「ほら、アーシャ見て。いっぱい虹がでてるよ」
「……ん? おお……」
山には、色んな方向にいっぱい虹がかかってる。
不思議だ!
こんなにランダムにいっぱい虹がかかってるのは、初めて見た。
「すごい、こんなの初めて見た! 綺麗だー!」
いやはや。
前世でオーロラを鑑賞できる旅行とか、行ってみたーい! って思ってた心残りが満たされた気分だ。
オーロラじゃないけど、それを見ることができた程の気分。
わーい! これ見れただけでも転生して良かった!
あー……もし逃げ出す事ができたなら、やっぱりあちこち旅行行きたい。
このファンタジー世界ならば、きっと前世よりもっと楽しい観光がありそうだ。
ワクテカ。
「……」
ん? ミーシャがじっとこっちを見ている。
「ミーシャ、どうしたの?」
「楽しそうだなって、思って」
「うん、楽しい。連れてきてくれてありがとう!」
「うん」
ミーシャの私を抱き上げる腕が、すこし強くなった。
「ミーシャ?」
「……アーシャに会えて本当に嬉しいんだ、僕」
嬉しそうの微笑むミーシャ。
「う、あ、ありがとう……」
不意打ちにそういうイケメン出してくるのやめてください。
子供、この子の心は子供。子供。そして第一王子様だ。
ドキドキしてはならない。
――白い狼ペロがいる山小屋。
その近くにある花畑のような野原に降りる。
「あはは、地面びしょびしょだよ」
そういえば裸足のまま来てしまった。
「すぐ乾くよ」
上空を見上げると、さっき飛んできた時に見た虹が無数に走ってる。
やっぱり美しい景色。
ああもうここで最終回でいいよ、とか思ってしまうわ。
そうだ、少しお花を摘んで帰ろう。
ミーシャに花瓶を作ってもらって、食卓の上に飾ろう。
「お花もってかえるの?」
「うん。ミーシャ。帰ったら花瓶作ってくれる?」
「いいよ」
花、結構いろんな色があるなー。
ランダムな色合いにしようか、統一するか悩むなー。
「アーシャ」
「ん?」
ミーシャが花を一輪手に持って、私の髪に飾ってくれた。
「アーシャ、可愛い」
「うあ……っ」
私は不覚にも赤面して目をそらしてしまった。
……なんだこのシチュエーション。
映画か何かか。
ウブ系(謎)日本人にはハードル高いですぞ。
前世でも恋人経験とかないんですよ。
ちょっと前なら子供の可愛いプレゼント、として受け取っていたのだけど。
今はもうちょっと事情が違うしな……。
複雑だわ。
お願いだから、こういうのは、役者ではなく観客に回らせてほしいシチュエーションですよ。
ああ、そうだ、こういう状況を影からのぞくモブみたいなのに転生したかったなぁ!
そらした目を戻すと、ミーシャの顔が近くなってた。
何する気だ……!
ミーシャの唇が私の頬に触れそうだよ!?
私はぎゅ、と目をつぶったが。
「あ、ペロ」
その時、ペロが小屋から駆け寄ってきて、ミーシャと追いかけっこを始めた。
「は、ははは……」
私は摘んだ花を両手で持って震えた。
助かった……。
脱力してその場に少し正座する。
地面濡れてるけどまあ、いいや……。
ああ~~ そうだ~~ 晩ごはんのこと考えようねぇえ。
そういえばパスタがあったなああ。鍋もできたし茹でるかな~
塩まぶせば具なしでもまあ、美味しくいただけるよね~~。
オリーブオイルが欲しいなぁ~~。
~~はあ。
そして夕日が沈む直前に帰宅した。
ミーシャは泥んこになってたので、真っ先に風呂に突っ込んだ。
その晩は眠る時、ミーシャが不安そうに抱きついてきた。
「ミーシャ、そんなにギュっとくっついたら、ちょっと苦しいというか」
「ごめん、目を覚ましたら、アーシャがいないんじゃないかって不安になって」
そりゃ10年ぶりに出会った人類。
私でなくても手放したくないだろう。
「……そっか」
いなくならないよ、なんて否定はしない。でもまだ当分その予定はない。
船をつくる段階になったらもう一度話しあって納得してもらいたいけどなぁ。
ヤンデレ化するかも? という不安は、よぎったものの、ミーシャを信じたい。
ちゃんとわかってもらってから、お別れしたい。
そんなね、朝起きたらいきなりいないとか、そういうのは絶対したくない。
「寝るまで、歌ってあげるから目を閉じて」
「うん」
とりあえず目を閉じれば、いつかは眠れるものだ。健康ならば。
私は、子守歌を私は歌った。
前世で好きだった、寂しくない優しいメロディのもの。
子守唄の経験は多分、王宮でも経験なかったんじゃないかな。
不思議そうにしてたけど、でもとても幸せそうな顔で寝てくれた。
おやすみ、ミーシャ。
君が明日もまた、そんな顔で眠れますように。