はい、パターン入りました。
朝起きたら、ミーシャの顔が私の胸の谷間に突っ込んでいる。
……窒息しないの? これ。
しかし、これそのうち注意しないとな。
本人は脱幼児しようと思ってるみたいだし、ならば私も紳士的対応をお願いせねばならない。
というか前世でもこういうのは、叱らないと本人のためにならないって前母が言ってた。
……あ、そうだ。
今日はハーマンが来るし、紳士教育って彼にしてもらえばいいんじゃないだろうか。
多分、私がやるより絶対良い。
ミーシャはハーマンは嫌いだろうけど、勉強なら応じるかもしれない。
「え……いやだよ」
ミーシャに話したらやはり拒否られた。しかし。
「じゃあ、いつまでもその子供のままでいる?」
「う……」
ミーシャはフォークでバナナを刺して口に咥えたままもぐもぐ。
「………わかっひゃ…」
「ふふ、覚える事いっぱいあると思うよ。私じゃできない同性同士の楽しい話もできるかも?」
「ふうーん?」
あまり反応は良くない。
「ただ、ハーマン様が引き受けてくださるかわからないし……。でも、彼が教えてくれそうなら1回だけでもハーマン様と交流持ってみて」
「うーん……アーシャがそう言うなら……」
◆
約束の時間に、ハーマンと洗濯物干場で落ち合う。
「ごきげんよう、ハーマン様」
「おはようございます、エルヴェスタム公爵令嬢」
綺麗な姿勢と挨拶だ。
「アナスタシアで良いですよ」
「では、アナスタシア様」
「……それでハーマン様、こちらの少年……いえ、御方なんですが――」
――ミーシャの素性を明かすと、ハーマン様はその場にひれ伏した。
「確かにその神鳥は……!! これは、数々のご無礼を……! しかし、生きていらっしゃったとは……!!」
ハーマン様が涙したので、ミーシャは少し戸惑った顔をした。
「お兄さん、どうして泣いてるの」
「お、お兄さんなどと! ハーマン、と呼び捨ててください! ああ、これで王国は安泰だ……! 私が必ず王国へお連れ致します……!!」
あ、やべえ。しまった。
ミーシャのここに残りたいという選択肢が、と思ったが……遅かれ早かれこうなっただろうな。
「ええ……。僕、まだ王国へ帰るとは、はっきり決めてないんだけど」
「ハーマン様、ジェフェリー殿下は、ひょっとしたらここに残られるかもしれません。あなたにも思う所があるかもしれませんが、殿下の御心に従ってくださいませ」
私からも、一応言っておこう。
「なんと……。……とりあえず承りました」
話が平行線になる、と察したのだろう。引き下がった。
まともになったハーマンは、賢しいな。
さすが攻略対象、もともとの人間としてのスペック高そう。
「ジェフェリー殿下って呼ばないで。僕の名前はミーシャだ。アーシャもだよ。あと……普通に喋って」
ミーシャが言った。
「……わかったわ、ミーシャ。 ハーマン様、不敬だとは思わずくだけた喋り方をお願いします。ミーシャにはまだそれが必要ですので。私もこれより、平民寄りの会話をさせていただきますわ」
「……承りました。では失礼ながらミーシャ殿下とこれからは呼ばせて頂きます」
「それでいいわ、ハーマン様。ね、ミーシャ」
「うん、そっちがいい。ほんとは殿下もいらないけどね」
草っぱらに三人で座り込む。
話を聞くと、ハーマンはまだサンディ達とは遭遇していないらしい。
「オレも、昨日その話を聞いた後、少し散策してみたんですが、その二人は見つけられなかったですよ。どこにいらっしゃるのやら……」
「アーシャ、嫌な人たちなのに、会いたいの?」
「位置は把握しておきたいのよね。それに脱出できる算段が立てば……いやだけど連れて行かないわけにもいかないし。国の捜索隊が来てくれたらいいんだけど、ミーシャが十年以上発見されてないことを考えるとこのあたりは探しに来ないかも知れない」
「僕は人に会ったの、アーシャが初めてだよ。んと、アーシャが知りたいならケモノたちに聞いて、その人たちを、探してあげるよ」
……島中探せるくらい、いっぱいケモノをテイムしてるのかな。
もうそれ、一種の千里眼に近くない?
ある意味ちょっと怖いな。
たとえばこの島でミーシャから逃げようと思ってもすぐ見つかるってことだな……。
「ミーシャっていつも島じゅう見てるの?」
「いつもじゃないよ。疲れるもの」
なるほど。まあ、流石にそうだよね!