私が考え込んでいると、ミーシャが言った。
「おねえさんは、この島にいつまでいてくれるの?」
「えっ」
――そうだ。
彼の事情はともかく、私はこの島を脱出しなくてはならない。
「うーん、そうだね。色々と準備して航海に出れそうだなーって思ったら行くかな」
「そっか、そうだよね」
さびしそうだ。
私は少し思案した。
「ミーシャはこの島出たい?」
「え……。どうだろう、わかんない……」
「そっか。そうだよね。うん、わかった。じゃ、私が出発するときにもう一度、一緒に行くか聞くね。もしその時、島を出たかったら連れて行くよ」
「いいの?」
ミーシャは頬を少し赤くして目を輝かせた。
冒険したい小さな男の子のような顔だ。可愛いな。
「うん。でもね。海は海で魔物がいるし、危ないと思う。ここが人間が住む場所からどれだけ離れた孤島かわからないし……危険を考えると君を連れ出すのもどうかなって思いはするよ。君はどうやらここでも十分幸せそうに暮らしてるみたいだし」
「あ、うん。でも……」
「ん?」
「さびしく…て……あ、ごめんなさい、僕男の子なのに……こんな、泣いて……」
そうだよね。幸せであっても、ここには誰もいなかったんだものね。
よくも気が触れず、こんなまっすぐ純朴そうに生きてきたものだ。
私は彼の頭に手をやり、軽く肩を寄せるように抱き寄せた。
身体は成人していたとしても、彼の心は小さな子供のままだ。
「うん、よくがんばったね。君はすごいよ。そしてこんな場所だもの。寂しくて当たり前。性別は関係ないよ。泣きたかったら泣いて良いの」
「お……おねえさあああん!!」
ミーシャはしゃくりあげて泣き始めた。
また胸に顔を埋められたが……まあ、許す。
ミーシャはそのうち、泣きつかれて寝た。
私はそっと彼を寝かせて、自分の制服の上着をその上にかけてやった。
しかし、えらいことになった。
この子はこの島から連れ出してもいいけど……。というか、王国へお連れする義務がある。
しかし今更、王子に戻るなんてできるの?
この国の成人は15歳だ。
私が今、15歳。なら、彼は多分16~17歳前後のはず。
本来なら専門的な事を学ぶ高等部へ通う年齢。
彼が船の事故で行方知らずになったのは、確か6~7歳頃のはず。……10年の空白か。
ミーシャは賢い子だけど、王国へ帰ったらかなり勉強が山積みになるな、可哀想に。
とりあえず、脱出に必要なものは二人分用意しようか……。
あと、あいつら……ドミニクス殿下たちと遭遇することになった場合。
ミーシャを見たらドミニクス殿下は第一王子だと気がつくかもしれない。
奴はポンコツだけど、なんせミーシャの肩には神鳥がいるのは、大ヒントだ。
うん、絶対気がつくな。
そうなった場合……ドミニクス殿下はミーシャを殺そうとするかもしれないし、またヒロインのサンディがどう動くのかが怖い。
ちなみに、ドミニクス殿下よりミーシャのほうが、容姿は上だ。
こんな生活しているせいか、身体もすごく引き締まっている……正装させた絵姿を販売したら飛ぶように売れるだろう。
そんなミーシャが第一王子だと知ったら、あの腹黒ヒロインのことである。
ドミニクス捨ててミーシャに擦り寄りその婚約者の座に収まろうとする可能性もある。
いや、絶対やる。
あ。ドミニクス捨てるっていうより、ミーシャをハーレムに入れるかも。
「……」
明日、実はミーシャの髪を少し整えてあげようかと思っていたが、やめた。
ボサボサのままでいい。
ヒロインのサンディに目をつけられないようにしないと。
……あれ、それはそうと、第一王子の名前ってたしか……ジェフェリー……だったかな。
ミーシャ、とか全然違ってたな。まあいいか。
「あ、いけない。そろそろタイムリミットだ」
私は自分の頭上に闇魔法で闇を広げた。
闇の中から、にゅ、とトランクが一つ出てくる。
船で断罪されるのを想定して逃げるための準備をこのトランクにしておいたのだ。
そう、これを取り出すためにもドミニクス殿下達とは離れる必要があった。
この魔法は、どちらかというと、闇魔法のテレポート技の応用なので、倉庫として使うには一時的でタイムリミットがある。
移動の間一定期間、物を留めておける、という感じ。
だから、たまに更新の意味で闇空間を作り直す必要もある。
私はトランクを開けた。
うーん、ほとんど宝石やお金になるものばかり、なんだよね。
必要なものはあとで買えば良いと思っていたから。
でも、インナーとか着替えは1~2組いれておいた。
その他にも一般的に旅行で持っていきそうなものはだいたい。
着替えはとうぶん、いま着てる制服だけでなんとかしよう。
破れたりどうしようもなくなったら、新しいのおろそう。
インナーだけは耐えられそうにないので、取り出して着替えた。
あと、ヘアセット類と歯ブラシ。フェイスタオルはだした。
明日の朝使おうっと。
「さて、寝るかな」
その夜は、私はせっかく貸してもらったベッドは使わず、たまに鼻をすすってるミーシャの横で転がり、頭を撫でながら眠った。