その際、少しでも踏ん張れればと思ったが、前足のところに知念の足がある関係で動かせず、そのまま耐え切れなかったというわけだ。
「サキさん、見ていてどうだった?」
「颯玄の身体の自由が奪われているような感じでした。土台となる下半身は強いと思っていたけれど、ちょっとしたことで崩されるんですね」
「うむ、颯玄君はどうだった?」
「サキが言った通りです。これまでのように受けられた時は柔らかい感じでしたが、それで何の反応もできずに、気が付いたら技がかかっていた。昨日教わった技にしても今の技も、変に力んだりしてはいけないんですね」
「そうだ。関節技や投げ技というともつい力んでしまうことが多い。だが、そうなれば余計に相手の反発を招き、さらに力むという悪循環を生む。それを感じるのは皮膚感覚だからなので、接触しているところではいかにそういう感覚を発生させないかが大切なんだ」
「でも先生、それでは筋力に差がある場合、技を掛けるのは難しいのでは?」
サキが質問した。女性として、男性に比べて筋力が落ちるゆえの懸念だった。
「心配するのは分かる。サキさんは男女の身体の基本的な違いからそう考えるだろうが、わしが見る限り、そこら辺の男よりもしっかりした筋肉がついている。それはこれまでの稽古の賜物なのだろうが、同じように鍛錬していればどうしても男のほうが筋力的にも強くなっているだろう。わしは技ができればどんなに筋力の差があろうと大丈夫ということは言わない。関節技や投げ技にも最低限必要な筋力というのはあるし、それが無ければ技は掛からない。だが、人の身体の使い方というのは、ちょっとした気持ちの隙などで本来持っている筋力の使い方ができないことがある。武術というのは、そういうところを逃さず活用しているため、小が大を倒すことができると考えている。現在のサキさんならば、今の自分よりも3割から5割程度の筋力差があっても、そのコツを習得すれば立派に技を掛けられると思う」
知念は微笑みながらサキに言った。
「サキさん、今度は今の技を颯玄に掛けてみなさい。全体的な動きを今見ていたので何となく分かるだろうから、問題点の部分だけ助言する。勘どころが良いようなので、思っているよりも早くカタチになるのではないかな」
そう言われたサキは、心なしか表情が緩んでいる。知念の言葉が嬉しかったのだ。