり言った。
頭の切り替え速い。そして仲間にすると決めたらとても親切なんだね。
「おお、家宝にします……」
ハーマンが涙して受け取った。
「家宝になっちゃった!?」
「家宝って……あの家宝? え、それ家宝になるようなものなの?」
ミーシャが困惑した!
その後、ハーマンに風呂を貸して上げてた。
その間にミーシャと二人で山頂へ卵やミルクを取りに行ったり、畑の手入れしてからお昼ごはんを作った。
ハーマンが感動している。
「このようなまともな食事が、またできるなど……」
「侯爵家の貴方からそんな言葉が出るなんてね」
「いやもう、たまに見つけた実を食べたりする数日間でしたので。今まで知らなかった有り難みがわかりますね」
まともだ!! まともな人だよ!!
ヒロインは、なんでこんな人をあんな風に変えてしまっていたのか。
チヤホヤさえしてもらえれば、性格はどうでも良かったんだろうか?
しかし、食器を洗い始めてなんとなくだけど、家事量増えるな、これ。
家族増えると家事も増える。
もしドミニクス殿下たちがこの拠点に住み始めたら仕事増えそうだな。
ぜったい手伝わないぞ、あいつら。
そうなると、家事以外の作業時間も減って……この島を脱出できるのいつになるんだろうなぁ。
「食器洗い、オレやりますよ」
「え、できるの?」
「できますとも。騎士科はキャンプ訓練もあるんですよ。下級生のころは色々雑用させられたものです。むしろ、公爵令嬢の貴女が洗い物をしている姿に驚愕しましたよ」
「えっと、ほら、家庭科の授業などでやってたから」
前世ではよくあること、などとは言えない。
「ああ、なるほど」
ほら、代わってください、とハーマンは食器を洗い始めた。
……この人、結構世話焼きなのかな? 身分が1番下ってこともあるんだろうけど。
いや、助かります。