岩を削るってどうやるんだろ?
でもまあ、とりあえず。
「うん、それでいいよ」
……と答える。
朝食を平らげた後、そのまま岩壁へ。
「このあたりなら樹からまっすぐだから……不便じゃないと思う」
ミーシャが壁に手をついた。
ミーシャの身体が柔らかい光を発する。
ピーーーーーッ、と岩壁に光の線が四角形に走ったかと思うと、その形の部分が粉砕された。
「うわあ!?」
「あ、ごめんなさい。びっくりさせちゃった」
あっという間に岩壁にお風呂にするのにちょうど良い広さの空洞が出来上がった。
断面がツルツルだ……。
「すごい……」
「うん、でも壊した部分のお掃除が大変」
「あ……それなら、私が移動させるよ」
「え?」
私は悪役令嬢のイメージを損なわない闇属性だ。
闇属性は闇を通して物を移動させる魔法が使える。
私の身体が、薄紫に光る。
部屋いっぱいに魔力を展開して、瓦礫を闇に沈める。
部屋の中は綺麗になった。
とはいえ、あとで闇に沈めたものはどこかに捨てにいかないといけないんだけど。
「わあああ! お姉さんすごい!」
「ううん、ミーシャのほうがすごいよ」
お互い褒め合う。
自分ができないことってすごく見えるよね。
ミーシャが続けて、湯船を作ると言う。
神鳥が一瞬、すこし光った気がした。
「えっと、お風呂って……うん、火をいれるところがあって、その上に入るところがあればいいのかな。あと、お湯を捨てるところと……うん、水が運びやすいようにしないとね。……シャワーもほしいよね、どうせなら」
えええ、賢い!
私がその様子をあんぐり見ていると
「あ、今のはね、この鳥さんが教えてくれて……というか見せてくれたっていうか……言うの難しい。たまに困った時にヒントみたいなのくれるの」
その白い鳳凰さんが……なるほど、未来の国王サポートか。生涯サポート手厚い。
そういうと、ミーシャは部屋へ入っていき、向かって側面の壁に手を着いた。
「ん……と」
彼がまた身体を光らせる。
今度は少し難しそうな顔を浮かべてる。
私はドキドキした。
またさっきの光の線――前世でいうレーザーみたいなものが壁に走る。
今度は細かい動きをしている。
すごい。ほんとすごい。
「できた」
「おおお」
私は要らない瓦礫をまた闇に沈めた。
浴槽があらわになる。
なんていうか完璧。
しばらくすると、勝手に水が浴槽に落ち始めた。
聞くと近くの湧き水まで細い穴を開けたらしい。
「これで火を炊くだけでお風呂になるんじゃないかな……っと」
「ミーシャすごいすごい!!」
私は彼の手を取ってぴょんぴょん飛び跳ねた。
いや、本当に感動した!
すごいよこれは!
「いや、僕はすごくないよ……鳥さんが教えてくれたから……」
狼狽してる、可愛い。
「ううん、鳥さんもすごいけど、ミーシャもだよ。ありがとう、こんなすごいもの作ってくれて、とても嬉しい!」
私は、繋いだ手をブンブンした。
ミーシャは、照れくさそうだったけど、笑顔だった。
その夜、私はミーシャに簡単にお風呂の入り方を教えてあげた。
おそらく記憶を失くす前は侍女に入れられてただろうから、自分で洗うってなると、現在の彼には難しいんじゃないかな、と。思って。
あ、ちなみに気になるかなって思うから言っておきますが、デリケートな部分はノータッチでおまかせしました。
今日は石鹸を使った。
石鹸は新品だから、しばらくもつだろう。
そして湯上がり、ホカホカだ!
前世的に言ってコーヒー牛乳かフルーツ牛乳欲しい!
さすがにそれは無理だけど!
「いやあ、さっぱりした!」
樹の家に戻って就寝準備。といってもゴザ敷いたりするだけだけど。
ミーシャは自分の身体の匂いをクンクンしてる。
「……いい匂い。なんだかこの匂い知ってるかも」
「うん、知ってると思うよ。昔、自分のお家で絶対使ってたはずだよ」
王子様だもの。知らないはずがない。
「そっか……」
そう言うと、ミーシャは断りもせず、私を腕の中に抱き寄せた。
う!?
「お姉さんも良い匂い」
「そそそ、そうかな」
よ、幼児、こいつは幼児。幼児幼児幼児。
そして私はこの子の保護者でお母さんだ!!
子供がちょっとでかく成長し過ぎただけだ!!
見た目が成人男性イケメンなもんだから、こういうスキンシップがこの子には必要と思いつつもドキドキしてしまうよ。
「じゃあ、お姉さん。おやすみなさい」
額にちゅっとキスされて、そのまま一緒に横にされる。腕枕されてませんか、私。
絵面は、まるで恋人同士だよ!
しかし、彼は純粋な笑顔だ……私の心は汚れている! 私は汚い大人!!
「……お姉さん?」
「お、おやすみなさい」
私は彼の額にキスすると、ギュッと目を閉じた。
しばらくすると、彼の寝息が聞こえた。
安心した顔で寝てる。
……すこし慌ててしまったけど、こんな顔で眠ってくれるならこの状況も悪くはないか。
そのうち、慣れたら一人で寝るだろう。
……私も、温かいこの腕の中で眠るのは、とても安心できる事に気がついた。
思えば無人島のサバイバル生活に一人で立ち向かわなきゃ、と思ってたところにこの大きな味方。
幸運すぎる。
彼に出会わなければ、今頃どこかで一人で夜を迎えて、いつくるかわからない魔物に警戒しながら眠れないでいたかもしれない。
……一人じゃないんだ。少なくともしばらくは。
あ、少し泣きたくなってしまった。
その時、少し離れたところにいた白い鳳凰がバサ、と私の枕元へ飛んできて、少し頬ずりするとまた元の場所に戻った。
「…………」
神鳥は私の抱えている様々な不安に気がついたのだろうか。慰められた気がする。
神鳥に見守られ、彼の寝息を聞いていると、そのうち私はまどろんで、眠りに落ちた。