「わしが聞きたいのはそういうことではない。身体のどこに効いたか、ということだ」
「股関節です。サキの技もそうでしたが、股関節が捻じ切れるような感じがして、思わず姿勢を崩してしまいました」
「そうか、では、もう一度、同じように蹴ってみなさい」
祖父がそう言うと、宮里が蹴った。そして、また同じように掬い受けで対応した祖父は、同じように見える動きで対応し、宮里も同じように地面に手を着いた。
しかし、何かさっきと様子が違う。颯玄とサキ、そして真栄田の3人がその様子に気付いていた。もちろん、技を掛けられた相手が一番分かっているので、祖父はまだ地面に座っている宮里に尋ねた。
「さっきと何が違う?」
「はい、今度は膝関節が捻られた感じでした。膝から腰、そして全身が崩されるような感じでした。先生、どういうことですか?」
宮里のその言葉を聞いていた颯玄たちは、その言葉で感じていた違和感の正体に気付いた。
「捻られた場所が違うから、宮里さんがさっきと違う感覚を感じたのですね」
颯玄が言った。その言葉に祖父は質問で返した。
「では颯玄、お前とサキさんは知念先生のところで掬い受けの解釈として教わってきたわけだから、技の要領としては何が違うと思う? 考えたことを言ってみろ」
そう言われても、という表情の颯玄だったが、問われて答えられないというのはみっともないと思い、考えた。その上で言った。
「力加減ですか?」
その答えに祖父は少々がっかりした表情だった。その時、サキが言った。
「先生の両手の動かし方がちょっと違ったように見えました」
「ほう、どんな風に?」
「最初の技の場合、かかとに触れていた手はあまり動かさず、つま先側の手は足を中心に回しているように見えました。でも2番目の技の場合、かかととつま先側の手の動かし方は足の真ん中付近を中心に回しているように見えました」
「そうか、そう見えたか」
「真栄田、颯玄、どうじゃ」
「そう言われればそう見えました」
2人はほぼ同時に言った。そのことで互いに目を合わせたが、サキの言葉で引っかかっていたことが解けたようだった。
「目と感性はサキさんのほうに一日の長があるようだな。颯玄、知念先生のところで、この技を教わった時、下肢の中心軸という言葉が無かったか?」
そう言われた颯玄は思い出したような表情になり、サキのほうを見た。サキもその時、頷いていた。
「そこから分かるように、武術の技というのはちょっとした違いで効果も異なってくるんじゃ。これから教える技についても、そういうつもりで考え、やりなさい」
祖父はそう言って正整に出てくる動きの中から道場生に選んでもらい、そのことについて説明し、数をこなしたが、細かな稽古になったため、結果として2種類しかできなかった。