その言葉を聞き、祖父は続けて言った。
「颯玄、一口に武術と言ってもいろいろある。お前は先日まで知念先生のところで関節技や投げ技などを教わった。わしのところでは突きや蹴りといったことをしっかり教えたつもりだ。武術家を名乗るならば、いろいろな戦い方を知らなければならない。ここでも教えることはできるが、別の視点での修行は大切だ。そういうところから言えば、互いに武器を持って戦う場合もある。琉球古武術としては棒や釵などを用いた武技がある。だが、まず武術としての身体の使い方が基本であり、だからわしはお前に身に寸鉄を帯びずに戦う術を習得させた。だが、武者修行となれば武器を使う相手と戦うこともあるだろう。お前の主力は空手だ。文字通り、手には何も持たない状態での戦いになるだろうが、場合によって新たに武技を使う武術の修行が必要になる。武器には武器でということの必要性も感じるだろう。そういうことも含めての武者修行となるが、そこはお前自身で考え、歩いて行かなければならない。・・・できるか?」
「できる。というより、俺はそう決めたんだ!」
颯玄は即答した。先ほどと同様に力強い言葉だった。祖父が話ししている段階で、気持ちがさらにしっかり固まっていたのだ。
「・・・そうか、分かった。お前はこれまで何度も滝行に言っているが、今回の場所は幾多の先人が心を鍛えたところだ。だから、お前も何かを感じるだろうと思っていたが、わしが思っていた通りの答えだった。・・・ところで、今、時間は?」
不思議な表情になる颯玄。なぜ今、時間のことが話題になるのかが分からなかったのだ。言われるままに壁の時計を見たが、針は10時を指していた。祖父もその時間を確認した。
「ならばもうそろそろだな」
祖父は独り言のように呟いた。だが、颯玄にはその言葉の意味が分からない。祖父はそう言った後、何もしゃべらない。
するとすぐに一人の来客があった。颯玄の後ろから入ってきたのですぐには誰か分からなかった。
「遅くなりました」
その声に振り向くとサキだった。