「お姉さん、じゃあやるよ」
「オッケー」
私達は今、海辺にいる。朝ごはんのあとにやってきた。
海辺と行っても浜ではなくて、岩場。
魚が泳いでるのが見える。
「せーの」
ミーシャが海の中に光を生みだす。それが、魚たちを追い回す。
追い回された魚たちは、私が作り出した闇の中へスルーっと入っていく。
「やた、うまくいった!!」
「わーい、お魚いっぱーい!!」
ミーシャに光で海底を照らしてもらうと、海藻が生えてるのも良く見えた。
彼に、光の刃で海藻を切ってもらい、私が闇でやはり回収する。
「これって海藻サラダとか、スープとか作れるのでは!!」
「ふふ、お姉さん、目がキラキラしてる」
「あ……あはは」
いけない、これではまるで私のほうが子供だ。
闇魔法は倉庫を作れるわけではなく、どちらかというとテレポートの途中一旦そこに物を留める感じなので、長期間は中に物を入れていられない。
あまり急ぐ必要はないが、一定時間以上はアウトプットが必要だ。
まあ、樹の家に帰るまでなら全然大丈夫。
樹の家の下に、ミーシャに大きなテーブルを作ってもらった。
すごいなぁ。木を簡単に切ってくれる。
そして光の刃を使って表面を削り、ツルツルにしてくれる。
組み立ても、慣れてるみたいで誰に教えられたのか、魔力変質で自分の手を魔力で多い、ガンガン叩いてテーブルとその脚を合体させ組み立てる。
「ミーシャ。本当にすごいね。なんでもできるんだね」
「えへへ。ずっとやってきたからね」
そこに魚たちを並べる。
冒険者魔法の鑑定を使って、食べても大丈夫か調べる。
うん、大丈夫そうだ。
包丁が欲しいなー。
そうだ。
「ミーシャ。光の刃をしばらく道具のように出現させたままに出来たりしない?」
「う? できると思うよ」
「えーっと……包丁ってわかる? ナイフでもいいんだけど。そういう形の作れる?」
王子様だからなぁ。
使用人ツールである包丁は、存在は知ってたとしても見たことないかもしれない。
私も闇魔法で一時的包丁は作れるけど、ミーシャの光の刃のほうが切れ味良さそうだからちょっと試してみたい。
あ、そうだ。
こないだのトランクに入ってた紙とペンを私は持ってきて、私は包丁の絵を描いた。
絵はうまくないけど、下手でもないから言いたいことは伝えられる気がする。
「こういうの」
「あ、わかったー! そうだなぁ。えっと」
近くに落ちてたテーブルを作った木材の残りで、包丁の持ち手部分を作り、その先に光の刃をつけて包丁を作ってくれた!
「すご!?」
「えへへ、上手くできたかな」
「期待以上だよ!」
なんだこのチート王子。
私が頼んだこと以上の仕事をして返してくる……。
やっぱ、神鳥が宿るだけあって、優秀なんだな。
私はテーブルで魚を捌いて、闇魔法で一時的に作ったテレポートゴミ箱に魚の頭とかを放り込んでいく。
「おねえさん、すごいなぁ」
「こんなの、なんでもないよ。ミーシャのほうがすごいよ」
「そんな事ないよー」
お互いを褒め合うことになる。
しかし、手が魚臭くなっちゃったな。今度からは闇魔法で闇の手を作ってそれで捌こう……。
そして、僕がいない時使ってね、とヤバいくらい研ぎ澄まされた石包丁を作ってくれた。
すっご。これもうダマスカス包丁かそれ以上だよ……。
「ああ、かまどが欲しいかも」
「かまど?」
さっきの紙の余白部分にまた絵を描いて説明する。
「わかったー。でも火事が心配だから……うーん。お風呂の隣にお部屋つくろうか。料理するとこ」
「キッチン部屋!」
「そう、それ」
なんとキッチン部屋ができた。
今作ったテーブルとは別にそこには石でできた調理台まで作って頂いた。
さらに、頼んでみたらパントリーまで作ってくれた。
……本来、お国のために存在するお方をサバイバルで、こき使ってしまっている。
なんて贅沢というか罰当たりというか。
私はなんとなく、ミーシャの肩の鳥に向かって拝んだ。
手が魚臭くてごめんなさい、神よ……!
神鳥は首をかしげた。
可愛い。
ミーシャがクスっと笑った。
「何やってるの、お姉さん」
「えーっとちょっと、お祈り」
「へんなの~」
きらきら笑顔でイケメンです。うちの子イケメン可愛いかっこいい。
もし将来結婚して男の子とか産んで、こんな子生まれたら、子離れできないぞ……と思ったところで王妃様を思い出した。
王妃教育で王宮へ伺った時、稀に王妃様のお部屋でお茶を出して頂くことがあった。
その部屋にはドミニクス殿下の肖像画がいっぱい飾ってあったけれど、その隅に一つだけ違う男の子の肖像画が飾ってあったのを私は今、思い出した。
あれは……第一王子だろう、とは思ってたけれど、ミーシャだったんだね。
私は少し涙ぐみそうになった。
こんなに可愛いミーシャがいなくなって、王妃様はどんな気持ちだっただろう。
会わせてあげたい。
「お姉さん、どうしたの?」
「あ、ごめん。なんでもないんだよ」
ミーシャに説明するにはどうしたらいいだろう。
何から説明したらいいだろう。
良い案が思いつかないな、まだ今は。
「そうだ、さっき作ってくれたテーブルで、文字の勉強しよっか」
私は話題を変えるようにそう言った。
「うん!」
予想はしていたけど、一回ですぐに覚える。
「これってそういう意味だったんだー」
楽しそうだ。
……いつまで一緒にいれるかわからないけど、これから色々勉強見てあげたいな。
区切りがよくて、授業を終わろうとしたら。
「もっとやりたいー」
くっ……! なんて良い子! ドミニクス殿下なんて、簡単な授業でもすぐ集中力なくなるのに!
本当に兄弟なのか!
というか、知力テストを簡単にしてみたら、やはり幼くとも英才教育を受けてたんだろう、記憶はないけど知識はかなりあった。賢いわけだ。
この賢さなら先取り教育も随分進んでいただろう。
そういえば第一王子は神童だったとか聞いたことがあるなぁ。
「うーん、ミーシャは賢い。ちょっとむずかしい教科書とかがほしいなぁ」
「えへへ、そう? あ、そうだ。拾った本集めてる部屋あるよ。その中にないかな?」
「お。見てみたい」
樹の家から少し歩いた岩壁に、その小さな図書館はあった。
「わ、結構、いっぱいあるじゃない」
「うん、ずっとちょっとずつ集めた。めったに流れ着かないからね」
全部海水に濡れたものなんだろう。
どれもボロボロでなんとか読めるものから、途中から読めなかったりするものも。
残念ながら教科書になりそうなものはなかった。
「あ、絵本がある」
「それ、絵が綺麗で気に入ってるの」
「寝る時読んであげようか」
「……うん!」
前世では親がよく読み聞かせしてくれたのを思い出した。
懐かしい。
これくらいは多分ミーシャ、自分で読めるんだろうけど、人に読んでもらうのはまた違う味だよね。
その後、お昼ごはんは朝とってきて捌いておいた魚をそのまま焼いた。
そう、ミーシャに言ったらフライパンも作ってくれたのだ。
ついでにいうと、鍋もだ。
石だからちょっと重たいけど、魔力変質で筋力補強すればなんてことないし。
光レーザーで表面つるつる。すばらしい。
そしてこの間手に入った小麦とヤギのミルクと野菜でスープを作ってみた。
鶏もいるので卵もある。卵焼きも作った。
この状況で手に入るものにしては、良い食事がとれたと思う。
ミーシャが喜んでたべてくれたから、さらに嬉しい。
なんでも食べる良い子だね。