おやつを食べた後、ミーシャのお勉強を見てたら、雨が降り出した。
「あ、洗濯物! ちょっと行ってくるね!」
「僕も行くよ」
「ふむ、よし」
私は闇魔法を使って闇のゲートを作った。
「え! なにそれ!!」
びっくりするミーシャ。
ただ闇の空間を広げて、引きずり込むとかもできるけど、イメージ的に怖いからゲートにしてみた。
「ミーシャ、こっち」
私はミーシャの手を引いてゲートに入る。
ゲートを抜けると、目の前に洗濯物干場。
「えええ! アーシャすごい!!」
「ふふふ」
洗濯物はなんとかセーフ。すこし濡れたくらい。許容範囲だ。
取り入れると、またゲートを通って樹の家まで戻ってきた。
帰宅後、雨は本格的に降り始めた。
雨が入るから、木の家のドアや窓も締める。ザーザーと音が聞こえる。
「良かった。やっぱり近場に干場があると助かる。さっきの闇のテレポートね、滝壺までだと2回くらい作り直さないといけないの。本当にありがとう、ミーシャ」
「僕のも洗ってくれてるし、そんな」
「居候だし、これくらい当然だよ。それに服を着てって頼んでるの私だし」
「……あ~。それなんだけど……王宮に戻ったら、やっぱりずっと服着てなきゃダメなの?」
「うん。むしろ今よりもっと堅苦しい服になるね。君の場合」
「え……やだなぁ」
「わかるよ。君ほどじゃないけど、私も、今ぐらいのラフな格好が好き」
洗濯物を畳んで、空いているスペースに置く。
「なんだかアーシャが来てから、生活が変わってきた!」
小さなテーブルに頬杖をつくミーシャ。
「色々作らないといけなくなって、めんどくさくなった?」
私は苦笑気味に言った。
ミーシャにいっぱいお仕事頼んでるものね。
「ううん! そんな事ないよ! むしろ楽しいよ。 言ってもらえれば、僕は色々作れる自信はあるけど、自分ではアイデアがなかなかでなくて。今までは本当に必要に感じたものしか作ってこなかったから。アーシャがリクエストくれるの嬉しいの。新しいことが知れるし」
ほんと知識欲旺盛だな。そして新しい物好きなんだな。
「ふふ。ミーシャは王宮に帰れば、とっても大きな図書館を利用できるよ。喜びそう」
「へえー。本がいっぱいあるんだ。楽しそう」
ガラガラ……ドーン!
その時、ものすごい雷の音がした。
「わっ!? びっくりした!」
私は一瞬ビク! としてしまった。
「雷の音こわいよね」
「すごい地響きもしたよ?」
「うん。でもすぐ雷も雨も止むよ。大丈夫。だいたい雷落ちるのって、ほら、山の上のとこだし」
「そういえば、言ってたね」
ハーマンや、ドミニクス殿下達は今頃どう過ごしているんだろう。
「僕は雨嫌い。なんか寂しくなるから」
ミーシャが腰の当たりにギュ、と抱きついてきた。
目が本当に不安そうな顔してる。
……想像した。
何もわからない小さな子供が、こんな何もない島で一人どこかで雨宿り。
たまに雷の轟音。
それを何年も繰り返してきた。
鳥さんがいつから傍にいたかはわからないけど、鳥さんでは埋まりきらない恐怖と寂しさだよなぁ。
考えたら私まで切なくなってしまった。
私はミーシャの肩の辺りを軽くポンポンしながら、考えた。
何か前世で楽しげな雨の歌でもないかなぁ。
雨の歌でカラッと明るい歌って思いつかないなー。うーん。
「……ぴっちぴっちちゃぷちゃっぷ らんらんらん♪」
思わず口にしてしまった。その部分だけ。
「!?」
ミーシャがなにそれって顔で少し身を起こした。
「あ、なんかね。子供の頃に聞いた歌なの。あめふりって曲なんだけど」
前世の童謡だけどね。
ミーシャはそれを聞いて笑った。
「へんなのー。へえ、そういう歌ってあるんだ」
「ミーシャは王宮育ちだから、多分こういう歌って聞いたことないかもね」
平民育ちなら、この世界の、なにかしらこういう歌は知ってそうな気もするけど、私も公爵家に生まれたから、知る機会はなかった。
「ありがとう」
「ん?」
「僕が寂しいって言ったから、歌ってくれたんでしょ?」
「あー、うん、まあね。少しは気が紛れた?」
「うん! アーシャがいるなら雨の日も寂しくないかも」
またギュ、と抱きついてきた。
こうしてると本当にお子様。
雨音が止んできた。
「雨、ほんとにすぐ止んだね。もう少ししたら晩ごはんの準備しなきゃ」
「そうだねー。ねえ、アーシャ、ちょっと山の上行かない?」
「ん? 今から?」
私の返事を待たずして、ミーシャは私を抱き上げた。
「ちょっと!?」
「行くよー」
何故抱き上げる!?
私を抱き上げたミーシャは、そのまま、ドアをバーンと蹴って、樹から飛び降りた。
樹の穴の位置、結構高い位置にあるのよ!?
「いやあ!?」
落ちても魔力変質すれば平気だけれど、落ちる感覚を味わうのは嫌だよ!?……と思ったら、光に包まれて、ふんわり浮いた。
「浮いてる!!!」
「昼間一度見たでしょ」
アレか!! あの光の球体に入って浮かんでたやつ!!
「昇るよー」
そのまま、結構なスピードで上昇した。
「高いよ!?」
私は涙目でミーシャに抱きついた。
「大丈夫だよ、落とさないから。景色良いから怖がってないで見たほうがいいよ」
「お、おう……おおおおおお!?」
ミーシャがスピードを上げた。
初心者には優しくしろ!!
「あはは、ピエールよりはやーい!」
ピエールのほうが飛び方優しかったよ!!!
助けてピエールゥウ(舌巻)
大体、一度行った場所だし、闇魔法でテレポートを繰り返せば、こんな刺激的な移動方法じゃなくてですね、私がお連れしますけれども!!
まあ、そんな事は言える雰囲気ではないけれども。
ミーシャは楽しそうだ。
しかし、まず落ちることはないと思っていても、怖いもんは怖い。
私は前世では絶叫マシーンには乗らないタイプだった。
たすけて。