「……う!?」
朝起きると、私に抱きついて寝ているミーシャの顔が私の胸の谷間だった。
むにゃむにゃ、と幸せそうな顔で寝ている……。
くっそ! 中身が幼児だと思うと、怒れない!
こいつが将来、成人男子として精神的に成長し、王子に戻ることがあったら、ぱふぱふ代金(謎)を頂いてやる……!
だいたい、実年齢はこの子のほうが私より、上のハズ。
第二王子が私とタメだから。おそらく1歳上。
……そんな人を子供扱いして、変な感じだ。
私は寝床を抜け出して、制服のシャツとスカートに着替えると、顔を洗いに外へ出た。
私もズボンほしいな……やっぱ、一着もらおう。
ミーシャの樹の家から一番近くの湧き水へ向かう。
タオルもゲットしたし、顔洗うのが楽しみ。
「~~♪」
鼻歌歌いながら、ルンルンと湧き水へ向かう。
そういえばお風呂も作りたかったんだ。
あとでミーシャに相談しよう。
じゃぶじゃぶと顔を洗って、顔を拭く。
「気持ちいい……」
こんな、なんでもない事を幸せに感じられるなんてね。
その時ガサガサ!と大きな音がした。
「!?」
私は警戒しながら振り返ると――涙でいっぱいのミーシャだった。
ミーシャは泣いていた。
「う……」
「ミーシャどうしたの?!」
「おねえさああああん!! 良かった! どっか行っちゃったかと思った!!」
ドッ!!
「ごふ!」
成人男性が思いっクソ抱きついてきた!! そして押し倒された! ずっしり重たい!!
抱きつくのはいいけど、タックルすんな! 成人男子!! ……って言いたい! 言えない!!
私は倒れる際に魔力変質――魔力を使って筋力を補ったり、ダメージを軽減する技を使って自分を守った。
……そしてまた胸の谷間に顔突っ込んでるよこいつ!!
わざとやってるんじゃないでしょうね?
ミーシャに限ってそんなことはないと思うけど!
畜生、将来絶対パフパフ代ry
「あ、あー……えっと。起きたら私がいなかったからびっくりしたんだね。大丈夫だよ、黙っていなくなったりはしないから」
私はミーシャの頭をなでた。
「うん……」
ぐすぐす泣いてる。
うーん、まだ出会って間もないのに、この懐きよう。
人恋しさがヒートアップしている。
王宮に……王妃様のもとへ返せたらいい、かな?
王妃様は厳しい方だけれど、ドミニクス殿下にも温かい対応をしていた。
心底は温かい愛情をお持ちの方だ。
しかし、いまさら王宮へこの子を戻したら……どうなる?
神鳥を降臨させてるこの子は確実に王太子になる。
そうしたらドミニクス殿下は納得するだろうか?
派閥は?
……うわー考えたくない。 王宮は絶対に混沌とするぞ……。
だからと言って……私が連れてどこかで隠して住むというのも誘拐に当たる……。
そしてそこまでの義理もない。
そして、私にも事情がある。
この子を連れて帰ったら、一度公爵家へも戻る羽目になるに違いない。それは困る。
私はもうこのまま海外逃亡したいのに。
婚約破棄の件もあるし、一度国に戻るとなると、その後の自分の身がどうなるかわからない。
誰かにミーシャを託せたらいいのだけど、この島にいる奴らは信用できるヤツいない。
「ところでミーシャ。ほら、泣いちゃったらイケメンが台無しだよ、ついでだから顔洗おうね」
「イケメンってなに?」
「あー……。うん、ハンサムってことだよ」
「あ、それならわかる。僕ってハンサムなの?」
「うん、とっても」
「そっかー。えへへ……。あ、ごめんなさい。また酷い抱きつき方して……怪我しなかった?」
ようやく剥がれ……じゃなかった離れた。
「大丈夫だよ。お姉さんつよいから。さ、顔洗いなさい」
お姉さんというより、もう気分はお母さんになってきたけど。
洗顔を終えて、朝ごはんを準備した。
大体果物だ。
魚や貝を取りに行くかなぁ。
そうだ、食べながらお風呂の相談しよ。
「えっとね、お姉さんお風呂作りたいんだけど」
「お風呂?」
「うん」
「滝壺のとこで水浴びするのじゃだめなの?」
「それでもいいんだけど、たまには湯に浸かりたいなって」
「ふうん……ふふ」
「ん?」
「そういうの作るってことは、長く一緒にいてくれそうだなって」
ミーシャが頬杖をついて微笑む。
くそ、イケメンめ。
「だって、最終的には船を作らないといけないかもだし……長期戦になるかな、とは思ってるよ。お姉さんは」
「お船かぁ……」
「前にも言ったかも知れないけど……もし、その時に君が島を出てもいいなら、とりあえずは一緒に行こうね」
「……うん!」
ミーシャは嬉しそうに頷いた。
「ところでお姉さん、お湯が湧いてるところはあるよ」
「え、それって温泉があるってこと?」
「うん、そう」
「へえ! そっちはそっちで行きたい。でもやっぱりお風呂場は作りたいんだ。この樹の下とかに小屋たてて、お風呂場つくってもいい?」
「それって火を使うよね。ちょっと火が心配。……うーん。じゃあこの樹の向こうに岩壁があるでしょ。あそこに穴をあけてあげる。岩を削ってお風呂つくろ?」
……森の火事を心配している!
賢い!
しかし、岩を……削る?