「わ、わからない、な。ははは」
私はキョドった。
そんな様子を見たミーシャはにんまり笑った。
……え、なんすか?
「それに、僕の弟は、他に好きな人がいて、お姉さんを要らないって言ってるんだよね?」
「う、うん」
動悸が……。嫌な予感しかしない。
ミーシャ、頼むからそれ以上は、やめてくれ。
「じゃあ、お姉さんは僕がお嫁さんにするー!」
……あああああああ!? 言った! 言っちまった!
嫌な予感が的中した!
「いや、ちょ、まって」
「僕、王宮帰って、王様なるー」
聞いちゃいねえ!
「待ってください。私、王妃自体なりたくないのですよ。ジェフェリー殿下」
「ミーシャって呼んでよ~。お姉さんがくれた名前、僕大好きなの。 あれれ……お姉さん……、ひょっとして、僕を王宮に送り届けて一人で逃げるつもり?」
「え? いや、その」
「まさか、僕を置き去りにしたりしないよねー?」
ずい、と顔が近づいてきた。
屈託ない笑顔だけど、影がある気がするのは、私の心の持ち方の問題でしょうか?
「そ、それは……その、私の判断だけでは、お約束できない事でありまして……」
私は、さり気なく身をずらし、じりじり後ろに下がった。
ミーシャがなんか怖い。
「お姉さん……」
「はいっ!?」
ミーシャは私を抱き寄せた。後ろ下がったの意味なかった。
「僕を連れて旅にでたら誘拐に……なるんだよね?」
「ええ、はい、だからそれは出来なくてですね」(カクカク)
「僕と結婚して王妃になるのと、僕を連れて旅にでて誘拐犯になるのと……どっちが良い?」
ミーシャが耳元でささやく。ひっ。
笑顔が爽やかですが脅されている……!!
こ、この、ガ、ガキ……。
「ど、どっちもいやです」
「お姉さん、なんで震えてるの? どっちも嫌って、どっちかしかないよ?」
「どうしてでしょうか……」
「だって、僕、お姉さんから絶対離れないから。それによく考えたら僕が行方不明にならなければ、お姉さんって、もともと、僕の婚約者だった可能性もあるよね?」
「えjうぇjっ!!?」
私の頭に衝撃が走った。
確かにありえる。
でもこの世界は乙女ゲームが基盤だから、ちょっと違うんじゃないかな!
きっとミーシャの事故はもともと、最初から起こる予定だと思うんだ。
だからあなたの婚約者に最初からなるような設定はないんじゃないでしょうか!
「それ何語? 教えて? ああ、後ね。お姉さんが望むなら、このままここで二人で暮らしてもいいよ」
「それもちょっと……!!」
「3つも選択肢あるのに、我がままだなぁ。お姉さん……ああ、そういえば僕のほうが年上なんだっけ?」
「……はい、そうですが……」
「じゃあ、お姉さんって呼ぶのは、おかしいよね。……これからはアナスタシア……アーシャって呼んでもいい?」
がーん。
なにげにお姉さんって呼ばれるの気に入ってたのに!
「それは……お、お好きにどうぞ……」
「アーシャ」
「はい」
頬染めて頬ずりされる。
……さっきまで可愛くて純粋だったミーシャがいなくなった……これは誰よ!? 泣くよ!?
「アーシャ、なんで泣いてるの……?」
泣くよ、どころか。私、既に泣いてた!! 心配そうに言うけど、あなたのせいですよ!!
こういう展開、前世の小説で読んだことある!
態度が急変するやつ!!
これ執着系彼氏ってやつじゃない!?
絶対そうだ! 下手に扱うとヤンデレ化するのでは? 怖あ!
だいたい、ミーシャからするとその3択かもしれないけれど、私は、私には、もっと複雑な状況がからんでんすよ!!
乙女ゲームのせいで!
「アーシャ、聞いてる?」
「は、はい」
「泣くほど僕と結婚したくないの……?」
「い、いや、その、そういうことではなく複雑な事情が色々絡んでおりましてその」
「僕自身が、嫌なわけじゃないんだ?」
「その、出会ったばかりですのでなんとも申し上げられません……」
「そっか、嫌ではないんだね、安心した~。あれれ? なんかカクカクしてない?」
好きとも言ってませんからね!?
「いえ、第一王子殿下とこのように身近に接するなんて光栄で震えておりまする……」
「そっかー」
「は、ははは……」
「でね、アーシャ、忘れないでね。僕はアーシャの子供じゃないよー」
「はい、そうでした。母親ポジションになろうなど、出過ぎた態度でした」
「そんな事思ってないよ……。でもアーシャ、さっきからなんで敬語なの? それはやだよ。いつもみたいに喋ってよ?」
「わ、わかったよ」
「うん、じゃあおやすみなさい!」
にっこりといつもの可愛い笑顔を浮かべて、ヤツは目を閉じた。
「お、おやすみ……」
これは困った事になった。
まさかミーシャからも逃げなければ、と考えるハメになるとは。
こうなった以上、ミーシャの協力がなければ、まずこの島は出れないだろう。
問題はその後だよなぁ……。
私が思う全てから逃げる事は、可能だろうか……?
ミーシャが嫌いなわけじゃないし、ぶっちゃけドミニクス殿下の妻になるよりかは、めちゃくちゃ結婚条件は良いとは思う。
けど、ヒロインが絶対ミーシャを狙ってくる。そうしたらまたヒロインの乙女ゲームに巻き込まれて私は断罪されるハメになるかもしれない。
そもそも私は随分前から王妃になることからも、逃げたくて準備してきた。
その夢を捨てたくもない。
ミーシャを連れて王妃にならないルートは誘拐にさえならないなら別にいいけど……あの鳥は目立つ。ミーシャの顔も目立つ。絶対バレる。
アレもダメ……これもダメ……。
めんどくさい! 全てから逃げたい!!
「あ、そうだ、アーシャ」
起きてた!?
ミーシャは私の額にキスしてきた。
「おやすみのキス忘れてた。えへへ……ってこの笑い方も子供っぽいよね。もうやめよう」
「そ、そうかな。可愛いし別に良いかと思うけども……おやす……!?」
私も額にキスを返そうとした時、密着するほど抱きしめられて、
「アーシャ。……もし僕から逃げようとしたら……許さないからね……」
ヤツは私の耳元でそうつぶやくと、再び目を閉じた……。
ああああああああ!!
誰か助けて!!!