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⑯無人島生活5日目04■ サラマンダーよりはやーい! それは裏切りの言葉。


  おやつを食べた後、ミーシャのお勉強を見てたら、雨が降り出した。


「あ、洗濯物! ちょっと行ってくるね!」

「僕も行くよ」

「ふむ、よし」


 私は闇魔法を使って闇のゲートを作った。


「え! なにそれ!!」


 びっくりするミーシャ。

 ただ闇の空間を広げて、引きずり込むとかもできるけど、イメージ的に怖いからゲートにしてみた。


「ミーシャ、こっち」


 私はミーシャの手を引いてゲートに入る。

 ゲートを抜けると、目の前に洗濯物干場。


「えええ! アーシャすごい!!」

「ふふふ」


 洗濯物はなんとかセーフ。すこし濡れたくらい。許容範囲だ。

 取り入れると、またゲートを通って樹の家まで戻ってきた。


 帰宅後、雨は本格的に降り始めた。


 雨が入るから、木の家のドアや窓も締める。ザーザーと音が聞こえる。


「良かった。やっぱり近場に干場があると助かる。さっきの闇のテレポートね、滝壺までだと2回くらい作り直さないといけないの。本当にありがとう、ミーシャ」

「僕のも洗ってくれてるし、そんな」


「居候だし、これくらい当然だよ。それに服を着てって頼んでるの私だし」

「……あ~。それなんだけど……王宮に戻ったら、やっぱりずっと服着てなきゃダメなの?」

「うん。むしろ今よりもっと堅苦しい服になるね。君の場合」

「え……やだなぁ」

「わかるよ。君ほどじゃないけど、私も、今ぐらいのラフな格好が好き」


 洗濯物を畳んで、空いているスペースに置く。



「なんだかアーシャが来てから、生活が変わってきた!」


 小さなテーブルに頬杖をつくミーシャ。


「色々作らないといけなくなって、めんどくさくなった?」


 私は苦笑気味に言った。

 ミーシャにいっぱいお仕事頼んでるものね。


「ううん! そんな事ないよ! むしろ楽しいよ。 言ってもらえれば、僕は色々作れる自信はあるけど、自分ではアイデアがなかなかでなくて。今までは本当に必要に感じたものしか作ってこなかったから。アーシャがリクエストくれるの嬉しいの。新しいことが知れるし」


 ほんと知識欲旺盛だな。そして新しい物好きなんだな。


「ふふ。ミーシャは王宮に帰れば、とっても大きな図書館を利用できるよ。喜びそう」

「へえー。本がいっぱいあるんだ。楽しそう」



 ガラガラ……ドーン!


 その時、ものすごい雷の音がした。



「わっ!? びっくりした!」


 私は一瞬ビク! としてしまった。


「雷の音こわいよね」

「すごい地響きもしたよ?」

「うん。でもすぐ雷も雨も止むよ。大丈夫。だいたい雷落ちるのって、ほら、山の上のとこだし」

「そういえば、言ってたね」


 ハーマンや、ドミニクス殿下達は今頃どう過ごしているんだろう。


「僕は雨嫌い。なんか寂しくなるから」


 ミーシャが腰の当たりにギュ、と抱きついてきた。

 目が本当に不安そうな顔してる。


 ……想像した。


 何もわからない小さな子供が、こんな何もない島で一人どこかで雨宿り。

 たまに雷の轟音。

 それを何年も繰り返してきた。

 鳥さんがいつから傍にいたかはわからないけど、鳥さんでは埋まりきらない恐怖と寂しさだよなぁ。

 考えたら私まで切なくなってしまった。


 私はミーシャの肩の辺りを軽くポンポンしながら、考えた。

 何か前世で楽しげな雨の歌でもないかなぁ。

 雨の歌でカラッと明るい歌って思いつかないなー。うーん。


「……ぴっちぴっちちゃぷちゃっぷ らんらんらん♪」


 思わず口にしてしまった。その部分だけ。


「!?」


 ミーシャがなにそれって顔で少し身を起こした。


「あ、なんかね。子供の頃に聞いた歌なの。あめふりって曲なんだけど」


 前世の童謡だけどね。

 ミーシャはそれを聞いて笑った。


「へんなのー。へえ、そういう歌ってあるんだ」

「ミーシャは王宮育ちだから、多分こういう歌って聞いたことないかもね」


 平民育ちなら、この世界の、なにかしらこういう歌は知ってそうな気もするけど、私も公爵家に生まれたから、知る機会はなかった。


「ありがとう」

「ん?」

「僕が寂しいって言ったから、歌ってくれたんでしょ?」

「あー、うん、まあね。少しは気が紛れた?」

「うん! アーシャがいるなら雨の日も寂しくないかも」


 またギュ、と抱きついてきた。

 こうしてると本当にお子様。


 雨音が止んできた。


「雨、ほんとにすぐ止んだね。もう少ししたら晩ごはんの準備しなきゃ」

「そうだねー。ねえ、アーシャ、ちょっと山の上行かない?」

「ん? 今から?」


 私の返事を待たずして、ミーシャは私を抱き上げた。


「ちょっと!?」

「行くよー」


 何故抱き上げる!?


 私を抱き上げたミーシャは、そのまま、ドアをバーンと蹴って、樹から飛び降りた。

 樹の穴の位置、結構高い位置にあるのよ!?


「いやあ!?」


 落ちても魔力変質すれば平気だけれど、落ちる感覚を味わうのは嫌だよ!?……と思ったら、光に包まれて、ふんわり浮いた。


「浮いてる!!!」

「昼間一度見たでしょ」

 アレか!! あの光の球体に入って浮かんでたやつ!!


「昇るよー」


 そのまま、結構なスピードで上昇した。


「高いよ!?」


 私は涙目でミーシャに抱きついた。


「大丈夫だよ、落とさないから。景色良いから怖がってないで見たほうがいいよ」

「お、おう……おおおおおお!?」


 ミーシャがスピードを上げた。

 初心者には優しくしろ!!


「あはは、ピエールよりはやーい!」


 ピエールのほうが飛び方優しかったよ!!!

 助けてピエールゥウ(舌巻)


 大体、一度行った場所だし、闇魔法でテレポートを繰り返せば、こんな刺激的な移動方法じゃなくてですね、私がお連れしますけれども!!


 まあ、そんな事は言える雰囲気ではないけれども。

 ミーシャは楽しそうだ。


 しかし、まず落ちることはないと思っていても、怖いもんは怖い。

 私は前世では絶叫マシーンには乗らないタイプだった。


 たすけて。



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