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⑬無人島生活5日目01■ 遭難者同士が味方になるとは限らない。

 そして翌朝。

 やはりヤツは、私の胸に顔埋めてた……もう、ぱふぱふ代金いらないんで……私への執着やめてください。やめろおねがいします。


「アーシャ、おはよう」


 私の胸の谷間から見上げてくる。

 まるで朝チュンである。くそっ……!


「おはよう、ミーシャ」


 私は寝不足である。

 明け方近くになってようやく寝れたとこだったよ。


 とりあえず、眠れない間、私は前世の情報を振り返り思った。


 幼児でも恋はする。


 こいつは近所のお姉さんもしくは幼稚園の先生などに恋しちゃってる状態なのだと思うことにした。

 子供によっては隙あらば乳狙ってくるしな。

 前世での従兄弟のクソガキが、そのパターンだった。

 うん、それだ。それだよ。


 ――昨晩、彼は僕から逃げたら許さない、と言ってはいたが。


 例えば……王宮まで送り届け、そこに置き去りにしたとしても。

 王宮には綺麗なお姉さんがいっぱいいるわけだし、婚約者とか絶対美人を用意してもらえるだろうし。


 そうなったら近所のお姉さんなんて忘れちゃうさ。


 よし、大丈夫だ。

 もし送り届けることができたら、そこでお別れだ。


 心が傷まないわけではないが、私だって自分自身が可愛いし……。


 よしよし。気持ちは前向きだ。

 一度王都に戻ってもなんとか逃げる方法はあるさ。

 今は思いつかないだけで。




 さて、今日は何しようと思ってたんだっけ。


 とりあえず朝食を作って食べたら……洗濯するか。


 そういえば、わざわざ滝壺いくのも面倒だなぁ。

 生活の導線って大事だよね。

 ミーシャ先生に相談しよう。


「そうだなぁ……じゃあ、近くの湧き水のとこで洗って、そこに洗濯ものを干せる所を作ってあげる」


 やはり頼りになるな。


「たしかにあそこは水量多いからいいね。そこから小川になってるし。」

「でしょう。この近くだと日当たりも一番良いと思う」


 食事しながら相談する。

 今朝は小麦粉を練ってペラい生地を作り、それを挟む形でフルーツサンドみたいなのを作った。

 あとはヤギミルクとサラダ、ゆで卵。


 そういえば、食器もミーシャに木を削って作ってもらった。

 洗う所も作るね、とかまどの近くに食器棚やらシンクのようなものまで……。


 すごい、と感動していたら、アーシャが色々アイデアをくれるから作れるんだよ、と逆に褒められた。


 いや、私なんて簡単にあやふやな事しか言ってないのに、その私の言葉を理解した上で、想像以上のものを作ってくれるから、すごすぎるよ、ホント。


「アーシャって色んなご飯作ってくれるね。美味しい、好き」

「そうかなぁ。下手くそなほうだよ? ミーシャは王宮に帰ったらもっと美味しくて色んなご飯が食べれるよ」

「そっか~~楽しみだね。でもアーシャが作ってくれるご飯がいい」


 ぴと、とくっつかれる。


 くっ……!

 これは幼児、幼児、幼児だ。惑わされるな私。

 ガワがイケメンなだけだ!


 しかも私を王妃にしてこようとしているヤツだ。


 ……くそう、イケメンが甘えてくるなんて、ご褒美のはずなのに素直に喜べぬとは。


「う、嬉しい事言ってくれるね。ははは、お昼は何にしようかな~~」

「アーシャが作ってくれるなら、僕なんでもいい……」(ぎゅっ)


 くっついてないでご飯食べなさい!!



 朝食終了。


「それじゃ、食器洗っておいてくれる? 私は湧き水のとこへ行って、先に今日の洗濯物やってきちゃうね」

「わかった~。気をつけてね」


 ミーシャと分担して家庭の雑務をする。

 生活らしくなってきた。

 こういう毎日の当たり前のルーティンが出来上がったら、次は島からの脱出計画やドミニクス殿下達をどうするか、とかそろそろ考える頃合いか。


 ミーシャが作ってくれた洗濯籠を持って湧き水場へ向かう。

 湧き水から流れ出る小川の傍に膝をついて、闇の手を出して、じゃぶじゃぶ洗う。


 基本温かい島だからすぐ乾くのはホントたすかる。

 衣類少ないし。


 ちゅんちゅん。ぴぴぴ。


 湧き水の傍の水たまりで、白くて小さい小鳥たちが水浴びしてる。

 可愛いなぁ。

 前世でいうシマエナガに似てる子たちだ。

 たまらない可愛さだ。


 シマエナガ(仮)がこっち見た。首かしげる。

 かわいいいいい!!


 いけないいけない、洗濯物の手が止ってしまった。

 続きを、と正面をむいた時、肩に何かが触れた。


 ――見ると、それはロングソードの刃だった。



「……こんな所で何をしている、悪女」



 聞き覚えのある男の声だ。ドミニクス殿下ではない。

 この声はたしか――


「なにって……洗濯物を洗っていただけですわ。ハーマン侯爵令息」


 薄い金髪にグレーの瞳の男が立っている。

 こいつは――ハーマン侯爵家の次男。

 王宮騎士団にご就職予定のヒロインハーレムの一人だ。

 生きていたのか。


「声だけで私だとわかるとは、さすがアバズレ……」

 刃の先で私の背中をなぞる。

 服傷むからやめて。


 こいつは私のことをビッチだと思っている。

 なぜならヒロインがそのように吹き込んだからだ。

 私を汚い女のように罵りながらイヤラシイ目つきでも見てくる、セクハラ男だ。


 ――とは、言うものの。

 ヒロインが学園にやってくる前は、まともな男だった。

 大した付き合いではなかったが、真面目な青年だったのは知っていた。


 先程チラ見した感じ、刃は傷んでいる。海水にやられたかな。

 刃を向けられても、私も魔力変質して身体は守れるので、大してビビる状況ではないのだけれど――。


 まあ、刃はともかく……こいつは属性、たしか四大属性の火だったかしらね。

 剣に火をエンチャントされたら、近距離過ぎるし戦闘に長けてる相手だから防御できる自信がない。


 戦わないですむなら、それが一番。


「そちらを向いてもよろしくて?」

「構わないが……ゆっくりとだ。手も挙げてな。その闇の手も消去しろ。少しでもおかしな真似をしたら殺す」


 私はゆっくりと言われた通りにして振り返った。

 彼の剣先が私の喉元に触れる。


 彼自身に憎まれる覚えは何もないのにね。

 ヒロインが絡むと、簡単に刃を向けられるなんて、おかしな話だわ。



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