「今の技、どうにも抵抗できなかったよ。出稽古の甲斐があったな。完敗だった」
そいう宮里の感想を聞き、サキは思わず微笑んだ。
「でも、宮里さんの蹴りも鋭かった。実は知念先生のところで、いろいろな攻撃の方法と想定した稽古をやっていて、変則蹴りについても教わった。もしそうでなかったら、多分やられていた。やっぱり本気の蹴りというのは稽古とは違います」
「いやいや、そう言ってもらって、俺も嬉しいよ。でも、今の技、形にもあるよな」
「はい、
「そうか、良いことを教わったな。今の話は勉強になった。俺も形を見直し、いろいろ研究してみよう。ありがとう」
宮里は謙虚に言った。
「2人とも、良かったぞ。宮里、これで空手をより深く学ぶことができるな。みんなも同じ意識になったと思うが、こういうことを経験に大きくなって欲しい」
「先生、形に出てくる動きの意味を教えてください。今、俺が経験したこと、すぐに自分の空手に役立てたいです」
宮里が祖父に言った。その表情や目には真剣さが宿っており、祖父は嬉しそうに微笑んだ。
「そうか、では今日の稽古は形の解釈ということにしよう。その前に一言言っておくが、形の稽古の目的には技の伝承もあるが、武術に出てくる技をきちんとこなすだけの基礎となる身体作りという目的もある。これまでわしは、形の稽古の時に細かなことを言ってきたが、それを武術の技として用いる時の基礎作りの意味があった。幸い、今日来ている者はそれなりに稽古しているので、宮里の希望を聞こう」
「では先生、今、正整の形のことでしたので、その中からお願いします」
そう言ったのは真栄田だった。颯玄が初めて組手をやった時の相手で、その時の颯玄は子供のようにあしらわれていた。
だが、この日のサキの様子を見て、一緒に出稽古に行っていた颯玄の成長も理解した。今見たのが正整の中に登場する技だったので、同じ形に関して深く知りたいという思いが出てきたのだ。
祖父はそういう真栄田の心を読んでいた。
「うむ。では、今サキが使った掬い受けから稽古しようか」
そう言うと、祖父は先ほど技を掛けられた宮里に同じように足刀横蹴りで攻撃するように言った。宮里は言われた通り蹴ると、同じように下肢を捻られ、先ほど同様、両手を地面に着いた。
「今の技、どうだった?」
祖父が宮里に聞いた。
「同じような感じで抵抗できなくなりました」